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とろけるまでずっと一緒

静まり返った夜の和室に、カシャ、と落されたその音は、承太郎が掲げたスマートフォンが発したものである。液晶画面に映っているのはDIOだった。行儀悪く窓枠に腰かけ猪口を傾けながら、夜の海を眺めるDIOである。
「承太郎。そんなところからでは、外などちっとも見えやしないだろう」
呆れたように、DIOは笑んだ。隠しきれぬ慈愛が滲んだ視線の先には、窓から離れた座敷にどっかりと腰を下ろした承太郎がいる。片手に団扇。片手にはスマートフォン。もう一度、カシャリと音を立てる。現実を切り取った液晶画面には、きょとんと丸まった瞳で承太郎を見つめるDIOが収まっている。承太郎は満足げに笑み、スマートフォンを放り出して頬杖をついた。
「外なんかどうでもいい、俺は」
「行く先々でパシャパシャとシャッターを切ってばかりいたのはどこのどいつだというのだ。茶屋でも海でも、いいや、なんてことのない道中でもお前はそれを手放さなかった。ここから見る海は中々によいものだぞ、承太郎。なにせ、このDIOの目をそれなりに満足させている」
「だから、外なんかいいんだって言ってるだろう。俺が撮ってたのはお前だ、お前」
「わたし?」
「お前。DIO。気付かなかったのか?」
「んんー?」
首を傾げるDIOを前に、今度は承太郎が苦笑する。やはり、特濃の慈愛を滲ませて。
承太郎のスマートフォンには、本日1泊2日の旅行の1日目、ゆく先々で撮影したDIOの写真が保存されている。本来は1週間を予定していた旅行が都合で1泊2日にまで短くなってしまったことを負い目に感じていた承太郎ではあるが、カメラが捉えるDIOはといえばどの瞬間も「楽しくてなりません」と言わんばかりに目を輝かせていたもので、不満を訴える気配などは皆無だった。承太郎の罪悪感が凶暴に膨れ上がっていったことなどは言うまでもない。
移動の道すがら、1時間ほど迷ったのちに承太郎が「お前はそれでいいのか」と尋ねたところによれば、「これまでわたしを近所の海と水族館にしか連れて行ってくれなかったお前がようやく重い腰を上げて、県境を跨いだ旅行へ連れ出してくれたのだ。承太郎にしては上出来だ」というのがDIOの言い分であるらしい。そうしてDIOは、しおらしい(日常比)DIOを前に目を白黒させる承太郎に勝ち誇ったような笑顔を見せたのだった。
「――いいや、ちっとも」
「マジかよ」
「だって承太郎が、そんなことをするとは思わんだろう。もう何年、わたしとお前が共に過ごしてきたと思っているのだ。今更必要なのか、写真なぞ」
「今更だからだ。思えばろくに旅行に行ったこともなければ、写真を撮ったこともない。特別にそういうことをしようとは思わない程にお前との生活は、なんというか、割と幸せだったというか、多分満ち足りてたんだと思うが、ふとお前との思い出みたいなものを分かりやすい形で持っていたいと思ってしまった。年を取ったんだな、俺も。5年も前は、こんなことちっとも思いやしなかった」
「それで急に旅行へ行こうと言いだしたのか?」
「ああ」
「老いたものだなぁ、承太郎」
「自分でも言っただろう」
笑うDIOが、紅色の猪口を傾ける。窓枠に見切れる月に、秋の近くなった高い空。障子窓と粋な猪口に、浴衣を肌蹴させて寛ぐDIO。承太郎の絶景が、手を伸ばせば届く目と鼻の先で繰り広げられている。ただただ幸せだと、承太郎は思った。
「わたしを撮りたいのなら、そう言えばよかったろうに。ピースでもなんでもしてやったぞ。お前がだらしなくふぬけた顔で喜ぶのならばな」
「今更、恥ずかしいだろう」
「結局白状したではないか」
「それはまああれだ、あれ」
「指示語で片付けようとするな、横着者。それだからお前は、他人に誤解をされるのだ」
空になった猪口を片手に、DIOは窓枠から滑り降りる。一直線に歩む先には承太郎がいる。
「どれ」
そうして承太郎の隣に座り込むやいなや、白い指先はスマートフォンを摘まみ上げた。覚束ない指先が立ち上げたのは、本日馬車馬のように働いたカメラ機能である。
「何するつもりだ、お前」
「馬鹿な承太郎の為に、このDIOが気を回してやっているのではないか」
