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愛だろ愛

ジョセフが電信柱の影で足を止めてからというもの、かれこれ10分は経っていた。2月15日の夕暮れ時である。
そして視線の先にいるディオはといえば、ゆうに30分はジョースター家の玄関前に立ち尽くしているのだが、それは10分前に自宅付近へとやってきたジョセフには与り知らぬところであった。

――ひゅう、と乾いた音と共に、冬の寒波が閑静な住宅街を駆け抜けてゆく。
横殴りの風から逃れるように、ディオはそっと顔を伏せた。マフラーを口元まで引き上げて、ふう、と白い息をつく。赤く染まった頬は、南天の実の色によく似ていた。

きれいだな、とジョセフは思った。
ディオのことなどは一度たりとも好きだと思ったことはなかったし、あんな性悪がいいのだという兄の趣味は生涯理解できる気がしない。それでも彼の容姿が一際優れたものであることと、人を惹きつける輝き、あるいは魔力のようなものを持っていることは認めている。
静寂の世界に佇むディオはただひたすらに美しかった。

――このまま1枚の絵にでもなっちまえばいいのに。ろくなことを言わない口なんか、もう2度と開かなければいいのに。
そうしたらちょっとは好きになってやれる気がしないでもないのだけれども。

ぼんやりとそんなことを考えながら、ジョセフは足元の小石を蹴りつけた。軽やかな音を立てながら、あさっての方向へ飛んでゆく。音の元を辿るように顔を上げたディオは、ここでようやくジョセフの姿を見咎めた。秀麗な顔は、瞬時に悪辣なものへ歪んでゆく。絵画などではありえない、あまりに生々しい表情である。そうしたディオの姿にちょっとばかりの安心感を抱き、ジョセフは愛想笑いを浮かべた。
「……いつからそこにいた」
「ええと、5分?いや10分ほど前?うちの前にこわぁーいお兄さんがいるもんだからよぉー、もう俺どうしよっかなあって困ってたとこなのよ」
「つまりお前は10分もただでこのディオを見ていたわけなのだな。いい度胸だ金を出せ」
「カツアゲはいけないことだと思いまぁーす」
ディオの真正面まで辿り着いた途端に、底の厚いブーツの踵がジョセフの爪先にめり込んだ。遠慮容赦のない先制攻撃にジョセフの体は硬直した。しかしジョセフは1秒程度のロスの後に復活し、攻撃を受けているのとは逆の足で、これまた攻撃を加えているのとは逆のディオの足を踏みつけたのだった。
「やめろ、靴が汚れる!お前の薄汚いのと違って結構値が張るんだぞ、これ!」
「ならお前の方から足をどけろよディオさんよぉー!つーか俺んだってんな安物じゃあねぇから!こつこつ小遣い溜めて買ったやつだから、これ!」
「知るか!」
「おいこらぐりぐりすんなこの野郎!」
「お前だってガシガシ踏むなこのスカタン!」
――びゅううう。
一際大袈裟な音とともにやってきた木枯らしが、不毛な蹴り合いを繰り広げる2人の間を駆けてゆく。
「ひっ、しょぉっ!」
「くっしょぃっ!」
2人が腹の底から絞り出すようなくしゃみを漏らしたのは、ほぼ同時のことだった。
「……」
「……」
一拍の間が空いてしまえば、不毛な言い合いを続けるのがどうにも滑稽に思えてしまって、ジョセフはそっと足を引いた。どうやら似たようなことを思ったらしいディオも、どこか気まずげに足を元の位置へ戻してゆく。2人はへこんだ片足の爪先を見下ろして、またも同時に溜息をついたのだった。
「……で、あんた、結局人んちの前でなにしてたわけ?」
「……別に何も」
「兄貴ならいるはずだぜ」
「知ってる」
言い合いをしている内にずり下がってしまったマフラーを引き上げながら、ディオはそっぽを向いた。もうお前を話すことなどない、と言わんばかりの態度である。ジョセフにしたって好き好んでこの気難しい男と話したいとは思わないのだが、こうもあからさまに拒絶をされてしまえば面白くない気分にもなるのだった。

