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それも愛これも愛

承太郎の武骨な指が、DIOの柔らかな乳輪を揉みしだく挙動はといえば、やたらめったらに繊細なのである。白い肌との境目をそっと撫で上げながら、弧を描くようにふにふにと中心部へ向かってゆく。しかし真ん中で鎮座する小さな尖り、乳輪よりも一段トーンは濃いものの、やたらに可憐な色をした乳首には精々、側面を掠める程度で本格的には触れようとはせず、今度は外側へと向かってふにふにくるくると乳輪を愛撫しだすのだ。
そうした行為を小10分程続けている承太郎である。後ろから抱え込んだDIOの、ドライヤーで乾かしたばかりの金髪の中に鼻先を埋めながら、ひたすらふにふにと乳輪を揉みしだく。一日の終わりの、至福の時間であった。
「……おぉい、承太郎……?」
「なんだ」
「……何が楽しいのだ、お前は?」
たまらないのはDIOである。別に、承太郎に触られるのが嫌だというわけではない。むしろ承太郎が自分に夢中になっていると思えばいい気分にもなるものだし、大きな体に目一杯抱き込まれる時間というものは、DIOにとっての至福の時なのだった。承太郎本人に言ったことはないのだが。
しかし、決定的な快感を与えられるでもなくただひたすら乳輪を揉みしだかれ続けるこの10分間というものに、短気なDIOはそろそろ飽きを催し始めているのだった。せっかくベッドの上でくっついているのだから、セックスしようぜセックス!突っ込むもん突っ込んで天国まで飛んでいっちまおうぜ!DIOの本音である。
DIOは頭のてっぺん辺りに埋まった承太郎の顔を振り払うように頭を振り、肩越しに承太郎を睨みつけた。熱っぽい眼光には、あからさまな情欲が滲んでいる。しかし承太郎は、そんなDIOの訴えを無視するように、今度は無防備な首筋へと鼻先を埋める。そうして再びふにふにと、乳輪へと指を這わすのだ。
「おい……承太郎、おい」
「痛ぇぞ。髪引っ張んな」
「もう大人しくしているのにも飽きたのだが、承太郎」
「俺はまだ飽きてない」
「わたしは飽きた。背中に当たってるものを、早くわたしに寄越すのだ。というかお前、さっきからひたすらわたしの乳を揉んでいるだけだろう……なのにどうしてこんなに硬くなってるんだ承太郎……」
「そりゃあ、てめーの乳揉むのが興奮するからだろう」
「おい変態」
「人の童貞無理矢理食っていきやがった変態にゃあ言われたくねー」
「あれは、いつまでたってもお前が手を出してこないから――ん、」
乳輪を撫で回すばかりだった指先が、不意に乳首の上に乗り上げた。そのまま数度、指の腹でそっと擦るように愛撫する。DIOの鼻から抜けるような息が漏れた。しかしその吐息には性感を刺激された甘やかさではなく、くすぐったさに耐えるような、色めいたものとは少々違った雰囲気がある。承太郎は摘まんだ乳首をやわやわとこねくり回しながら、億劫そうに顔を上げる。視界に飛び込んできたDIOの肌には、確かに少々赤味が差しているものの、それはほんのりと色付いているという程度であって、承太郎が期待するものとは程遠い。承太郎を見返す、DIOのにやにやとした笑顔には、未だ多分の余裕が滲んでいる。
「残念だったなぁ、承太郎。わたしは、女ではないのだから。そのような場所で感じたりはせんのだぞ、ふふふ、承太郎よー」
「……いやむしろ、お前他んとこはどこ触ってもひゃんひゃん喘ぐくせになんでここはさっぱりなんだ?割とメジャーな性感帯じゃあねぇのかよおい」
「そうなのか?穴と棒さえあればセックスはできるじゃあないか」
「……なんか萎えるからそういう物言いはやめてくれ」
「純なことで結構だ」
承太郎を鼻で笑いながら、DIOは体を反転させる。胡坐をかいた承太郎の足をまたぎ、自らの胸元に黒髪の群生する頭を抱え込む。そしてつむじを目掛け、ちゅっと軽く唇を落とすのだ。承太郎なる男への愛情にほろほろと蕩けたDIOの表情は、がっちりと抱き込まれている承太郎本人には見ることができないのだった。
「舐めてみるか?」
「いいのか?」
承太郎が強引に顔を上げる。爛々と輝く緑の瞳には、ある種の無邪気さが滲んでいる。咄嗟にDIOは、うわぁ、と独り言のように呟いた。承太郎の太い眉が、不機嫌に顰められたのは言うまでもない。
「……自分で言い出したくせになんだよその顔」
「目が本気過ぎて気持ち悪い」
「うるせぇ馬鹿。オラ、手ぇ離せ。そんでさっさと乳見せな」
「承太郎よ。男の乳首相手に必死こいている己の滑稽を客観的に見ることはできんのか、承太郎よ」
「そりゃあ、必死にもなるだろうぜ。なんせ――……、」
「なんせ、なんだというのだ」
「……なんでもねぇよ」
「……ん、」
ぞわぞわ、と燻るようなこそばゆさが、DIOの背筋を走ってゆく。口振りの割にやたらとそぅっと伸ばされた承太郎の舌先が、やはり妙に繊細な挙動で以てちろちろと、淡い色をした乳頭を擽るのだ。微かに勃起した小さな尖りの形を確かめるように、何度も何度もそっと、そっと。
「……んん……」
己の乳首が承太郎の舌によって勃ち上がってゆく様子を、唾液に塗れててらてらと濡れてゆく様子を、そして一心不乱に乳首を舐めまわす承太郎の様子をしばしぼんやりと眺めていたDIOは、やがて小さく溜息をついた。その箇所への刺激は、やはり特別に気持ちがいいということはなかった。しかしなにやら必死に己の乳首にしゃぶりついている承太郎の姿を見ていると、生温い愛おしさばかりが沸いてきて、じんわりと体の芯の辺りが熱くなるばかりだったのだ。――わたしはこの男が好きでたまらんのだな、とDIOは思った。一秒後には、甘ったるい感傷に浸りかけた己を誤魔化すべくぶんぶんと首を振った。そして八つ当たりをするように、胸元に抱き込んだ承太郎の頭をがしがしと撫でるのだ。ちらりと視線を傾けた承太郎を、DIOは憮然とした顔で見下ろした。
「……よくないか?」
「……よくない。もっと激しいのがいい、わたしは」
「根気よく続けりゃ、すげぇことになるらしいぜ、これ。服擦れただけで勃っちまうんだと」
「貴様はこのDIOを、服がこすれただけであんあん喘ぐ変態にしてしまいたいのか」
「元から変態みたいなもん、ん、」
DIOは強引に承太郎の頭を掴み上げ、乱暴にキスをした。そのまま承太郎を押し倒すようにベッドの上に倒れ込み、硬く勃ち上がった承太郎の陰茎へと自身のそれを擦り付ける。承太郎は、観念したように苦笑した。