「回りくどい。答えになってねーぜ」
「思い出を作りたいというのなら、わたしの写真だけを取っても仕方なかろうに」
「!」
突如去来した横暴な引力に、承太郎の巨体が傾いた。下手人は承太郎の肩に回された、DIOのしなやかな腕である。DIOは引き寄せた承太郎の胸元に身を寄せ、今にも唇が触れ合わん距離に顔を接近させた。DIO。承太郎がその名を呼び終える前に、
カシャ。
軽妙な音が響き渡り、液晶画面には口の端を吊り上げて笑うDIOと訝しげにDIOを窺う承太郎が映し出される。外向きに設定されていた筈のカメラは、いつの間にか内カメラへと切り替わっていた。
「ふふふ、なんという阿呆の面だ!お前、写真に写るのは下手なのだな。20年越しの新事実だ」
「……撮るなら撮るって言えよアホ」
「言わんでも察しろ、わたしのしたいことくらい」
「貸せ」
「ん」
大人しくスマートフォンを渡したDIOは、にやにやと試すような笑顔を浮かべている。腹の立つ顔してんじゃあねぇぜアホ、とは思いつつも、同時に可愛いなぁ畜生この野郎と思ってしまうのが承太郎の業の深さなのだった。
「DIO」
「どうした」
「愛してる」
「は――ん、」
カシャ、カシャ。
続けざまに切られたシャッターは、無防備に目を見開くDIOと余裕ぶって笑う承太郎、そして触れるだけのキスを交わす2人の2つの瞬間を捉えていた。DIOの口から文句が飛び出す前に、承太郎は撮ったばかりの写真を眼前に突き付ける。
「なんというくっそ可愛らしい面だ」
「……口の腐るようなことを、お前はぬけぬけと」
そして再びスマートフォンをテーブルへと放り出し、DIOの頭を胸元へと抱き寄せた。もぞもぞと顔を上げたDIOは、それはもう不機嫌な顔をしている。睦言めいた言葉への羞恥心は見当たらない。ただただ仕返しされたことが悔しかったのだ。そういう所もうっとおしくて可愛らしくてならんのだと、承太郎は口元を緩めるばかりだ。
「お前は、時間が経てば経つほどに可愛げが消えてゆく。出会ったばかりの頃のお前はそういうことを言わなかった。思っていても言えなかったのだ。初心な若者だったものだから。だというのに40歳のお前はなんというか、わたしに対する遠慮がなくなった。このDIOは、強く強くそう思う」
「それでも、大事にしてやっているだろう。もしかすると17歳の時よりもずっと。それくらいのことは、分かってるんだろ」
「すべすべとそういうことばかりを言うのが気に入らんというのだ。承太郎は、ちっとも分かっていない」
承太郎の唇が、DIOの前髪の生え際に触れる。DIOの唇は物を言いたげに戦慄き、しかし抗議の文句を引込めて真一文字に引き結ばれた。DIOは承太郎を振り払い、厚い胸元へぐりぐりと額を押し付けた。そんなDIOの髪を梳いてやりながら、淵の赤くなった耳元に承太郎は囁きかける。
「どれだけ年を取ろうが老けようが、俺がお前を愛していることに変わりはない」
17歳。未だ他人の肌の温もりも知らぬ青年だった頃の承太郎が決して言えなかった、暖かな愛情を。
「――承太郎の」
DIOの赤い双眸が、上目で承太郎を窺っている。淵までが、真っ赤である。
「何年も何年もわたしが好きでたまらんのだという所と、今更思い出を欲しがったりする所は……ちょっとだけ、可愛いと思う」
「可愛いとか言われたって嬉しかねーよ、馬鹿」
「馬鹿とはなんだ馬鹿――……おい」
「もう12時だ。食事も風呂も済んだ。することはひとつだろう」
日に焼けた承太郎の手が、肌蹴た浴衣の裾を割り、DIOの太腿を撫で上げる。途端に冷めたような顔になったDIOは、承太郎の首筋を甘噛みした。
「いてぇよ」
「布団まで待てんのか」
「待てねぇ」
「なにを、ハイティーンのガキのようなことを、っ、お、おい、性急すぎるぞ、承太郎……」
下着の上から後孔の入り口をふにふにと愛撫され、DIOは喉の奥で息を詰めた。本来は性器でもなんでもないはずのその箇所は、すっかり触れられるだけでふしだらな欲求を掻き立てられる性感帯と化している。元から、そういう気はあった。ただ承太郎と体を重ねるようになってからは、日毎に反応が過敏になっているような気がしてならないとDIOは思う。まるで一秒でも早く承太郎の性器を受け入れる準備を整えようとでもするように。
「……!」