風が止む気配はなく、夕暮れの街並みは1秒経つごとに冷えてゆく。
そろそろディオに構うのもやめにして家に入ってしまう、とは思うものの、なんだかいつもと調子が違うように見えるディオが気になって、爪先は所在無く固いアスファルトをつつくばかりである。

『やっと帰ってきたなちゃらんぽらん。お前確か、この前話したバンドのCDを持ってるとか言ってたよな?出せ。来週までには返す』
『……あんたが勝手に人んちに上り込んでんのはいつものことだしぃ、別にCDくらい貸してやったっていいけどよぉー』
『?どうしたジョセ、フぅッ!?』
『それ、その空のカップ!これあれだろ、冷蔵庫の3段目の、奥の方に隠してあったやつ!俺のプリン!俺ぁそれ食べるのを楽しみにさむぅいお外をダッシュで駆け抜けてきたんだぜ、この野郎!人の楽しみを奪いやがって!』
『おい離せよ馬鹿力!もう食べてしまったものはどうしようもないだろう!大体だな、本気でこのディオの目を掻い潜ろうというのなら、お前はもっと工夫を凝らした隠し方をするべきなのだ!前のエクレアの時もそうだった!ちょいと奥の方に置いただけで『隠した』だなんて片腹痛いわこのまぬけ!』
『普通は人んちの冷蔵庫なんか開けねぇんだよ、馬鹿!』
『馬鹿とはなんだ阿呆!』
『アホとかいうな人でなし!』
『――ひぃっ!?ちょ、き、君たち何をしてるんだい!?まさかディオ、き、君、ぼくの弟と、う、浮気を……!?』
『やめろやめろ勘弁してくれ不愉快なことを言うんじゃあない!』
『そうだぜ勘弁してくれよ、兄貴!だぁれがこんな性悪と!』

――ディオとの日常とは、大概がこんな感じなのだった。
とにかくディオは、一番付き合いの長いジョナサンのみならず、ジョースターという家の人間に対して遠慮がない。それは少年期の数年間をジョースター家で暮らしていて、少々離れた場所へ進学するまでは兄弟同然の間柄であったからだ。それにしたってものには限度があるだろう、とは、恐らく家族の中で一番にディオとの相性が悪いのだろうジョセフが常々思うことである。

勝手に冷蔵庫を開けるばかりか、何故か自分のおやつだけを狙いすましたように掻っ攫ってゆくディオのことが、ジョセフはとても「嫌」だった。嫌いとまではいかないが、とにかく死ぬほどいけ好かない。
しかし――そんな傍若無人な男であるはずのディオが、今ばかりは妙に覇気がないというか、妙な儚ささえ漂わせるほどに弱っているように見えて、ジョセフは大いに困惑している。
10分も電柱の陰でディオを見ていたのは、そんなディオにどう声を掛けたものかと決めあぐねていたからに他ならない。結局は普段の調子で小競り合いをふっかけてみたのだが、やはりディオの様子はおかしくて、ジョセフはむずむずとした身の置き所のなさに身を捩るばかりなのだ。
「喧嘩でもした?」
「していない」
「最近兄貴が部屋に缶詰めだから、構ってもらえなくて拗ねちゃってたり?」
「拗ねてない」
「それじゃあ――」
「別に、お前が心配するようなことがあるわけじゃあない」
「……そうなの?」
「そうなんだ」
相変わらずディオはジョセフを見ようとしない。自分ばかりがディオを注視しているのが馬鹿馬鹿しくなって、ジョセフは足元へと視線をやった。いや、俯きかけたところで、ジョセフは一旦停止した。
ふっと視界に飛び込んできた光景があった。一体どういうことだ、と思いながら、ジョセフは首を伸ばして「それ」を凝視する。そしてよく回転する頭が弾きだした結論に確信を得て、ああ本当に自分が心配するようなことではない、物凄く他愛のないことでディオは悩んでいたのだなぁと、呆れた苦笑で憐れむような溜息をついたのだった。