「ま――今日しか時間がないってわけでもねぇからな」
「……なにやらむきになっているようだが、貴様、承太郎」
「……いいや、別に?」
「……?」

少しばかり、眉尻の下がった承太郎の顔。お前は腹の中に何を溜めこんでいるのだ。DIOの赤い唇を突いて出かかった質問は、その瞬間を見計らったようにぎゅっと抱き込まれてしまったことで、あやふやにされてしまったのだった。





「――っ、」
じん、と胸元を駆け抜けた鋭い刺激に、DIOの両肩がぴくりと跳ねた。そして、慌てて背後を窺った。振り返った先には、ベッドの半分を占領してくうくうと眠りこける承太郎がいる。未だ目覚める様子はない。ほっと息をつきながら、正面に向き直る。そして恐る恐る自らの胸元を見下ろして、薄手の衣服を押し上げるようぷっくりと膨れた乳首を確認するやいなや、今度は深い深い哀愁に満ちた溜息を吐き出したのだった。
「……ぅぅぅ……うぅ……」
本心を言えば、今すぐにでも承太郎を叩き起こして顔面に拳の一発でもくれてやりたかった。しかし承太郎を起こす、ということはつまり、ちょっと服が擦れてしまっただけで見る見る間に勃起してしまった自らの乳首を承太郎の眼前に晒してしまうことと同義であって、それだけはいけない、何か良くないことが起こるに決まっている――性的な意味で――そんな確信が、DIOに承太郎への腹癒せを思い止まらせている。
「う……うぅー……」
ほんの数10分前まで、他でもない承太郎にいじり倒されていた箇所である。他の箇所への愛撫もおざなりに、なめられしゃぶられ甘噛みされて、いざ性器の挿入を果たした後になっても、激しいゆさぶりの最中執拗にねぶられ噛まれて吸引された。そうされるようになった当初はじりじりとむず痒かっただけだったはずなのに、5回、6回と回数を重ねるにつれ、そこは明らかに性感帯として働き始めている気配がある。片方をきつく吸われ、もう片方を摘まみ上げられながら至った、数10分前の絶頂、視界が真っ白に眩んでしまわんばかりの強烈な快感を生々しく思い出し、DIOは顰め面のまま赤面した。
「……うぅううぅ……!!」
そして頭を抱え込み、ベッドの端で項垂れる。その間も、服を着る際に擦れて勃ち上がった乳首の疼きはまったく収まってはいなかった。
――DIOは決して、淫らな行為に浸ること自体が嫌なわけではない。元々淫奔な性質である。しかしこれまで特に誰にも触れられることのなかった、乳首、胸筋の上に申し訳程度に乗っかっているその器官への刺激で体を火照らされてしまうことが、とにかく恥ずかしくて恥ずかしくて、嫌で嫌で仕方がなかったのだ。そこは女の性感帯だ、という認識による羞恥心もあれば、承太郎という男に体を作り変えられでもしているような、屈辱交じりの気恥ずかしさもある。

(こんなはずではなかった。あのなりで女との経験もまだな承太郎を、わたしが好きに弄んでやっていた筈だったのに。な、なにゆえこのような事態になったのか?こんなはずでは、こんな――)