「なに締めてんだよ、ドスケベ」
「お前のせいだッ!」
意識とは別のところで、身体までもがいやらしくうねり承太郎を求めている。元来人を支配せねば気が済まぬ性質であるDIOは、身体が承太郎仕様に作り替えられてしまっていることに大変な憤りを感じている。しかし反面、そうして承太郎に支配されることを幸福に感じているのも否定しようのないDIOの本心だったのだ。
「う、ん……ぁ……ふ……」
悔しさを刻みつけるように、DIOは承太郎の首筋をはむはむと甘噛みする。依然、後孔は下着の下で収縮を繰り返し、承太郎の指先がくるりと輪を描くようにそこを撫で上げれば甘い痺れに腰が揺れた。
その度首筋に突き立てられる、力加減を忘れた牙からの攻撃に、承太郎はDIOの視界の外で満足げな笑みを零す。耳の端を食みながら、膝の先でDIOの性器を刺激した。そうして灯されてゆく生々しい体温を慈しむように、肌蹴た浴衣に包まれた体を強く強く抱きしめるのだ。
「あ、あぅ……じょ、承太郎、そろそろきついし、暑い……脱ぎたい……」
「もう少し我慢しな」
「は、じょうたろ……んん……」
DIOの体が反転する。背を向けたDIOの体を膝の上に抱え直し、承太郎は改めて室内灯に照らされたDIOを見た。申し訳程度に浴衣を引っ掛けた身体は、顔を覆ってしまいたくなる程に無防備だった。薄桃色に染まる肌を隠すのは柔らかな布ただ一枚きりのみなのだ。辛うじて帯で留められているとはいえ、肌蹴た袂からは勃起しかかった乳首が覗き、裾からは引き締まった太腿と緩く押し上げられた黒い下着が覗いている。
「お前、俺以外の男の前で浴衣なんか着るんじゃあねぇぞ」
嘆息とも苦笑ともつかぬ息を零しながら柔らかな頬を撫でれば、DIOは首を傾け、にんまりとした笑みを承太郎に見せた。お前次第だ。そう言っているようでもあれば、当然だ、としおらしいことを言っているようでもある。ただ普段は小憎らしさばかりが先行するその表情が、情事の気配が差した今ばかりはとんでもなくいやらしいことだけは確かなのだった。
「セックスとなれば、ろくに睦言も寄越さずわたしの服を剥ぎに掛かってきた承太郎が、脱がせたくないときたか」
「いつまでも昔の話ばっかしてんじゃあねぇぜ、くそじじい」
「お前だってその内――んぁっ、あ、」
承太郎の指先がDIOの乳首を摘まみ上げた。色味を深めたその箇所は、歓喜を示すように硬く尖る。触れられたら勃起をして、気持ちよくなってしまうのだ。他でもない承太郎に、そんな身体に作り変えられてしまった。やはり屈辱とも歓喜ともつかない感情を持て余しながら、DIOは荒い息とあえかな嬌声を漏らす。そして承太郎を見る。精悍な横顔は、どこに触れられたというわけでもないのにうっすらと紅潮していた。
「……おい。おい、DIO」
「ん、なんだ……?」
「なーににやついてやがるんだ、てめーは。人の顔じろじろ見やがって」
「ああ、ふふ……うむ、ふふ」
「DIO、――」
ほんのりと赤いDIOの掌が、ひたりと承太郎の頬に張り付いた。DIO。DIO。DIO。甘やかな響きを纏ったその言葉を貪るように、DIOは承太郎にキスをする。重ねた唇を激しく嬲り、濡れた舌で口内を愛撫した。承太郎の頬の熱が増した。同じだけ、DIOだって興奮する。引き締まった腰は、いやらしくもぞもぞと揺れていた。そうして承太郎とのキスを堪能した後に、

「やっぱりお前はいつまでたっても可愛らしい男だよ、承太郎」

呼吸が融け合う至近距離で、DIOはとろけるような甘い声を承太郎へと捧げたのだった。
「……可愛いとか言われても嬉しくねーって言ってるだろうが」
「別に、承太郎を喜ばせてやろうとしているわけではない」
「ああ、ああ、どうせ思ったことを思ったままに言ってるだけなんだろう、お前は」
「分かっているじゃあないか、あ、あ、ふ、ふふ……」
袂から滑りこんだ承太郎の手が、DIOの腹筋の筋をなぞる。そんな接触にすらも熱を昂らせながら、DIOは絶えず承太郎へと視線を送る。DIOの身体を高める手を止めず、承太郎は怪訝に細まった緑の瞳でじろりとDIOを睨みつけた。
「だから見過ぎだ、お前」
「ふ、ふぁ、ふ……仕方が、なかろ……?わたしは、ぁ、けいたいでんわも、かめらも、持っていないのだから、ん……この目でお前を、覚えておかなければな――は、ぁ、ぁあ!」