「おい、ディオちゃんよ。ポッケから見えてるぜ、半額シール」
「えっ」

澄ました顔で夕映えの街を眺めていたディオは、途端に落ち着きを失くした様子で自らの腰の辺りへ目をやった。淡く色付いていたディオの頬がさっと色味を失くしてゆく。そして一瞬の硬直の後に「それ」をコートのポケットの奥の方へ突っ込もうと試みるも、いち早く伸びてきていたジョセフの大きな掌にさっと「それ」を攫われてしまったのだった。
「返せ!」
「はいはいっと」
「くそっ、よりにもよってジョセフの阿呆に見られるなんて!」
胸元に押し付けられた「それ」、あからさまなバレンタイン用の包装の上にでかでかと半額シールが張られた小箱を、親の仇か何かのように両手の内に握り締め、ディオはぎりりと奥歯を噛んだ。そんなディオの姿は大いにジョセフの内心をすかっとさせたのだった。
「まっ、今更恥ずかしいってのも、形だけでもバレンタインをーって気持ちも分からんではないけどよぉー、さすがに半額シール張りっぱは頂けないんじゃあねぇの、ディオさんよー」
「……うるさいな」
「渡すんなら早くすれば?バレンタインチョコなんて、ギリ許されんのは今日までなもんよ」
「うるさいと言っている!」
「うおっ」
ディオは手にしたチョコを押し付けるように、ジョセフの胸元へ張り手を繰り出した。
「やる」
「はぁ!?」
「お前にやると言っている!」
「いらねーよ!昨日山ほど貰ったし!」
「このディオ手製のチョコレートだぞ!喜ばれはすれど、邪険にされるいわれはない!受け取れ!そしてさっさと食って、このようなものがこの世に存在していた事実を抹消しろ!」
「そりゃああんたの料理は悪くないもんだけどぉ~……うん?……うん?」
「……あ」
紅潮しかけていたディオの頬が、再び色味を失くしてゆく。なのに目元だけが腫れぼったく感じるほどに赤い。きゅっと唇を噛んだディオを、ジョセフは呆然と見下ろした。羞恥心一色の表情はあまりに無防備で、あまりにディオらしくはない。つついたら壊れてしまいそうな可憐さすらを漂わせ、ディオは必死にジョセフを睨みつけている。
そうこうしている内に、木枯らしに吹かれた空き缶が2人の間を通り過ぎて行った。
はっと目を瞠ったディオは俯いて、ジョセフの胸元に押し付けた手を引込めようとする。慌ててジョセフはその手を摑まえた。どうこうしようという意図があったわけではなく、ただあまりにもあんまりな姿を晒しているディオを放ってはおけなかったのだ。
「……手作りしたチョコを、店で売ってるみたいに梱包して?」
「う」
「んでわざわざ、でかでかと半額シールまで貼り付けて?」
「ううっ」
「そこまでやって、「別にバレンタインに浮かれてなんかいませんよー」的な体を取り繕ったくせに、結局ぎりっぎりのところで勇気が出なくて、人んちの前うろうろして……?」
「ううう……!」
「……そこまでしなきゃ渡せないもんなの?つーかむしろ、そこまでして渡さなきゃなんないもんなのか……?」
「~~っ、自分でも、馬鹿なことをしたと思っている!」
「ちょ、な、泣くなよこら!ええと、そうだ!お、お前は次に、『喜ぶジョジョのまぬけ面を見て笑ってやろうと思ったのだ!』と言う!」
「うるさい死ね!」
「乗ってくれてもいいでしょーに!」
はあはあと荒い息を吐きながら、2人は至近距離で見つめ合った。ディオは、別に泣いてはいなかったが、羞恥心と屈辱感で自分を見失っていたのは確かであったし、ジョセフにしたってそんなディオの扱い方なんて知りっこない。どうにもすることができなくなった2人を嘲笑うかのように、冬の暴風は吹き荒れるばかりである。

しかし、そんな2人への助け舟はそう時間も経たないうちにやってきた。

「お、おぉい、2人とも?あの、そろそろ中に入ればどうだい。じきに日も落ちてしまうよ」

控えめな調子の柔らかな声が、隙間風のようなさり気なさで2人の元へと降ってくる。
弾かれたように顔を上げた2人の視線の先では、とても気まずげに表情を強張らせたジョナサンが2階、自室の窓から身を乗り出して、恋人と弟を見下ろしていたのだった。