――どこに吐いたものかも分からない不満をぶつけるように、豊満な金髪をがしがしと掻き毟っていた、その時である。
「――……ひっ、~~!?」
乾いた布に染み込んでゆく水のように、じわじわと自己主張を続けていた乳首の熱が、不意に鉄砲水のような勢いでDIOの全身に広がった。反射的に背筋は反っくり返り、上擦った声が漏れた口元から涎が垂れた。ぐだぐだととぐろを巻いていた思考は一瞬にして弾け飛び、DIOは放心したまま硬直する。背後からDIOの乳首を摘まみ上げた承太郎は、そんなDIOの様子など知ったことではない、と言わんばかりの傲慢さで、衣服の上からその箇所を指の腹で転がした。ころころふにふにと執拗に。
「ぁ、あ……!?」
「なんつーか……本当に服擦れたくらいでこんな硬くなっちまうところ見ると、さすがにちょいとびびるな」
「おぉおまえぇ、じょぉたろぉぉ!寝ていたのではなかったのかきっさまぁぁっ、あっ……あ、ひっ……!」
「隣でお前にうーうー唸られてちゃあ、気になって気になって安眠なんかできやしねぇぜ」
「やっ、ぃ、つ、つねるなっ、ばかものッ」
「好きだろ、こうされるの」
「ひッ……~~!!?」
一際ぎゅう、と強く抓られた拍子に、とうとうDIOの体は背後へと崩れ落ちる。すっかり熱を孕んだ体をしっかりと受け止めて、承太郎は尚も硬く尖った乳首を弄ぶ。DIOは、まるで勃起したその箇所を見せつけるように胸を反らしながら、ただただはーはーと荒い息を吐いている。蕩けてゆく脳裏に浮かぶ言葉とはただ一つ、『こんなはずではなかった』、その一言である。
「おっ勃ててんなら、ちゃんと俺に声掛けろよ。もったいねぇ」
「お、おかしい……おまえ、なにか、おかしいぞ、じょぉたろぉ……ッ、ん、……」
「そりゃあ、おかしくもなるだろう。なんせ――……」
「……なんせ、どうしたと、いうのだ」
「……なんでもねーよ」
「~~っ!!?」
一段低い声を吐き出した承太郎の唇が、前触れなくDIOの乳首を啄んだ。そして丸めた舌先で、硬くなった乳頭をちろちろと擽るのである。その間も、もう片方には爪の先で潰されるような愛撫が加えられている。たまらずDIOは天を仰ぎ、承太郎の衣服の端を握りしめた。赤い瞳にはうっすらと涙が滲んでいる。
「そんなにいいのか。服の上からってのは」
「し、しるものかぁっ、このDIOがっ、この、DIOがぁ!」
「おい、見てみろよ。なんかエロいことになってるぜ」
「あ、ぁ……」
無意識に視線を下に落としてみれば、舐めしゃぶられて濡れた衣服はぴったりと胸元に張り付いて、中心には少々体積が増した感のある乳首が浮いている。薄く笑んだ承太郎が、見せつけるようにぴんと指先でそこを弾く。暴力一歩手前の強烈な快感に、DIOはぎゅっと目を瞑り、唇を噛みしめた。真っ赤に染まった頬の上を、透明な涙が静かに流れて行った。
「…………」
そんなDIOの様子を目の当たりにして、承太郎は興奮した。勃起した乳首に今すぐ性器の先端を擦り付けてやりたいなんてことを思う程に、とてもとても興奮した。しかし承太郎の脳内でじんわりと勢力を増してゆく罪悪感が、その衝動を寸でのところで押し止めている。DIOにしてみれば、ただ快感をやり過ごすために目を瞑った拍子に溢れたというだけの、大した意味もない涙である。しかししんしんと涙を流すその姿とくれば、らしくもなくやたらめったらに儚げであったのだ。
「……なんつー泣き方しやがるんだ、てめーは」
「わ、わたしは、泣いてなどいないっ」
「泣いてんだろうがアホ、ああくそもう、今更んな初心ぶって泣かれても……」
「……承太郎?」
「――くそっ」
「おあっ!」
DIOを横抱きに抱えたまま、承太郎はシーツの上に転がった。2人分の体重を受け止めたスプリングがぎいと軋み、そして沈黙である。居心地の悪さを誤魔化すように、承太郎はきゅっとDIOの体を抱き締めた。DIOは尚もはぁはぁと息を零しながら、もぞもぞと身を捩る。

「……承太郎、当たっている」
「……お前もなんか、きつそうだが」
「……」
「…………するか?もう一回」
「……付き合ってやってもいいが、吸うなよ。抓るなよ」
「……善処はする」

吸われたし抓られた。
事が終わった後、すっきりとシャワーを浴びたDIOは、いの一番に承太郎の背中を蹴り飛ばしたのだった。





「……おいDIO、なんだこれ」
そろそろ日付も変わる頃。今日も今日とて承太郎の膝の上に乗せられて、衣服をたくし上げられるDIOである。しかし今日は、昨日までとは少し状況が違っていた。怪訝そうに深まってゆく承太郎の眉間の皺に、DIOはいくらかの後ろめたさを抱く。ゆっくりと向けられた承太郎の視線から逃れるように、あさっての方向へ顔を背けた。
「ジョ――ジョセフのじじいがな。貼ってくれたのだ」
「じじい?」
ぽつりと零された祖父の名前に、承太郎の目が益々訝しげに細まった。DIOはぼそぼそと、空条の家を訪れるついでにこっちにも寄ってみたのだそうだ、と前置きをする。そして本日の夕方、今も2人が身を寄せ合うこのリビングにて、ジョセフとの間にあったことをぽつぽつと語り出したのだった。
横顔と――それから、乳首を覆い隠すように2枚ばかりの絆創膏が貼られた胸元に、痛い程の視線を感じながら。