下着の上から性器を掴まれ、DIOは首を反らし天を仰ぐ。晒された無防備な喉元に、承太郎は噛み付いた。白い首筋に浮き出た頸動脈へ。普段、DIOがそうするように。
「あっ、あ、や、じょうたろっ、き、きもちわるい、濡れてるっ、脱がせ、あっ、ふぁ、ん、ぁ……」
引き下ろされた布面積の狭い下着から飛び出したDIOの性器は、既に硬く勃起し先走りを零している。承太郎の大きな掌に滅茶苦茶に扱かれ、泡立つような水音すらも発していた。しかしDIOは、そんなだらしない下半身になどは一切の興味を示さずに、承太郎だけを見つめている。熱に蕩けた赤い双眸は、承太郎以外の一切を映すことを拒絶しているかのような頑なさがあった。
「……死ぬほど落ち着かねぇんだが」
「こ、このDIOが、知るものか、あは、は、ぅ、あ、あ、あっ」
「ったく、お前なぁ」
「ぁ……承太郎……?お前、なにを……――!?」
DIOの腰元から、雑に結ばれた帯がしゅ、と音を立てて抜き取られる。そしてそれは、DIOが文句を飛ばす前にぐずぐずに濡れたDIOの目元へと巻きつけられた。承太郎の馬鹿力によって堅く蝶結びにされた帯は、ちょっとやそっとのことでは解けそうにはない。
「お、お前、承太郎!しおらしいことを言ってやったわたしに、なんたる仕打ちを!」
「自分で言うな。ありがたみがなくなるぜ」
「こ、こういうのは、嫌いだ!早くはずッ、ぁ!?や、あっ、な、なかにぃ……!」
下着の隙間から侵入した承太郎の指が、ずぷずぷとDIOの体内に埋まってゆく。漸くやってきた挿入の悦びに、DIOの身体は歓喜に打ち震え、勃ち上がった性器は硬度を増した。しかし感情がついて行かない。気持ちが良いのは身体だけで、DIOの頭の中はそれはもう、承太郎への不満と罵詈雑言で埋まっている。それらすべてがろくな言葉になることはなく、嬌声として吐き出されてしまうこともDIOは悔しくて悔しくてならなかった。
「じょ、じょーた、ひっ、や、あ、りょ、りょうほうは、だめだっ、あっ、やッ」
「……」
「ふあぁあ!あっあ、ああ、は、はずせっ、は、はず、してぇ、あ、あ、ひ――!?」
「……、」
「い、あ、うああ、あっ、だ、だめ、そこぉ!や、やらぁっ、あ、へ、変になるッ、だめ、だめっ、あ、ああああ!!」
承太郎は声を出さない。DIOへ気が狂わんばかりの快楽へ堕としてしまうべく性器を扱き、前立腺を刺激して、悶えるDIOを肴に雄くさく笑うのだ。常にはない、サディスティックな気配すらも覗いている。夜の空気が満ちた和室には、ただDIOの嬌声だけが甘く甘く響いていた。
「じょうたろっ、いく、いくっ、でひゃうっ、も、こんな、わたし……!」
「……」
「あ、あ、ぅ、ッ、~~!な、なぜなにも、喋らんのだ、承太郎!わたしばかりこんなっ、あ、ぁ、ひンっ、あ、じょ、じょーたろぉ」
「……DIO」
「っ、あ……!」
数分ぶりに鼓膜を打つ承太郎の声が――愛しい男の声で紡がれた己の名前が、DIOの脳を融かしてゆく。承太郎への不満はぐずぐずと崩れ落ち、後孔は搾り上げるように承太郎の指へと絡みついた。
DIOの素足が畳を蹴る。ずりずりと下がってゆく体を抱き直し、承太郎は赤く熟れた頬へキスをする。涙に濡れた頬の、愛おしさといったらなかった。承太郎は何度も何度も、DIOの顔のあちこちにキスをした。
「あんまり見られてちゃあ、緊張しちまうだろうが」
「は、ぇ、あっ、あ、ひぃ、」
「ちゃんと抱いてやりてぇ、失敗なんぞはしたくねぇ、なんてことを思う程度には、俺だってまだガキなんだぜ。お前の前では――お前の前でだけは、何年たっても俺はな……DIO、」
「や、やめろ、そ、そんなこと言われたら、っ、ず、ずるい!承太郎は、ずるい!」
「オラ、出すなら出せよ。見ててやるからな」
「じょ、たろぉ、じょうたろぉっ、でる、でる、じょうたろっ、い、いくっ、いっひゃぅっ、あ……!あ、ひ、あぁああああ……!!」
承太郎の掌の中で、DIOは射精した。指の間から零れてゆく精液を塗り込めるように、承太郎は尚もDIOの性器を扱き、激しく収縮する内壁を攻めたてる。口の端から涎を零しながら、DIOは喘いだ。
「いやぁ、いや、そえ、いやぁ!!だめ、じょーたろぉ、と、とまらないぃッ、あ、あ、や……やめ、て……!」
「もっと――お前のイクところが見たい」