「え――ええとだね。その、初めは君がうちの前にいるなんて気付かなかったんだ。カーテンを閉めに窓の所へ行ったら、なんだか電信柱の陰でぼんやりしているジョセフが見えて、あれどうしたんだろうって、なんとなく眺めてて。そうしてるうちに君とジョセフが合流して、ああディオが居たんだな、そういえば鍵かけっぱなしだったな開けなくちゃ、って思ったんだけど――そのね、聞こえてきた会話の内容が内容だったものだから」

自室に招き入れたディオをベッドの上に座らせて、ジョナサンはやはり気まずげに言葉を重ねた。人の会話を盗み聞きしてしまった、というだけでもジョナサンの清廉な良心は咎めているというのに、それがどうにも自分が聞いてはならなかったことのようであったのがたまらない。
ディオは俯いたままである。ちなみにジョセフは適当な理由を付けてどこかへと行ってしまった。他の兄弟たちも出払っていて、現在ジョースター邸にはジョナサンとディオの2人しかいない。
「……えっと。それ、ぼくに?」
「……ん」
「……貰ってもいいの?」
「お……お前に食わせてやろうと、思って……作ったものだから。……精々ありがたく貪るのだな、ジョジョ」
ジョナサンの顔を見ないままに、ディオは半額シールつきの手作りチョコを手渡した。慌てて受け取ったジョナサンは、ディオに一言断りを入れてそっと包装を解いてゆく。センスの良い包装紙の内側から現れたシンプルな小箱には、綺麗に形の揃ったチョコレートの粒が、ディオの几帳面さを表すようにぴっちりと並んでいた。確かにこれを買ってきたものだ、と言われて渡されれば、そのまま信じてしまったことだろう。
「わあ、相変わらず上手だなぁ」
「そういうのは食べてみてから言うものだ」
「あはは、そうだね。けれど見た目も綺麗で、感動をしたものだからさ、つい」
「……う、嬉しいのか、ジョジョ」
「ああ、とても!」
満面の笑みである。チョコレートの一粒を口の中に放り込めば、益々ジョナサンの表情は蕩けてゆくのだった。
そろそろと顔を上げたディオはそんなジョナサンを見て、深い溜息をついた。「馬鹿みたいに喜びやがって、このまぬけ」。2秒ほど未来にはそんな台詞が飛び出してくるのだろう。ジョナサンは先手を打って、強がりばかりを紡ぐ唇を啄んだ。
「……いつもは手を触ることにも、小30分は躊躇するくせに。調子に乗りやがって」
「ごめんよ。君があんまりにも可愛らしかったものだから」
「やめろよ。可愛いとか言われて喜ぶ男なんていない。お前だってそんなことくらい分かるだろう、ジョジョ」
「うーん、そりゃあね、分かるけど。それでもぼくの為に手作りのチョコレートを用意してくれた君は、とても可愛らしいと思うんだよ」
「……お前にそう思われるのが嫌で、わざわざ半額のシールまで用意したんだぜ」
「ディオ、ぼくは君の手作りのチョコが嬉しくてこんなに舞い上がっているんじゃあない。君が、ぼくのことを思って、特別な日に特別なものを用意していくれた。それがとても嬉しいんだ。だからこのチョコが本当にコンビニで買った半額のものでも、ぼくは浮かれたのだろうし、喉が渇くまで「可愛いよ」って、君に嫌がられても言い続けるんじゃあないのかなぁ」
「ば、馬鹿だ、お前はとんでもない馬鹿者だ、頭に花が咲いているっ!」
「わっ」
されるがままになっていたディオが、唐突に牙を剥いた。中腰になってディオへのキスを与えていたジョナサンを、ベッドの上に引き倒したのである。そしてジョナサンが目を白黒させている内に、さっさと腹の上に跨ってしまったのだった。
「……ぼくは、お前からなにももらってない」
「あ、ああ、それならええと、んっ」
ディオは部屋の隅へと向きかけたジョナサンの顔を左右両方の掌で拘束し、じんわりと触れ合うだけのキスをした。
「……ええと、ディオ。きっともうすぐみんなが帰ってくるだろうから、あまり時間はないんだけれど――する?」
「する。というか、このディオが誘ってやってるんだぜ。しないなんて選択肢はあり得ない。そだろ、ジョジョ?」
「ははは、そうだね、確かに」
偉ぶって笑うくせに、恥じらいに染まった頬の色を隠すことができないディオが愛おしくて、やっぱり死ぬほど可愛らしいなぁ、なんてことをぼんやりと思いながら、ジョナサンは掬い上げるように抱き締めたディオごとシーツの上を転がったのだった。