『……おいDIO、なんとかならんのか、それは。目のやり場に困って仕方がないぞ』
『は?何の話だ』
『だから、お前の……』
『言いたいことがあるならはっきり言え。気持ち悪い』
『事を言うに欠いて気持ち悪いだとこの野郎!?ならはっきりと教えてやるが、お前の、その、びんっびんに浮かんでおる乳首!なんじゃそれはみっともない!!というか言われるまで気付かんかったのか、このあばずれめ!!』
『はあ!?貴様一体誰をあばずれ呼ばわり…………、……!』
『承太郎がおらん隙に一人遊びでもしとったのか!』
『ち、違う!!その承太郎のせいで、わたしは、わたしは!このようなはしたない体になってしまったのだぞ!!』
『……何の話をしとるんじゃ?』
『だから、承太郎のせいで、わたしは、わ、わたしは……服が、擦れるだけで――』

「……馬鹿正直に話したのか、お前?」
「一人で乳首を弄って喜ぶような変態だと思われたくなかったのだ……」
「それじゃあ俺が、男の乳首弄って喜ぶ変態だって思われちまうじゃあねぇか……」
「何が違うというのだ!?事実だろう、この変態!!」
「おい、暴れんなよ」

『あーあーあーもーう聞きたくないぞ!可愛い孫の下世話な話など聞きたくない!承太郎は、わしが来日するたびに腕を引っ張っては公園だの通学路だのを案内してくれる、おじいちゃん思いの可愛らしい男の子なんじゃ!』
『過去に浸るのもいい加減にしておけよ老いぼれ。今の承太郎は毎夜毎夜わたしの乳、』
『わしは知らん!知らんぞシーザー!!』
『誰だそれは』
『擦れると勃つというのなら、あれじゃあれ、絆創膏じゃ!それで何もかもが解決する!』
『落ち着け老いぼれ、はしゃぐと死ぬぞ。貴様ももう若くはないのだから。それでええと、絆創膏?解決するのか?本当に?』
『服に擦れるから勃つのじゃろ?なら押さえ込んでしまえばいいだけの話じゃ』
『ふぅむ?』