「っ、じょ、じょーたろ……!」
「あんあん喘ぐお前はさいっこうに可愛い。だからもっと――な?」
「し――しんで、しまえっ!承太郎の、あほっ、あほっ、あ、あああ……~~!」
大股に開かれた脚はずりずりと畳を滑ってゆくばかりで、閉じられる気配はない。視界の外のことに気を払える余裕など、既にDIOは失ってしまっている。あまりにもあられのない姿だった。浴衣は最早肩口と腕に絡んでいるだけで、桃色に染め上げられた胸や腹、柔らかな内腿に尖った乳首、びくびくと震える性器が淡い室内灯の元に晒されていた。目元に巻かれた帯だけが、神経質に赤い両目を覆い隠している。
たまらねぇな、と心から承太郎はそう思う。口には出さなかった。出せなかった。軽口を叩く暇があったら、一ヵ所でも多くDIOの肌にキスを施したかったからだ。
柔らかく綻んだ内壁を愛撫する。性器の先端に爪を立てる。刺激を与えるたびにびくびくと震えるDIOは、既にドライオーガズムに達しているのだろう。嬌声がとろけてゆく毎に文句は減り、足はくったりと開かれてゆく。浴衣の端を掴んで善がるDIOの姿は、今や承太郎だけが目にすることの出来る絶景である。
「き……きもちいい……よすぎて、へんに……おかしく、なるぅ……」
「ん、そろそろ……もっとおかしくなってみるか?」
「なる、なるっ、なりたい……!お前で、いかれてしまいたい……このDIOは……DIOは……!」
ぶんぶんと頷きながら、DIOは承太郎の首筋に鼻先を寄せた。塞がれた視界を補うようにくんくんと鼻を鳴らし、汗ばんだ肌を食む。そんなDIOの頭を一撫でした後に、承太郎はDIOの身体を畳の上へ、俯せの姿勢に横たえた。そして腰を掴み上げる。臀部を高く掲げさせる。皺のついた浴衣は滑り落ち、DIOの臀部はもちろん、引き締まった背の肩甲骨の辺りまでが露わになる。ブロンドの群生の中で、蝶結びにされた紺色の帯が揺れていた。
「それじゃあ――いれるぜ。お邪魔します、っと」
「ああ、あ、ど、どうぞ……は……はやく、承太郎……」
下着の後孔を覆う部分だけをぐいと親指で引っ張り、そうして現れたDIOの体内への入口へ、猛った承太郎の性器の先端が押し付けられた。承太郎は、引っ張り寄せたDIOの浴衣の裾で、勃起したDIOの性器を包み込む。衣擦れの刺激にDIOの唇が戦慄いた。そして嬌声を、或いは承太郎、と呼びかける声が飛び出す前に、
「あ……あああぁあああぁあ…………」
承太郎の性器はDIOの身体を割り開き、浴衣に包まれた性器からは白濁の精液が零れるように溢れたのだった。
「あ、あ、はは……ま、また、いってしまったな、わたし……突っ込まれただけなのに……」
「いつもより感じやすくなってるんじゃあねぇのか、お前。これのおかげで」
「ぅあ」
蝶結びの帯を引っ張られ、DIOの顎が仰け反った。離してやれば、途端DIOは片頬を畳に押し付けるように着地して、はあはあと荒く熱い息を零す。頭から爪先までを犯す快感が、すっかりDIOから減らず口を奪ってしまっている。
「動くぜ」
「ん、あ、はぁ、ああ~……」
DIOが答えるより早く、承太郎はDIOの身体を深く穿った。充分に解かされ、そして承太郎を受け入れることに慣れ切ったそこは、承太郎をより奥へと誘うようにはくはくと収縮を続けている。
「は……今日はなんか、すごいな、お前……」
「ふ、ふかい……すごい、じょうたろ、あ、か、かたいぃ……」
「……嬉しそうでなによりだ」
「ひ、あああっ、あ、や、あ、きゅうにっ、あああ、あ゛っ、ひぃぃ!!」
ぱんぱんと肉のぶつかる音が鳴り響く。嬌声を零すDIOは耐え切れぬと啜り泣き、しかし身体はどんよくに快感を、承太郎を求めている。腰は絶えず揺れていた。畳に乳首を押し付けるように、上半身ももぞもぞと動いている。畳を引っ掻く指先だけが、処女の様にいじましい。
「オラもっとケツ振れよ、淫乱」
「あ、ああっ、い、いんらんゆうなっ、あひっ、あ、あ、そ、そんな、ふかいっ、あ、あ、や……!」
ぺりしと叩かれた臀部が過剰に激しく揺れる。掌の形に赤くなった白い肌に、不思議と承太郎の気分は高まった。目隠しによって煽られているのは承太郎も同じだったのだ。普段は封じ込めよう、と意識をしなくても腹の底に引っ込んでいる嗜虐欲が、ほんのちょっとばかり引き摺り出されてしまっている。昂揚感に身を任せるがまま、承太郎はまるで凌辱のように激しくDIOの身体を蹂躙した。
