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愛が止まない

この気色が悪く据わりが悪く吐き気の収まらぬ感情こそが『幸福』なるものであるのだろうとDIOは思う。現在、血の色をした双眸にはDIOにそうした感情を与えてならない承太郎の後姿が映っている。開け放たれたガラス戸とぶわりとそよぐカーテンの向こう、ベランダの手摺に肘を立て、所在なく足首をこねくり回しながらぼんやり煙草を吸っている。立ち上る白い煙が、暗幕を張った空に融けてゆく。ずっとずっと高い場所に、端の欠けた月を戴く黒い空。静かな静かなこの夜に、承太郎だけが、そこにいる。当たり前のように、DIOの世界たるこの夜で息をしている。
DIOは、小さく息を吸う。そして、承太郎、と。もうすっかり呼び慣れた名前をその唇に乗せ、白い蛍光灯の下から承太郎へと向かう一歩を踏み出した。
承太郎は振り向かない。なのでもう一度、名前を呼ぶ。承太郎、承太郎。それでも承太郎は振り向かない。ひりつくような焦燥感が、DIOの胸の内を席巻する。あと数歩のベランダまでの距離を、DIOは駆けた。どたどたと、物々しい足音。リビングとベランダを区切るサッシで踏み切って、承太郎の背中に飛びかかる。
承太郎の背は揺るがない。少々前のめりになっただけである。立木の如き逞しい体を両腕いっぱいに抱きしめながら、DIOはぎゅっと目を閉じる。星の痣が刻まれた首筋に鼻先を埋めれば、やれやれだ、なんて呆れ交じりの笑い声が鼓膜を通じて頭の中を擽った。
承太郎。呼ぶ。
DIO。返ってくる。
他ならぬ承太郎の声で紡がれた己の名前が、たった3文字の言葉にこれでもかと盛り込まれた愛おしげな響きが、気持ち悪かった、気色悪かった、居た堪れなかった、居心地が悪かった――どうしようもなく、幸せだった。
DIOの両腕から、ふっと力が抜けてゆく。もぞもぞと体を反転させた承太郎は、片手で煙草を加えながら、もう片方の空いた腕でDIOの背を抱き寄せた。

わたしは承太郎をあいしている

幸福感に押し出された、愛情なる言葉の響きの気色悪さに――あるいは心地よさに、酔いしれるようDIOはゆるりと微笑んだ。承太郎は、今更言われなくても知ってるぜ、なんて口の端を吊り上げながら、煙草の匂いの染みついた唇をDIOのそれへと押し付けた。
これが幸せというものなのか。
穏やかな波に身を委ねるよう、DIOはゆっくりと目を閉ざす。口先に押し当てられた愛情が、背中を締め付ける愛着が、DIOの脳内を侵食する。
この男の傍にいれば、わたしが駄目になってしまう。
耳元で鳴り響く警鐘すら幸福を掻き立てるばかり、砂糖菓子のように甘ったるいDIOの意識は、その内承太郎の腕の中でとろけていった。