「……それで、これか」
「……うむ……」
「……?」
DIOは尚も、承太郎から顔を背けたままである。真っ白の肌。頬は元より、耳や首筋に至るまでのどこもかしこもが白い。それが、承太郎の知る『平静の状態』のDIOであった。けれどなにやら、今現在目と鼻の先にあるDIOの肌は、うっすらと色付いているように見えた。淡い桃色が差していて、じとりと汗まで浮いている。
「……本当にそれで解決したのか、DIO?」
「う……うむ」
歯切れの悪い返答は、あまりにもDIOらしくない。承太郎は視線を落とし、絆創膏の貼られた乳首を凝視する。そして数秒の逡巡の後、ある確信と共にえいや、とその箇所を指先で突いてみたのだった。
「~~!!?!?」
途端、DIOの両肩はあからさまに跳ねあがり、そっぽへと背けられていた顔は慌てて承太郎の方へと向けられる。逆光を背負った白皙の美貌は、既に元の色が分からなくなる程真っ赤に染まっていた。
「で、本当はどうなんだ。解決なんかしてねぇんだろう、何も。今どうなってんだ?ここ」
「…………ずっと、押さえつけられていたものだから……なにやら妙に、じんじんする……」
「それから?」
「か……かゆい、のかも、しれない……」
「こんなもんずっと貼ってりゃあ、かぶれるに決まってるだろうが」
「ぅあ、」
絆創膏のパッド部分をぐりぐりと刺激され、DIOは悩ましげに身を捩る。吐く息は荒く、甘い。
「じんじんする、ってなら取ればよかったんじゃあねぇのか」
「と、とったらまた、勃ってしまうだろう!」
「勃たせておけばいい。外に出るわけでもないだろうが」
「今日は、ジョセフが」
「そんな声で別の男の名前呼ぶんじゃあねぇよ」
「別の、って承太郎、あれは貴様の祖、ひぅうッ!!?」
右胸に張られていた絆創膏が、べり、と勢いよく剥される。敏感な箇所を粘着質なテープが擦ってゆく感覚に、そして解放された乳頭が冷えた空気にさらされる感覚に、DIOの唇がはくはくと戦慄いた。承太郎は、口の端を吊り上げる。いやにサディスティックな表情である。もしかすると自分は本当に、この乳首を目にしたのだろう祖父に嫉妬をしているのかもしれない、と承太郎は思った。絆創膏を貼る際にそこを晒したのだろうDIOに、怒りを抱いているのかもしれないとも。しかしそんな思案などは、一瞬にして通り過ぎてゆくものである。それどころではない。とんでもない据え膳が、他でもない自分の膝の上にいる。承太郎は外気に晒されたDIOの乳首を、爪の先で押し込んだ。
「ぃ、いたいぃ、じょうたろうぅ……」
「掻いてやってんだよ。痒かったんだろ」
「あっ、あぅ、ん、ん……!」
「口噛むなよ。血ぃ出るぞ」
「んん、ぅ、んー……」
唇を噛みしめたDIOが、ぶんぶんと首を振る。それでも噛み殺しきれなかった嬌声は、呼吸と共に漏れている。やれやれだぜ、と承太郎は呟いた。うっすらと浮かべた苦笑には、やはり拭い切れない嗜虐欲と、隠し切れないDIOへの愛しさが滲んでいる。DIOのどうしようもない強情張りな側面だって、承太郎は心の底から愛しているのだ。そしてそれを突き崩してやった瞬間のカタルシスとくれば、最早言葉で言い表しようがない。
「DIO」
優しげな声で呼びかけてやりながら、承太郎はかりかりと尖った乳首を引っ掻いた。DIOの肌は赤味を増し、引き結ばれた口の端はひくひくと震えている。
「痒いの落ち着いたら、教えろよ。そうしたらちゃんと、やめてやるからな」
「んっ、んむっ、ん……!!」
「言いたいことあるならちゃんと言え。口開けよ口。閉じたままでどう喋るってんだ」
「ぅう、ん、んッ……んん……」
「……DIO、」
「ん、ぁあ……!?」
容赦なく掻き毟られ、すっかり赤く充血したその箇所を、生温い感触が撫で上げる。承太郎の、舌である。横暴ですらあった指の動きとは打って変り、濡れた舌はねっとりと優しく、優しく、腫れた乳首を愛撫した。
「じょ……じょう、たろう……」
DIOがおずおずと、承太郎の名前を呼ぶ。顔を傾け視線で応えてやりながら、その間も承太郎はひたすら優しくDIOの乳首へ舌を這わす。
「……じょうたろう……」