「ひっ、はぁああんッ、あ、ああっ、あ、い、いやぁっ」
「ああ?嫌だってんなら抜いてやろうか、おい?」
「あ、ど、どうして!?いや、いやだ承太郎、ぬくな、ぬかないで……」
「なら文句垂れるんじゃあねぇよ、ほら」
「あああぁああ!これ、これぇ……!!」
引き締まった臀部の肉を掴み寄せ、承太郎は前のめりに一際深く、熱い媚肉を押し広げた。DIOは畳に押し付けた顔を、いやいやをするように振っている。口元からは、やはり唾液が零れている。帯は既に溢れる涙で変色し、目の上の辺りに濃い色を落としていた。
「……DIO」
だらしなくとろけたかんばせを、もっとよく見たいと承太郎は思った。両目の網膜に焼き付けておきたいと、強く強くそう思った。DIOとは数えきれないほど身体を重ねてきたし、これからも回数は増えてゆくばかりなのだろう。しかし今日の日のDIOというものは、今ここにしか存在しないのだ。DIOに纏わる時間の全ての、一瞬たりともを取り逃したくない。馬鹿だ馬鹿だ、成就されることのない独占欲だとは思えども、それは承太郎が17歳の頃からその胸に秘め続けてきた本心だった。
「あ……ああああ……」
承太郎はDIOの汗ばんだ片足を持ち上げて、快感に打ち震える身体を傾けさせた。曝け出された脚の間に赤黒い性器が突き刺さる光景に、承太郎は無意識に唾を飲んだ。DIOと繋がっているのだ。これに勝る幸福は、今のところ見当たらない。
「じょ……たろぉ……」
側臥の体勢になったDIOは、閉ざされた瞳を承太郎へと向ける。甘ったるく承太郎を呼ぶ。
「ああ、DIO」
答えてやりながら、承太郎はDIOの目を拘束する帯をずり下げた。濡れた瞳は室内灯の刺激に細まり、その拍子にとろとろと涙が零れてゆく。それでもその赤い双眸は、承太郎から逸らされることはなかった。じっとじっと、承太郎を見つめている。そうして約10数秒。ようやく像を結ぶ視界にはっきりと承太郎の姿を捉えるやいなや、
「ふふ、ふ……承太郎が、やらしい顔をしているぞ……」
泣きそうなか細い声でそう呟き、目を細め、揶揄するようにこてりと小首を傾げた。次の瞬間、承太郎が発作的に激しいキスを仕掛けた理由とは「愛おしくてならなかった」。理由などそれ以外の何ものでもない。
「ふぅ、ん、ぁ、は、はぁ、あ、あふっ、ん、んぅ、ううう……!」
DIOの口内は承太郎の舌で余すところなく愛撫され、体内では凶悪に猛った性器が暴れている。気の遠くなるような快感に身を委ね、DIOはされるがままに犯された。承太郎の全てを受け入れるように、逞しい肩を抱き締めた。もしかすると快感に耐える為にしがみ付いていただけなのかもしれないが、承太郎は確かにそう思ったし、そうであれば幸せだとも思ったので、とろける頭で「そういうことにしておこう」と判断し、激しくDIOの身体を貪った。
「ああ……最高だなお前……すげぇ気持ちいい……」
「わたしも、わ、わたしも、いい……!承太郎にされるの、すきだ……!」
「……デコと頬と口、どこがいい?」
「くち、くちじゃあないと、だめだっ」
「だめときたか」
「ん、んんぅ~……」
口先から伝わる幸福感に浸るように、承太郎はゆっくりと目を伏せた。浸るだけでは足りない感慨は性衝動となり、下半身は蠢き続けている。唇が離れた拍子に、DIOは息をするように小さく承太郎、と呟いた。口の端を緩やかに持ち上げ、涙に濡れた目を細め、まっすぐに承太郎を見つめて微笑むのだ。
――このまま永遠に時が止まってしまえばいい。
秋の夜風の様にそっけない感傷をDIOへと塗り込もうとするかのように、承太郎は両腕でDIOを抱き締め、畳の上に転がった。
「あ、あぁ!?や……そ、そこっ、はぁ、あ、あっ、ひぃッ、じょ、じょうたろうっ、承太郎!らめぇっ、でひゃうう!!いやだ、いや、いやぁ!!」
「いっちまえばいいだろう……俺も、もう……!」
「しぬっ、しぬぅ、しんじゃうぅぅ!もうやだ、やだ、じょーたろっ、いやあぁああ!!」
「……!!」
