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+4.5~+5

「……まぶし……」
半開きになったぼくの瞼を、刃物のように眩い朝日が軽快に貫いた。あまりの眩しさに、瞬きを5つ。溢れた涙を拭ったところで、ああ朝が来たのだなぁと、ぼんやり時間の流れを認識する。
「あれ、ディオ……?」
今日もいい天気だね。
隣にいるはずのディオにそう語りかけようとしたのだが、いつの間にか彼がいた場所はもぬけの空になっていて、広いベッドにはぼく1人だけが取り残されているようだった。慌てて布団を跳ね除けた。肌を刺す朝の空気に全身が粟立った。ものすごく、寒かった。

「おはよう、ジョジョ」
「うわっ!?」
「声を掛けただけじゃあないか。そんなにびびるなよな」

まさにうんざりといった調子のディオの声は、どうやら窓際で発せられたものらしい。蹴飛ばした布団を手繰り寄せながら窓の方を見てみると、そこにはすっかり微睡を終えた様子のディオが、桟にもたれてこちらを見ている。
柔らかな朝日を浴びる彼の、幻想のごとき美しさ。
布団をかぶることも忘れ、しばし見とれる。ディオは呆れた顔をして溜息をついた。
「馬鹿の面になってるぜ」
「うぅん、今だけはすこしだけ、馬鹿でもいいや」
「ばぁか」
「ふふふ」
「何喜んでるんだよ、ばーか」
小首を傾げてディオが笑う。朝日の世界を金の髪がひらりと舞った。
「それじゃあ、先に下に行ってるからな」
「え」
「喉が渇いてるんだよ」
「……もう少し、一緒にいたいな」
「誰のせいで喉カラカラになっちまったと思ってるんだよ。じゃあな、ジョジョ。君も早く下りてくるんだぜ」
「……君は、薄情だなぁ」
「寝坊助の君が起きるまで待ってやってたってのに、薄情呼ばわりなんて酷い奴だな、ジョジョ」
あまりに潔く、ディオは扉の向こうへと消えていった。確かに待っていてくれただけでも、彼にとってはとても情に溢れた行為ではあるのだろうけど。もっとこう、もっと、ね?なにかあってもいいんじゃあないのかな、とかね、こういうのって重かったりするのかな。
「……、」
シーツの上を、あちらこちらに転がった。
昨日はこの上で、ディオとたくさん、夜通しでいやらしいことをしていたのだ。嘘みたいな本当の話。頬は熱くなって、口元はにやけてゆく一方である。


『や、やめ、じょじょぉ、だ、だめだそれ、くるしいっ、ひぃっ、あ、あ゛っ、あぁあ……!!』
根元を掴み上げたディオの性器は可哀想なくらいに張りつめていた。頭の隅っこの方じゃあ早く解放してやらなきゃな、と思っちゃあいたのだが、ぱんぱんになったそれを扱くたびにぼくを咥え込んだ内壁はきゅううんってな具合に窄まって、それで得られる快感がまた格別なものであったので、ぼくはディオの無体を強き続けてしまったのである。
『もっ、もう、もうらめぇ、あ゛はっ、あぁん、あ、じょじょぉ、あっ、あっ』
仰け反った首にたくさんのキスをした。唇にだって、ふやけちゃうんじゃあないのかってくらいキスをした。ぐったりとシーツに沈んだディオはもう指先を動かすことすらできなくなっていて、ただただ腹の底から押し出されたような嬌声を漏らすのみだった。
『ごめんね、ごめん、ごめん』
『うぅん、うん、うん……』
馬鹿みたい謝って、馬鹿みたいに頷いて。
意思の疎通なんてのはまったくできていなかったような気がするが、物理的にも精神的にも細胞レベルで溶け合ってしまっている感覚があったので、日付が変わる頃には言葉などはすっかり不要なものとなっていた。
真正面から彼の顔を覗きこんで、笑いかける。笑い返してくれた彼の顔は、それはもう穏やかなものだった。
どちらともなく口付け合う。口を塞いだままに下半身を動かすと、繋がりあった口の中で、彼はもごもごと嬌声を上げた。そんな彼の後頭部をシーツの上に押し付けて、いっそう激しく彼の口内を貪った。彼の嬌声をも、飲み込んでしまわんがために。
『っ、ふぅ、ぅ、っ、んん、んぅ、ぅ、は、はひっ、っ、っ――!』
唾液で滑るたびに口付け直し、彼の口に蓋をする。途切れ途切れの吐息が耳に心地よい。盛り上がる欲望のまま犬のように腰を振り続ければ、さすがにその内彼も抵抗を示すようになって、どんどんと踵でぼくの臀部を蹴りつけた。痛くはない。じゃれつかれているようなものである。
『……いきたい?』
ディオは激しく頷いた。
『いじわるして、ごめんね』
ディオは、小さく首を横に振った。ぼくを蹴るばかりだった両足も、いつのまにか蔦のようなしなやかさでぼくの腰に絡んでいた。
愛しさが競り上がる。これ以上赤くなるはずのない頬に、まだいけるだろうといわんばかりに熱が集まってくる。
衝動に任せて何度も何度も「あいしている」と囁いた。そのたびにディオはきゅっと内壁を締め上げて、淵の真っ赤になった双眸でぼくを見つめるのだ。