這いよるようなじれったさにせっつかれたDIOの声は、切実だ。つい先ほどまではぐりぐりと引っ掛かれて、痛くてたまらなかったはずなのに。やめてほしくて仕方がなかったはずなのに。――せめてもっとゆっくり、と。しかしいざ本当に労わられるように触れられると、これがもうとんでもなく物足りなくて仕方がなかったのだ。
DIOは混乱する。乳首なんて器官から快感を得てしまっていることからして受け入れがたい現実であるというのに、もっとして欲しい、もっと激しくそこをいじくり回して欲しい、なんてことを思ってしまっている自分がいることなどは輪をかけて信じたくはなかった。能動的に、乳首への刺激を求めてしまっているのだ。ぴんと尖った乳頭から付け根まで、小さなその器官は余すところなくじんじんと疼いている。舐められるだけでは決して満足できやしない、自分はその先にあるもっと激しい快感を知っているのだからと、期待に鼓動が早まっている。そして、

「DIO」

ふっと笑みながらDIO、DIO、とその名を呼ぶ承太郎は、口ではなんとか言いながらも大抵のわがままを聞いてくれるのだということを、知っている。承太郎と共に耽る、淫らな行為には、他では決して得られない精神の充足が伴っていることにも気付いてしまっている。体も精神も満たされてゆくその行為は、これまでに経験してきたどんなセックスよりも気持ちがよかったのだということも。
圧倒的な物足りなさ、飢餓感が、DIOから正常な判断力を奪ってゆく。あとから酷く後悔をするかもしれない、と思ったのは一瞬だけだ。とにかくDIOはもう、目先の快感が、承太郎によって与えられるそれが、欲しくて欲しくて仕方がなかったのだ。
「承太郎、」
羞恥心に、目蓋が下りる。代わりに唇が、震えながら押し開かれる。半開きになった唇から漏れた声は、口の中で呟かれているような、あまりにか細いものだった。

「ひどくしていい……もっと……」

承太郎の背筋がぞくりと震える。DIO、と呼びかけてやるより早く、承太郎は濡れた乳首に噛み付いた。
「ふぁ、あ、あああっ」
「ん、」
「じょうたろぉっ、じょうたろぉぉッ、だめ、だめっ、きもちい、は、はぁ、ふ、は……」
「反対は?」
「は、へ……?」
「こっちだよ、こっち」
「ひぃっ」
未だ絆創膏が貼られたままの、左の胸の頂を、承太郎の指の腹がぐりぃ、と遠慮なしに押し潰す。DIOの背筋が仰け反った。
「ぁ、か、かゆい、くるしい、そっちも、じょうたろっ、そっちもぉ」
「自分で剥せよ。できるだろ?」
「で、できるっ」
真っ赤なマニキュアが塗られた指先が、覚束ないながらもかりかりと絆創膏の端を捲ってゆく。勢い余って引っ掻かれた白い肌に、痛々しい爪の痕が刻まれる。そんな痛みにも煽られるように、DIOは益々はぁはぁと息を乱し、べり、と音を立てながら絆創膏を剥ぎ取った。
「で……できた……できたぞ、じょうたろう……」
「……よくできました」
「ひぅっ、ああぁ~~……!!」
剥きたての乳首の中心に、承太郎の爪の先が突き立てられる。赤く染まった眦から、こぽりと熱い涙が零れ落ちた。
「服。ちょいと自分で、捲ってろよ。できるな、DIO?」
「できるっ、できる、わ、わたしっ、あ、はふ、ぅう」
最早、どちらが歯で愛撫されていて、どちらが爪で引っかかれているのかも分からない。じんと疼き、熱を孕む小さな粒からの快感は、DIOから理性を剥ぎ取ってゆく。やがてはもっともっと、とうわ言のように呟きながら、自ら服をたくし上げた胸元を承太郎へと押し付けて、ただひたすらに甘く喘いだ。可哀想なほどに真っ赤に染まった乳首はどちらとも、ぷっくりと腫れいやらしく濡れている。
「も、もうだめぇ、なにかくるっ、なにかっ、じょ、じょうたろうっ、おかしい、わたしのからだ、おかしいっ」
「おかしかねぇよ。最高だ」
「さ、さいこう……?」
「さいっこうに下品で綺麗で可愛いぜ、DIO。オラ、その顔もっと見せろよ、こっち向け」
「……じょうたろぉ……」
蕩けるようにDIOは笑む。ふだんのDIOであったなら、何を偉そうなことをと、胸元の頭を叩いた場面であったのだろう。しかし頭も体もでろでろに融かされた今だけは、それは至上の睦言になり得てしまうのだった。そうした言葉を笑みと共に吐き出した承太郎も、DIOの痴態にすっかり理性をやられてしまっている。