「――……ん……?」
目覚めた瞬間、DIOがいの一番に理解したのは今が朝で、今日は雨の日だという現況だった。ぼんやりと明るいカーテンの向こうから、ぱたぱたしとしとと忙しない雨音が聞こえてくる。日差しが緩いのなら、今日は承太郎にどこかへ連れて行かせようか――そうした企みを企てだしたところで、次に気付いたのは、下半身の違和感である。いいや、下半身だけではなく、全身が何やらおかしい。不自然に熱くて、どこもかしこもが火照っている。うっすら汗ばんでもいるようで、シーツが肌に纏わりつく感触が不快だった。
「……ぁ……あ、ぁ……っひ……!?」
ずん、と鈍い衝撃が、後方からやってくる。訳も分からぬままに押し出された声は、甘く甘く上擦っていた。まるで、セックスの最中に漏らす声のようだ――と、ここでDIOははたと気付き、目を見開く。下半身の違和感とは、体内に承太郎の性器を受け入れている感覚そのものだったのだ。
慌てて背後を振り返る。すぐそこに、承太郎の顔があった。上から伸し掛かるように覆い被さってきている承太郎が、精悍な顔にうっすら汗を滲ませて、熱っぽくDIOを見つめている。
「じょっ、承太郎……?」
「ああ……起きたのか、お前」
「お、おま、おまえ、なにをして、っ、ぅあっ――あ、あぁんッ」
巨大な質量がずるりと体内から引き摺り出され、かと思えば再びずんと奥を抉られる。中途半端に持ち上がっていた頭は枕へ沈み、溢れる涙が枕カバーに染み込んだ。咄嗟にシーツを握りしめたDIOの両手へと、承太郎のそれが押し潰すように重ねられる。慣れ親しんだ承太郎の体温に、一瞬DIOの気は緩むも、すかさずやってきた抽挿の快楽に意識は乱れてゆくばかりである。どうにか理解できたのは、自分は今俯せになったまま、承太郎に犯されているのだということだけだった。
「じょうたろ……お、おまえ、ぁっ、い、いつぅ、から、こんな、ぁ、あ……」
「……まあ……悪いことしたとは、思ってるぜ……」
「は、ぁ……ん……」
「つーか案外……起きねぇもんなんだな……」
「あっ、あぁ、ん、ふぅ……」
緩やかに性器を出し入れされるたびに、DIOの意識は白んでゆく。気持ちがよかったのだ。言いたいことも、聞きたいこともたくさんあったが、今ばかりはそんなものがどうでもよくなってしまう程に気持ちがよくてならなかった。律動に合わせるように腰を揺らめかせれば、シーツと性器が擦れてそこからもふしだらな快楽がやってくる。そして、背中に押し付けられた承太郎の胸板の、その下からとくとくと鳴り響く少々速まった心臓の可動音が、愛しさや快楽全てをひっくるめた承太郎へのあれこれを煽ってならなかった。
「ゆめを……みていた、わたし……おまえの、じょうたろのぉ……」
「……そうか」
「キスを、されたのだが……おまえ、したのか……?ねている、わたしに……」
「……した」
「そうか、そう……ふ、ふふ……ぁ、あふっ、ん、ふふ……」
とろけるような吐息と共に傾けられたDIOの顔は、甘ったるい笑顔に緩んでいる。すかさず首を伸ばし、唾液に濡れた口の端にちゅっと触れた承太郎の口元も、ゆるゆるととろけるように笑んでいた。
「あー……可愛いな、お前……」
「おまえも可愛いぞ、じょーたろぉ、ふふ、ふ」
「……嬉しかねーよ」
「わたしは、うれしい、承太郎……」
「…………可愛い、DIO。オラ、もっと顔見せろ」
「あ、ん、ぅふ、ふ……」
俯せになったまま、仰向くようにDIOの首が傾げられた。寝起きで凝り固まっていた首筋の筋肉が、みしみしと軋みを上げている。突っ張るような痛みすらも、楽しくて、嬉しくて、気持ちがよかった。うっとりと細められた赤い瞳から、真新しい涙がつうと零れる。しょっぱいその雫を舌先で掬い上げた承太郎も、やはり未だ、幸福にとろける笑顔を浮かべている。
「じょーたろぉ……きもちわるい……」
「……いきなりなんだお前」
「きもちわるくて、きしょくもわるくて、吐き気がしてならんのに、そう思えば思うだけ、しあわせだ、わたし……じょーたろ、すき……すきぃ……」
「ったく……わけ分かんねー奴だぜ、お前……」
「んんぅ……」
口先を舐るようなキスに、DIOはとうとう目を閉じる。溢れて止まらない涙は金色の睫毛に絡みつき、薄暗い朝の部屋でひめやかに輝いた。