犬猿の中から友人へ、友人から親友へ。そして、最終的には恋人へ。たった半年前の話である。そしてそんな2人が初めて関係を持ったのは、それから3ヶ月が経った頃であった。
初めはディオの服を肌蹴させることにも手を震えさせていたジョナサンも、今ではようやくある程度の落ち着きを持って行為に臨むことができるようになった。反してディオは、初めのうちは手際の悪いジョナサンを慣れないなりにリードしていたものであったが、行為を重ねるごとになけなしの余裕はすり減って、いつの間にか主導権はジョナサンに移りかけている。

自尊心の塊であるディオが、そんな現状を喜ばしく受け止めているはずがない。別に、ジョナサンとの行為自体に不満があるわけではなかった。なんだかんだで愛する男と共に上り詰める絶頂には得難い幸福感がある。ディオは、ジョナサン諸共そんな幸福を愛していた。
だがしかし――奪われかけている主導権への未練は、どうやっても尽きないものである。当のジョナサンがそうしたディオの、ちょっとした自尊心との戦いになど気付く様子もなく、ひたすらに可愛い、可愛い、と自分を撫で回してくるものだから、ディオのフラストレーションは溜まってゆく一方なのであった。

「――ぁ、ん、んん……」
「大丈夫?痛くはないかい」
「へ、平気、だ……一々気を遣わなくてもいいと、何度言えば分るんだ、このまぬけー……」
「だって、できるだけ痛い思いはさせたくないんだ。でも、うん、これならそろそろもう一本いけそうだね。ディオ、指、増やすからね」
「ん……い、いちいちぃ、言わなくても、いい、ぃっ、あ、ぁう、ん……」
体内で3本の指がうごめいて、異物感を伴った快楽がディオの体中を駆けてゆく。白い脚がばたつきながらシーツを蹴りつけて、反動でスプリングが鳴った。
微笑を湛えたジョナサンは、空いている方の手を投げ出された脚へと這わせた。足首から出発した指先は脛を辿って膝へと到達し、親指で膝の裏を、残りの指で膝の皿をネコの毛並みを整えるような手付きで撫で上げる。そして丹念に太腿に触れた後に内股へと指先を押し当てて、中途半端に開ききらなかった両足を割り開かせたのだった。
「そ、そんなに、じっと、見るなッ」
「ごめん、ごめんね」
「……ちっとも心が籠ってない」
「あ――あはは、ごめんね、君があまりにも可愛らしいものだから、色んなところを余すところなく見ていたくって」
「だからってそんなとこばかりっ、っ、じょ、ジョジョっ、ばか、急にぃ、っ、ぁ、ぁ……」
「ごめんね。……とても、可愛い。可愛いよ、ディオ、大好きだ」
「んぅ、ん、んー……」
ジョナサンからの深い口付けに、ディオの瞼が下りてゆく。ぐちゅぐちゅと口の中で響く音があんまりにも品がなくて、そんな音と立てていることが恥ずかしくって、まともにジョナサンを見れなかったのだ。
まだ自分に主導権があった時は、そうではなかった。丁度今の自分のように恥じらうジョナサンを見下ろしながら、酷いキスばかりを仕掛けたものだ。しかし今は自分がそうされている。やったことをやり返されている。
どうやったって、悔しさしか湧いてこない。ディオは目を瞑ったままにジョナサンの後頭部へと両手を回し、半ば自棄になって激しいキスに応じた。
「っふう、は、はぁ、は」
「はっ、はふ、ぅ」
口が離れれば、愛を囁くよりも前に荒い息が漏れた。整わない息を吐きだしながら、2人は至近距離で見つめ合う。
遠くで鐘が鳴っていた。気付けばとっくに、夕日は沈んでいる。
「……早く済まさなきゃね」
「ああ……」
呟きながら体を起こしたジョナサンが、脱げ掛かっていた下着とズボンをいっしょくたに脱ぎ捨てた。足の間では、逞しい性器が今か今かとディオの体内の侵入を待ち望むように、先走りを垂らしながら震えている。
ディオにとってのそれは、果てのない快楽を与えてくれる喜ばしい存在でもあれば、男としての自分に大変な屈服感を与える忌々しい存在でもあった。
男性器を受け入れさせられる期待と嫌悪に、ディオの背筋はぞくぞく震えつづけた。先端を入り口に押し当てられただけでひ、と喉が鳴る。そんなディオをあやすように、ジョナサンは片手でディオの頭を撫でた。反射的に、ディオの双眸がとろりと細まってゆく。