「じょうたろぉ、すき、すきぃっ、じょうたろ、じょーたろぉ――あ、ああっ、だ、だめだそんな、そんな、吸われたらぁっ、ひっ、あ、あああ、は、ひ、あ、ああぁ――!!?」
「お……?……DIOお前、もしかして今乳首だけでイっ、」
「~~承太郎っ!!」
「うおっ」
「乳首だけじゃあ嫌だ……中にも欲しい、承太郎……」
「お……おお……?」

その日、理性のタガが引っこ抜かれたDIO、というものに初めて相対した承太郎は、あとから「あれは夢だったんじゃあねぇのか」と頭を抱えてしまわんばかりの刺激的な体験に夜通し溺れ倒したのだった。





おかしい、とDIOは思う。
背中には、洗い立てのシーツ、きいきいと軋むキングサイズのベッド。腹の上には承太郎。背中が浮いてしまう程に高くDIOの足を抱え上げ、性器を侵入させた体内をひたすらに貪っている。ぱんぱん、と肉がぶつかるたびに汗に濡れた足は空を蹴りつけて、はしたない水音と共に競り上がる快感に、赤い唇からは嬌声ばかりが漏れ出した。しかし普段ならばこの辺りで蕩けてしまうDIOの理性は、未だ健在である。気持ちが良いことは確かだが、何かが足りない、圧倒的に物足りない――何か、の正体には心当たりがあるのだが、それを認めるのには勇気がいる――熱が高まれば高まるだけ増してゆく飢餓感を持て余し、DIOの体はかっかと火照ってゆくばかりだった。
「じょ、承太郎っ、あっ、あっ、ああっ」
「ん、」
「ぁ、うぅ、ん、んぁ」
無防備に晒された白い喉元を、承太郎が甘噛みする。じん、とした痛みはDIOにいくらかの快感を催すも、それではない、そこではないと、やはり飢餓感は募るばかりだった。
そうしたDIOの様子を知ってか知らずか、承太郎は長い脚を抱え直し、上から抉るようにDIOの体内を蹂躙する。張りのある筋肉に覆われた体はいいように揺さぶられ、スプリングはひっきりなしにきいきいと鳴っている。あまりにも激しい、熱い、熱い。開きっぱなしになった口元から涎を零しながら、DIOは両手で頭を抱える。とろりと細まった双眸からは、だらだらと涙が溢れてゆく。作り物染みた美貌は、すっかりぐずぐずに蕩けてしまっているのだった。そんなDIOを見下ろす承太郎が、嗜虐的に笑みながらごくりと喉を鳴らしたことなどに、DIOはちっとも気付いていない。
「ぁああんっ、は、はっ、ひぃっ、ぐ、ぁ、あ、ああっ」
「そろそろ……出すぞ、DIO……っ」
「わ、わたしもぉっ、じょうたろ、わたしもいくっ、いくっ、~~ぁっ、そ、そこだめっ、だめっ、おかひくなるぅっ、いやだ、いやっ、じょうたろっ、じょーたろぉッ!!」
「とっくにイカレちまってんじゃあねぇか、俺もッ、お前も!!」
「ぅあ、あっ、ああ、ひ、ぁああ~~……!!!」
歯を食いしばった承太郎がDIOの中で達したのと、DIOが自らの胸元に向かって精液をぶちまけたのは殆ど同時のことだった。中に注ぎ込まれた承太郎の精液はつう、と一筋、押し広げられた後孔から溢れだし、自らが吐き出したものは胸元のみならず首筋や顎の先まで散っている。
「……酷い面だな、おい」
薄く笑んだ承太郎が、乱れた金髪を指に絡める。DIOはまさに呆然自失といった体で、熱っぽい目でぼうっと承太郎を見上げている。鼻に掛かった吐息は甘い。そして、どうにも物欲しさが滲んでいる。
(だ、だめだ、足りん、全く足りんぞ、承太郎)
唇を噛みながら顎を引けば、精液のこびりついた胸元が目に入る。当然胸の頂に鎮座する乳首だって、白濁の液体に濡れている。涙に濡れた赤い瞳は、睨みつけるようにそこを凝視した。左右の胸の頂。はしたなく勃起したその器官――今夜は一度も、承太郎に触れられてはいないのに。
(……わ、わたしは、わたしは……)
「……はは、汗だくだな。休んだら風呂入ろうぜ、風呂」
(まだ、わたしは、こんなものはじゃあ、わたしは――)
「一旦抜くぞ、DIO」
「~~だ、駄目だっ、承太郎!」
「は?」
承太郎が腰を引くと同時に、くち、と小さく水音が鳴る。DIOは咄嗟に足をばたつかせ、承太郎の動きに歯止めをかける。そして察してはくれないかとじっと承太郎を見つめるも、
「……言いたいことあるなら言えつっただろ。大抵のことなら叶えてやるつもりでいるんだぜ、俺は」
優しげな視線と共にそんなことを呟きながら、やはり優しげにそっと金髪の束を持ち上げる様子には、DIOが言わんとしていることを察している素振りはない。少なくとも、今のDIOにはそう見えた。まっとうな状態のDIOであったなら、承太郎がわざと知らん顔をしていることなどはすぐに気付いていたのだろう。
DIOは悔し気に唇を噛んだ。承太郎は、尚も柔らかな視線でDIOに先を促すばかりである。
「……じょうたろう」
「ああ、どうした」
――胸の先に孕んだ熱を、これ以上知らんふりで無視することはできなかった。早く、どうにかして欲しかった。他でもない、承太郎に。
DIOはこくりと唾を飲んだ。そして意を決し、そろり、そろりとゆっくり、精液に濡れた乳頭に指を這わす。それだけでもう、後孔がきゅんと窄まってしまうほどの快感が全身を駆け巡る。しかし、承太郎から与えられる刺激はこんなものではない、もっともっと気持ちが良いのだということを、DIOは身をもって知っている。
「承太郎、」
硬く勃起した乳首に白濁を塗りこめるようにくりくりと指を動かしながら、DIOはか細く承太郎の名を呼んだ。顔を見ることは、できなかった。なけなしの羞恥心が、破裂寸前まで膨れ上がっている。
「こ――ここをだな、弄られながらでないと、わたしは、どうにも、わたしは、満足ができないようなのだ、お前のせいで、そんな体になってしまったようで、ああくそ……承太郎、承太郎、責任を取るのだ、ちゃんとわたしを満足させろ、じょう――~~っ!!?」
承太郎の指先が、そこに添えられた指ごとDIOの乳首を摘まみ上げた。そしてそのまま、DIOの指を使ってくにくにとそこを愛撫する。精液でぬめる乳頭は、徐々に色味を深めてゆく。DIOの赤い唇が、とろけるように綻んだ。三日月の形に歪んでいる。承太郎を食んだ箇所は、いかれたようにその熱を締め上げた。