ディオと体を重ねることが怖かった。
それは、そうすることでぼくの根本的な何かが変わってしまうのだと思ったからだ。あの夢の中に現れた、ディオの首を絞めるぼくには決してなりたくないと思ったからだ。
だけれども――

『す……す……す、すきぃ、じょじょぉ……ずっとすきだった……じょじょのこと……』

どうやらぼくの恐怖の数々は、まったくの杞憂であったらしい。
だってこんなにも幸せだ。
憚ることなくディオに愛を囁いて、ディオもぼくを好きなんだって言ってくれて、こんなに幸せなことがあるだろうか。
難しいことなどを考える必要などなかったのだ。ディオへの屈折した思いなんて、これから少しずつ折り合いをつけていけばいい。なんていったって、ぼくはまだ20歳そこそこの若造なのである。未来は果てしなく広大だ。ディオと一緒に、どこまでも歩んでいければいい、どこまでも。

『あいしてる』
『うん、』
『あいしてるよ、ディオ』
『ぼくも……あ、あいして、る』
『可愛いなぁ』
『……茶化すなよ、ばか』

慣れない愛を紡ぐ彼の愛おしさなど、この世でぼくだけが知っていればいい。
ディオは、ぼくだけのディオだ。ぼくではない男たちに、渡してなどなるものか。

『じゃあ……そろそろ一区切りつけようか、ディオ』
『ん……ぁ、あ、あ!?あや、や、ふぁ、あ、あっあ!!』

腰を叩きつけながら、尚も絞めたままの彼の性器の先端を、ぐりぐりと刺激した。

『う、うそつき、い、いかせてくれるって、お前っ、や、あふぅ、ん、ん……!』

彼の口に蓋をする。そうしてぼくは、やっとのことでディオの性器を解放した。頼りなく震えるそれを、律動に合わせて扱く。びゅる、と先端から白濁が飛び出した拍子にディオは目を見開いて、もごつくばかりだった唇はぱったりと大人しくなってしまった。
ちょっとばかり心配になって、顔を上げる。視界いっぱいに収まったディオは、なにやら尋常ならざる表情を浮かべ、嬌声ですらない呻き声を漏らしていた。

『あ゛……ぅ……あ゛、ぁ……あー……』
『ディ……ディオ?ご、ごめん、やりすぎちゃったかな……おおいディオー……おお、いっ!?』

不意を打つように伸びてきたディオの両掌が、ぼくの頭をホールドする。引き寄せられるがままに、触れるだけのキスをした。たったの一瞬だけで離れてしまうキスを。
目を白黒させるぼくをよそに、ディオはくすくすと笑っていた。

『……死ぬかと思った』
『あ、あは、あはは……ごめんね。加減が分からなくて……』
『謝るなよ。……こんな幸せがあるなんて、知らなかった。お前がぼくにくれたものなんだな、ジョジョ。……お前だけが、ぼくを幸せにできるんだ』
『ぼくにしたってそうだ。とても幸せだった。このまま死んでも悔いはないんじゃあないかってくらい、もう、本当にさ』
『ジョジョ、』
『うん、ディオ』

輪郭をなぞるように降りてきた彼の指先は、かたかたと震えていた。握り締めてしまいたい衝動に駆られたが、ぼくを撫でる彼があんまりにも嬉しそうな顔をしていたので、好きなようにさせておく。ぼくは、ふわふわと笑うディオを見ているだけで幸せなのだ。

『……あいしてる』

最後にそう呟いて、それっきり黙ってしまったディオの、とろとろに蕩けた泣き顔を。
生涯ぼくは、忘れることがないのだろう。


「おい、君いつまで寝てるつもりなんだよ、ジョジョ」
「へぁっ!?」
「だからどうしてそうびびるんだ」
さっさとダイニングへ向かったはずのディオが、いつの間にかベッドサイドに立っていた。そしてぼくにでこぴんを食らわせに掛かってくる。この痛さから見るに、どうやらこの彼は幻などではないらしい。
「一服したのに君がいつまでも降りてこないから、様子を見に来てやったんだ。ったく、まだ着替えてもないってどういうことなんだ?ほら下着」
「わ、悪いね。ちょっと色々、考え事してて」
「君が考え事だって?ふふん、どうせ昨日のことを思いだしてベッドの上を転がってたとか、そんなところなんだろう?」
「え?ど、どうしてそのことを。君もしかして、見てたのかい?」
「……え、ほ、本当にそんなことをしていたのか?」
「まさしく」
「見にきてやって損をしたっ!」
「わぷっ!!」
ディオが手にしていたぼくの下着が、顔面へと叩きつけられる。慌ててずり下ろした時には既に、肩をいからせたディオは出入り口の扉を開いたところだった。
「す、すぐ着替える!だから待ってて、ほんの少しだけ!」
「嫌だっ!もうお父さんも降りてきてるんだぜ!怒られたくなかったら急ぐんだな、アホのジョジョ!」
「待ってくれよ、ディオー!」

一体昨日の君はなんだったのか、出来のいい幻だったのか。
そうは思えども、昨日までと変わりのない日常が今日も続いていることが嬉しくて、やっぱりぼくの口は緩んでゆくばかりなのだった。
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