「かわいいよ、ディオ」

同じくとろん、と蕩けた笑みで、ジョナサンがディオへと囁きかける。誘われるように、ディオはジョナサンの首へと両腕を回した。それが合図であったかのように、

「あ、ああ、あ、ひ、あっ、あぅ、う、ぅ、っ、っ~~!!」

猛ったジョナサンの性器がディオの体を割り開き、限界まで開いた両足の内側を痙攣させながら、ディオは大粒の涙を零したのだった。

(いたい、きもちいい、やめろ、おかしくなる、ジョジョのくせに、いい、きもちわるい、しあわせ、しにたい、やめたい、もっとして、いい、やめて、しんじゃう、ジョジョ、すき、すき、あいしてる、だいきらい、しんでしまえ、すき、ジョジョ、ジョジョ……――)

「ディオっ、ディ、ディオっ、そ、そんなに、しめないで……!これじゃあぼくが、もたない……!」
「し、しらないぃ、っ、あっ、あっ、あ!」
「っ、ディオっ、ディオ……――!!」
「じょじょぉ、もっと、もっとほしい、じょじょっ、ジョジョ――!!」
「かわいいことばかりを、いうんだからっ!」
「ぁっ、ひぃっ、ああっ、あ、あっく、ぁ、あ――……!」

今にも壊れてしまいそうな錆びたスプリングの悲鳴と、喉が焼けてしまうほどに熱い呼吸。
窒息を促す停滞した空気の中で、2人はただひたすらに互いの名を叫び続けたのだった。


「実はね、ぼくも用意していたんだよ。バレンタインの」
「は?」
「その……君は気取りすぎだって、馬鹿にするかもしれないけれど。よければ、これ……」
「……うわぁ」
「ちょ、ちょっとディオ、そんなに引かなくてもいいじゃあないかっ!」
「お前はどうしてそうも限度を知らないんだ!こ、こんなの、たかだかバレンタインに渡すようなものか、お前みたいな学生が!?こ、こんな、花束なんて――」
汗も引ききらぬうちに、ジョナサンが部屋の隅、箪笥の陰から取り出したのは真っ赤な薔薇の花束だった。ベッドサイドへ戻ったジョナサンは、くったりと横たわるディオへと抱えたそれを躊躇いがちに差し出した。

「確かにぼくは、まだまだ未熟な学生で、最近は勉強にかまけてしまって、あまり君を構えないでいた。昨日だってぼくの都合で約束が駄目になってしまったしね。本当に悪かったと思ってるよ。ぼくはきっと――君には相応しくはない男なのだろうけれど、それでも、この世の誰よりも君を想っているのだっていう自信だけは、あるんだ。だからディオ、どうかこの花束を受け取ってはもらえないだろうか」

――こういう甘い男だから、耳が腐るほど可愛いだとか言われたり、ベッドの中でいいようにされるのが酷く腹が立つのだ。
――こういう甘い男だからこそ、可愛いなんて侮辱でしかない言葉を囁かれても許せてしまうし、なけなしの純情を振り絞ったバレンタインチョコなんてものも渡したいと思ってしまうのだ。

「ジョジョ、お前は一々おおげさなんだよ、ばか」

寝転んだまま腕を伸ばし、ディオは花束を受け取った。ジョナサンが、今にも泣きださんばかりの情けない顔で、それでも必死に微笑んでいる。
仕方のない奴。心の中でそう呟いて、ディオはジョナサンの頭を引き寄せた。







幼馴染歴長くて恋人歴短いジョナディオとかいいよね!色んなことが中々割り切れなければいい
そんでジョセフとディオはすげー仲悪いのに周りからはあいつら仲良いなとか思われちゃうタイプな気がする


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