「これだ、これっ、じょうたろっ、これぇっ、きもち、すごいっ、じょうたろっ、もっと、もっとぉ」
「後から文句言うんじゃあねぇぞ、DIOッ」
「いわない、言わないからもっと、じょうたろうっ、もっとぐりぐりして、もっと、じょーたろぉっ」
「~~っ、本当に文句はなしだからな、DIO!」

行為が終わりひとっ風呂も浴びた後、ぼそりと「お前のせいだ」と呟いたDIOは、弱弱しく承太郎の脇腹を小突いたのだった。庇護欲を擽られるがままに、承太郎はぎゅっとDIOを抱き締めた。





「――もしかすると承太郎の本命は、わたしではなく乳首なのではないだろうか」
「……」
「このひと月ばかりのあの男くれば、乳首にはしこたまキスをするくせに、口には全く寄越してこなくなった。あれがなにやら乳首に目覚めてしまうまでは、うっとおしいほどにちゅっちゅちゅっちゅとやってきたものだったのだ。しかし今は、今はとくれば……」
「…………」
「…………」
「……おい、DIO」
「はっ……もしかするとわたしは、乳首に承太郎を寝取られてしまったのでは――」
「だぁから可愛い孫の下世話な話など聞かせるなと言ったろうがくそ野郎!!」
「でかい音を出すなクソじじい」
ジョセフがばん、と机をたたいた拍子に、縁に乗っていたリモコンがフローリングに転がった。DIOは爪先でリモコンを弾き飛ばし、つまらなそうに頬杖を突く手を入れ替える。そしてジョセフを視界から追い出して、ふう、とメランコリックな溜息を吐き出した。
思わずジョセフは、眉間に手を当て俯いた。ジョセフにとってのDIOとは、先祖代々の宿敵であり、可愛い孫を掻っ攫っていったにっくきくそあばずれである。だというのに、そんな感情が時たまどうでもよくなる程に美しい男である、というのがまた、ジョセフのDIOへの蟠りを刻々と深めているのだった。今だってそうだ。話している内容は阿呆としか思えないが、どうにも哀愁に浸っているらしいDIOはそれはもう、ぐうの音も出ないほどに美しかったのである。再び吐き出されたDIOの溜息に重ねるように、ジョセフも深く腹の底からの息を吐き出した。
ただ綺麗なだけのお人形になられると、扱いに困る。こんな化け物は、勘違いすれすれの居丈高な言葉ばかりを吐き出すクソ生意気な男でいればいいのだ――DIOを慰める、という行為の言い訳を心の中で並べ立てながら、ジョセフはぼそぼそと呟いた。
「好きで好きでたまらんから、訳の分からんことにも執着をしちまうんじゃろう」
「はあ?」
「だから、承太郎は確かにお前の乳首に執着をしているのかもしれないが、大元にあるのはお前自身への執着じゃ。だからそう、不安にならずともな。うむ」
「わたしを慰めているつもりなのか、くそじじい?」
「お前が大人しくしていると調子が狂うんじゃ」
「あ!もしやわたしに気があるのではなかろうな、老いぼれよ!承太郎への不信感で少々弱っている隙に、付け込んで――」
「死ねクソ野郎!」
「冗談ではないか、貴様が死ね」
そうしてローテーブルの下で、がしがしと蹴り合う夕暮れ時である。ジョセフはふん、と顔を反らし、DIOはテーブルの上に突っ伏した。
(執着。わたしにか。承太郎が)
執着、という言葉の質量に、こっそりとDIOは酔いしれる。本当は、分かっているのだ。承太郎から傾けられる感情というものが、到底『特別』などという言葉で収まりきるものではないことを。だからこそ、女も抱いたことのない健全な青少年であった承太郎が、毎夜のようにDIOを求めてくるのだということも。自分だって似たような感情を抱いているからこそ、今こうして共に生きているのだということだって。しかし改めて他人の口から聞かされた執着、執着、あまりにも甘ったるく、どことなく業の深いその言葉は、DIOにくすぐったい喜びを与えてならなかったのだ。
「おい、じじい」
「なんじゃ」
「わたしはわたしが思うよりも、あれが好きでたまらんのだな」
「反応に困ることを言うな、じじい」
怠惰に顔を傾けたDIOは、ジョセフに向かってふっと微笑んでみせた。いくらかの羞恥心と、多大なる幸福感に満ち溢れたその表情に、頼むからそんな顔を見せんでくれよ、反応に困って仕方がないと、ジョセフは大仰に天を仰いだのだった。




「承太郎、」

承太郎がDIOの乳首に妙な執着を抱く理由とは、単純にそこが誰にも開発されたことのない箇所だったというだけのことだ。DIOが欲しくてたまらないくせに踏み切ることができず、結局は業を煮やしたDIOにまるっと童貞を奪われてしまった承太郎である。それからもセックスに於いての主導権はDIOに握られっぱなしであり、これではいけない、自分だってDIOに何かをしてやらねば、あの体に自分だけの印をつけてやらねばと、そうした焦燥感が限界に達しかけたある日に偶然、承太郎はDIOの乳首が未開発の器官であることを知ったのだ。

「承太郎、足りない、足りんぞ、まだまだ、承太郎」

承太郎、承太郎、と繰り返すDIOの甘ったるい声が、承太郎の脳を融かしてゆく。承太郎の上で腹這いになったDIOは、勃起した乳首を承太郎のそれ、扁平な胸の頂にこすこすと擦り付けながら、淫猥に笑んでいる。一度絶頂に達した体は、どこもかしこもほんのりと赤い。承太郎は、そっとDIOの前髪を掻き上げた。露わになった額にはじんわり汗が浮いている。そこへ向かって口付ける。顔を上げれば、DIOは満足げに笑んでいる。
まるで従者にでもなった気分だ、と承太郎は思った。自分はこの愛おしい吸血鬼を喜ばせ続けるためだけに、その傍らに侍り続けているのではないのかと。――悪くはない。承太郎は、心の底からそう思う。いくら開発だ主導権だなんだのと抵抗をしてみたところで、根本的な所ではDIOという吸血鬼に負け続けているのだ。このひと月を思い返してみても、結局は寸でのところで『乳首の開発に専念する酷い男』にはなれなかった。泣かれれば焦ったし、嫌だと言われれば怯んでしまう。いざDIOのタガが外れると、乳首のことなどは忘れて熱に流されてしまう始末だった。

「ふふ、ふ、ふふ、じょうたろう、承太郎よ、わたしはな」

惚れている、と思ってしまった時点で負けである。何でもしてやりたくなるし、どれだけだって幸せにしてやりたくなる。

「お前がわたしを欲するように、わたしだってお前が欲しい。ほら、好きにわたしを抱いてみろよ、承太郎。このわたしを、お前だけのDIOにしてみせるのだ。ふふふ、できるものならな、承太郎」

DIOは尚ももぞもぞと乳首を擦り付けながら、歌うようにそんな言葉を寄越してくる。
――望むところだ、あとから文句言うなよ強情張り、俺がどれだけお前を欲しがっているのかなんて、お前ちゃんと分かってないだろう、俺だって底がどこにあるのかも分かっちゃいないのだから。
長ったらしい応じ文句を舌に絡め、承太郎はDIOの唇に噛み付いた。なにやら久々に触れたような気のする唇は、とても、とても、柔らかかった。







お互いに勝ってるし負けてもいる承DIOってときめきますよね!


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