緩やかに続いていた抽挿が、じりじりと加速する。くち、くち、と漏れていた水音は勢いを増し、ベッドはぎっぎと軋んでいる。引き締まったDIOの腰は艶めかしく揺らめいて、熱い内壁は食んだ性器にねっとりと絡みつく。承太郎は、白い臀部を中央に寄せるように掴み寄せながら、絶えず何度もDIOの頬や首筋、口の端にキスをした。押し寄せる熱の愛おしさに、DIOの白皙の美貌は緩んでゆくばかりである。
「あっ、あぅ、ん、じょう、たろっ、ぁはっ、もっ、とぉ、もっと、して、じょうたろっ、すきっ、すきぃっ」
「ああ、俺も……ん……そろそろ、出すぞ、DIO……」
「っ……!」
「……っ、なに、締めてんだよ、お前……そんなに好きか、中出し……」
「だって、だってぇ、ぁふ、ふふ……じょーたろぉでいっぱいになるのが、きもちいのだ、わたしは、わたしはな、ぁ、あっ、ひっ……!じょうたろう、はげしいっ、じょうたろっ」
「すき、なんだろ……」
「ああ、すきぃ、すきっ、あ、あぁあっ!!」
「DIO……!!」
「じょ、じょーたろぉの、でかいぃっ、ひもちっ、あ、あぅっ、おく、そんなぁっ、じょうたろっ、じょーたろっ、いっひゃうっ、こ、この、DIOもぉ、わたし、わたしっ、すごいっ、じょうたろうすごいっ、あンッ、ひ、あ゛っ、あ、あ……~~!!」
熱が迸り、意識が眩む。両目からは涙を、口元からは唾液を垂れ流しながら、DIOは自らの腹とシーツの間に白濁を零した。掴み寄せられた臀部の間には、たっぷりと承太郎のそれが注がれている。体の奥の奥までを承太郎に犯し尽くされたような感覚に、DIOは腰を揺らめかせながら酔いしれた。2人分の荒い息だけがはあはあと、降りしきる雨から隔絶された部屋いっぱいに響いている。
「は……はぁ……あー……」
「……もう少しいれといてもいいか、DIO」
「ん……いいぞ……ぬいたら、ころしてやるぅー……」
「なにいってやがるんだ、馬鹿」
「ぅあ……」
奥まで突き込んだ性器をそのままに、承太郎はDIOを抱えて横向きに転がった。重ねられたDIOの両脚へ乗り上げるように自身の片脚を絡ませて、上から押しつぶさんばかりに腕を回して抱き締める。どこか偏執的でもある承太郎の拘束に、DIOはほう、と熱い息をついた。穏やかな歓喜が、そこにある。ゆるやかに笑んだDIOは、胸の前に回された承太郎の腕にそっと触れた。
「朝っぱらからこんなにたくさん出されちゃあ、今日はもう、お前のことしか考えられないじゃあないか……」
「てめーなんか、四六時中俺のことだけ考えてりゃあいい」
「お前は、わたしだけではないくせに」
「はあ?」
「娘。ヒトデ。仕事。友人。酷い男もいたものだな、承太郎。わたしにはもう、お前しかいないのに。お前には、わたしだけではないのだろう」
「……何言ってんだお前。お前こそなんか、俺の知らない所でお袋やらじじいやら、花京院やら、アメリカのなんとかって奴に、息子4人に……それから、いつの間にか俺の娘とも連絡取ってるみてーじゃあねぇか。知ってるんだからな、俺は」
「ああ……なんだ……いつの間にやら、ぐぅんと広がっていたのだな……わたしの世界というものは……お前を中心に、承太郎……」
「俺?」
「プッチはまあともかくとして、他はすべて、お前がわたしの元に引き寄せた縁ではないか……承太郎、承太郎、よ」
「……俺が、お前の世界の中心だって言ってくれるのか」
「…………改めて聞き返すな……照れる……」
DIOがシーツに顔を埋める。露わになった真っ赤な耳朶を、承太郎の口先がやわりと食んでゆく。そんな承太郎だって、頬を真っ赤に染めている。
「……もう一回、いいか、DIO」
「仕方のない男だな……というか、結局これはどういうことなのだ?今更わたしの寝顔にでも欲情したのか、お前……」
「……お前が、」
「……承太郎?」
「……お前がそうやって、承太郎、とか、寝言で何度も呟いていたからだ。くっそ嬉しそうに笑いながら」
「……わ、わたしがか」
「他に誰がいるってんだ」
「う……うむぅ……」
くぐもった唸り声を漏らしながら、DIOはうりうりとシーツに額を擦り付けた。寝言についての心当たりはあったのだ。夢である。承太郎を抱き締めて、抱き返されて、そして何度も名前を呼びながらキスをしたあの夢が、DIOに寝言を促したのだろう。既に承太郎にも白状をしたことだ、お前の夢を見ていたのだと。しかし一旦熱を吐き出した今となっては、なにやら妙に気恥ずかしい。つられるように、つい先ほどまでの承太郎とのセックスも恥ずかしくてたまらなくなってしまう。すき、すき、すきと。その二文字を何度も繰り返しながら乱れた自身の痴態を思い返すだけで、DIOの肌は赤味を深めてゆく一方だ。