背後からDIOを抱き締める承太郎は、自らの脚をDIOのそれに絡ませ、暴れる身体を拘束する。承太郎の腕の中でDIOがもがく。脱げかけの浴衣ががさがさと衣擦れの音を立て、丸まった爪先は何度も青い畳を蹴りつけた。嬌声は最早悲鳴である。肉のぶつかる音と粘着質な水音は止まらない。承太郎は止まってやれないことを詫びるように何度も、汗ばんだ首筋に口付けた。
「いくっ、でる、でるっ、くるッ、いやっ、しぬ、しぬ、ひあぁああ!!」
「出すぞ、DIO……お前の中に、出すぞ……!」
「あ、あ、もうだめ、や、あ、あああっ、あ、あああああ――……!!!」
DIOの性器の先端から、薄い精液が噴出した。搾り上げるような内壁の脈動に耐え切れず、承太郎はDIOの体内で射精する。じん、と脳と腰が痺れる快感に、承太郎は訳もなく泣きたくなる。DIOの中で射精をした時はいつもこうだった。意識が散漫になってゆく射精の余韻に、現実が歪んでしまう。この快感と充足感が夢であって欲しくはない。現実を手繰り寄せるように、承太郎はくったりと横たわるDIOを抱き寄せ、乱れた髪に鼻先を埋めるのだ。
「はー……すごかった、承太郎……」
「お前も大概だ……」
承太郎を仰ぎ見て、DIOは力なく笑った。
「……なにやら、17歳だった頃のお前に抱かれているようだった」
「はあ?」
「やたらに激しかったというか、力任せだったというか……ふふふ、目隠しひとつでああも興奮できるものであるのだな。お前もまだまだ、子供だな」
「……だからお前も大概だっつってんだろうが、オラ」
「んー、ふ、ふふ」
承太郎の指先が柔らかなDIOの頬を摘まみ上げる。DIOは笑いながら首を振った。
「――随分と長く……共に時を過ごしてしまったものだ」
「どうした、急に」
「ん……偶には感慨に浸るのもよかろう?」
「だからお前は、一々そう回りくどい――」
「あいしてる」
「……DIO?」
胸の前に回された承太郎の腕に触れるDIOの指は、未だ熱の気配が引かず、薄桃色のままである。訝しげに眉を寄せる承太郎を嘲笑うように吊り上げられた口の端は、しかしどうしようもなく滲んでしまう暖かな慈愛に綻んでしまっていた。

「17歳のお前も、40歳のお前も、変わらずに愛している。このDIOはな――ふふふ、承太郎、承太郎よ、喜べよ、果報者め」

承太郎の目の奥で、耳の奥で、過日のDIOとの記憶がぶわりと芽吹くように蘇る。色々なことがあった。決して、幸せなだけの日々ではなかった。そのすべてを、承太郎は何一つ取りこぼさず覚えているつもりでいる。それでもこの40歳になった今、DIOと20年以上の時を過ごしてきた道の果て、ちょっとした後悔と共にぼんやりと思うのだ。もっとちゃんと写真を撮っておけばよかった、もっと色んなところに連れて行ってやればよかった、もっと――羞恥心など吐き捨てて、愛している、愛している、たった5文字の言葉の羅列を囁いてやればよかったと。
「お、ん、ふふ……硬くなったな、承太郎。若々しいことで結構だ」
「DIO」
「ああ、うむ、もう一度付き合ってやるのもやぶさかではないぞ、このDIOは」
「愛してる」
「……ん」
口元を緩めたままに、DIOはふっと目を伏せる。赤い耳朶を食みながら、承太郎は再び反応を見せ始めた性器を一旦DIOの体内から抜き去り、体を起こした。寝転んだままのDIOは、浴衣の絡みついた腕をくったりと承太郎へ伸ばしている。汗ばんだ身体や赤い頬には、くっきりと畳の目が刻まれていた。
「あ……いや、承太郎。起こす前に、下着を脱がせろ……さすがにもう気持ち悪くて、履いていられない」
「……ああ、悪かったな」
「新しいのを買ってくれても構わんぞ?お前がこのDIOに履かせたいと思うものを、見繕ってくるといい」
「たかるんじゃあねぇぜ」
承太郎が恭しく白い脚から抜き取った黒い下着は、見るも無残に濡れていた。選択を擦ればどうにでもなるとは思えども、既に脳裏では新しい下着を買いに行く算段を進める承太郎である。勿論、DIOが期待するようないやらしいものを買ってくるつもりは毛頭ない。
「ん」
「おう」
再び伸ばされたDIOの手を掴み、承太郎はその体を引き上げた。そうして一度ぎゅっと抱きしめた後に、自身は畳に横たわり、腹の上へとDIOを誘導する。承太郎の下半身を跨ぎ、DIOは蠱惑的に舌なめずりをした。
「それじゃあ承太郎、いただきます」
「ああ、どうぞ」
「ん、ふふ……ぁ……」