黙り込んだDIOの上で、承太郎はふう、と溜息をつく。お前はどこまで可愛い奴なんだ好きでたまらんこの野郎。素面で言葉にするには、照れくさい文句である。承太郎はぎゅっとDIOを抱き直し、ゆっくりと腰を動かした。結合部からはくちりと水音が鳴り、枕に押し付けられたDIOの鼻先からは抜けるような吐息が漏れる。金髪の張り付いた首筋を甘噛みすれば、DIOはむずがるように顔を上げた。
「こ……こぼれる……じょーたろぉ……」
「ああ……?」
「お、お前の、せいえき……だからもっと、ゆっくり……」
「……零したくないのか、お前?」
「あぅ、ぅ、うむ……も、もったいないでは、ないか……」
「お前……お前なぁぁ……!」
「ぃっ、ぅあ、あっく、ぅ、ん、は、ぁああっ……!」
一際激しい水音と肌がぶつかり合う音が鳴り響き、DIOの首筋が仰け反った。晒された喉元に噛み付きながら、承太郎は再び勃ち上がった性器をひたすらDIOに叩きつける。
気持ちよかったし、痛かった。押し込まれては引き抜かれるたびに精液が零れてゆく感覚に、訳もなく泣きたくなる。承太郎の腕と足にがっちりと全身を拘束されたまま、DIOはただただ涙と共に嬌声を上げた。
幸せだったのだ。承太郎から与えら得る声も言葉も快楽も、すべてがDIOを世界一の幸せ者であるという幻想に引き上げてくれる。だからこそ、気持ちが悪かった、気色が悪かった。こんなものはちっともまったく『わたし』ではないとDIOは思う。それでも――承太郎、という男と共に長い時間をかけて変化してゆく自分のことを、少しずつ、亀が這うようにすこぅしずつではあるけれど、好きになれるかもしれないと。承太郎だけのDIOである自分のことだって、好きになれるかもしれないと。他でもない承太郎の腕の中で、DIOはそう、思うのだ。
「は、ぁあっ、ん、ぁ、あ……」
「……いいか、DIO……苦しくは、ねぇか……」
「平気だ……きもちいい、承太郎ぉ……」
「……終わったら、どっか、出かけるか……せっかく雨も、降ってるしな……」
「ん……」
「どこか、あるか……行きてーところ、とかは……」
「ない……じょうたろうとなら、どこでもいい、わたしは……」
「……ああくそ……かわいいなぁ、お前……」
「んっ、ひぅ、ぁ……あ、あ、あぅっ」
注がれた白濁を溢れさせながら、熱い後孔が収縮する。膨れ上がった承太郎の性器の絶頂の気配を感じとり、白い喉が期待にこくりと上下した。DIOは首を捻り、背後の承太郎を見る。濡れた瞳に映った承太郎は、まっすぐにDIOを見つめている。DIOだけを見つめている。湧き上がる愛しさに果てはない。DIOの情緒の許容量は、最早満杯を越えている。もう、なにがなにやら、訳も何も分からなくなって、見開かれた双眸は頼りなく揺れ、ぶわりと涙が溢れだした。
「じょうたろう、じょうたろう」
ひたすら承太郎の名前を呼ぶ、呼ぶ、空へと繋がる糸を手繰り寄せるように、承太郎の名前を繰り返す。自分が駄目になっている自覚はあった。承太郎に駄目にされてゆく自分というものを、DIOはいくらかの屈辱感と共に自覚をしている。それでも、幸せでたまらなかったのだ。もっと駄目にさせられても構わない、他でもない承太郎がそうしてくれるのならば――と、決して本人には言えないし、正気である時にはそうしたことを思ってしまった自分の頭を吹き飛ばしてしまいたい気分にもなるのだが、それは確かにDIOの本心であったのだ。承太郎が芽生えさせた、純情である。
「承太郎――わたしはな、じょうたろう、」
DIOはそっと、目を伏せた。閉ざした目蓋の隙間から涙を溢れさせながら、それでもゆるゆると、笑っている。

「お前を、あいしている」

幸福なるものに犯されたDIOの姿はといえば、嘘のように美しかったのだ。
DIOの視界の外で、承太郎の涙腺だって緩くなる。落涙の前に、承太郎はDIOの唇に噛み付いた。そして激しくその身に孕んだ熱を叩きつけ、DIOの中に注ぎ込む。こぼしたくないのなら、どれだけだって注いでやる。赤くなった耳元でそう囁きかけてやれば、うっすらと目を開けたDIOはただ一言、うれしい、と、独り言のように呟いた。
カーテンの外は、依然曇り空が広がっている。降りしきる雨も、湧き出て止まない愛しさも、もうしばらくは止まる気配はないようだ。







ゆっくり承太郎との事に折り合い付けてくDIO様とじっと待ってる承太郎


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