承太郎の性器が、ずぷずぷとDIOの内へと飲み込まれてゆく。その絶景を特等席で眺めながら、承太郎はああ好きだ、好きだ、この男は永遠に自分だけのものなのだと、喉が焼けるような陶酔に目を細めるのだ。
「あ、あ……ふぅ……ん、ぁ、あ……いい……」
DIOが腰を振る動きは、酷く緩慢なものだった。それでもいいのだ、気持ちが良いし幸せだ、とどうやら心の底から思ってしまっているらしい自身に苦笑を零し、承太郎はDIOの太腿を撫で上げる。DIOはいやらしく口を歪め、きゅうと食んだ承太郎を締め付けた。
「ふ……ん……ん……?」
穏やかな波のような快感の渦中、不意に承太郎の視界に飛び込んできたものがあった。テーブルの上の、スマートフォンである。
「ああ、あ……あ……すごい、じょうたろうの、すごい……あ、あ……」
DIOはすっかり承太郎の性器に夢中になっているようで、うっとりと目を閉じて腰を上下に降っている。そんなDIOの姿をしばらく堪能した後に、承太郎は手を伸ばしてスマートフォンを手繰り寄せた。手際よく立ち上げたのは、カメラ機能である。
「DIO、おい、目ぇ開けろ」
「ん……ぁ、はぁ……?承太郎……?」
「してくれるんだろ、ピース」
「ぴーす……?」
どうやら既に、理性は希薄になっているようである。ぼんやりとした表情で再びぴーす、と呟いたDIOは、10秒ばかりの間を開け、首を傾げて微笑んだ。右手と左手、両方の手で力なく形作られたピースが、頬の隣に添えられている。
カシャ。
フラッシュが焚かれ、無機質なシャッター音が鳴る。液晶画面に映された画像を確認することなく、承太郎はスマートフォンをぞんざいに放りやった。そしてDIOの腰を鷲掴み、つい先ほどまでの緩やかな抽挿が嘘のような激しさで腹の上の身体を突き上げる。DIOの顎が沿った。両腕からは、とうとう浴衣が滑り落ちていった。

「あっ、あっ、ひ、あああっ、ああ、ぐりぐりされるの、すきっ、すきぃ、じょうたろっ、すきぃぃ」

DIOの裸体が崩れ落ちる。力なく承太郎に折り重なり、しかし浮いた腰だけはいやらしくくねっている。承太郎にちゅっちゅと何度もキスをされ、幸せそうに微笑む笑顔は今にもとろけてゆきそうだ。畳の上に放り捨てられたスマートフォン、その画面にも、同じく幸せそうにとろとろと笑いながらピースをするDIOが映っている。



「ああ……急に携帯電話を新しく変えたと思ったら、映りが比べ物にならんほど綺麗だからであるのだな」
承太郎の膝に頭を乗せたDIOは、今日一日で承太郎が撮り出めた写真を見ながら口の端を吊り上げた。承太郎を嘲笑う、意地の悪い表情である。声音にだって、隠しきれない底意地の悪さが滲んでいる。図星であることも含め腹が立って仕方がなかったので、承太郎は手にした団扇でDIOの額をぺしりと打った。
「ふふふん、図星か」
DIOはにやにやと笑うばかりである。
「また連れていけよ、旅行。その前にわたしにカメラを買い与えるのだ。わたしにも思い出を作らせろ」
「そうだな。帰ったら早速見に行くか」
「ん、殊勝な心がけだ」
「……DIO」
「ん?」
「悪かったな。2日しか時間取れなくて」
「気にするな。お前にそこまで期待はしちゃいない」
どうやらDIOは本心からそう言っているらしかった。承太郎はたまらない気分になる。悔しいと思うからではない。ただただDIOの健気が愛おしく、申し訳なくてたまらなかったのだ。
「ふふふ、承太郎。承太郎、よー」
俯せになったDIOが、ぐりぐりと額を承太郎の太腿に押し付けた。こそばゆさに耐え、承太郎は乱れた金髪を撫でる。柔らかな髪が指に絡みつく心地よい感触は、20年前からちっとも変ってはいない。
「次の旅行はいつになるのだろうな。ま、わたしの時間は無限にあるわけだから。20年でも30年でもまってやるつもりではいるのだがー」
――今年の冬には、当初の予定通り1週間の旅に連れて行ってやろう。
決意を新たに、承太郎はDIOの額に口付けた。スマートフォンの待ち受け画面がいつのまにか、ピースをするDIOの画像に設定されていたことに気付くのは、今から5時間後のことである。




好きだ好きだ言い合う承DIOが好きすぎてたまらんです


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