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越境未満

苦悩するディオは美しかった。

切なげに寄った眉頭。うっすらと刻まれた眉間の皺すらも、退廃的な美貌に深みを与える華でしかない。
ちらちらとジョナサンを窺う視線。二対の瞳を涙の膜が覆ってしまっている。豊満な睫毛に彩られた瞼の淵は赤い。その目元には今にも溢れんばかりの涙を拭ってやりたくなる可憐さと、触れた瞬間に涙の粒だけを残して崩れ落ちてしまいそうな繊細さが同居していた。
月の光に祝福された豪奢な金髪。すっかりジョナサンの手によって乱された柔らかな金糸。汗ばんだ肌や赤い唇の端に張り付く様の艶めかしさはどこか狂気的である。

「こんな規格外のものを……」

深い苦悩に頭を抱えるディオ。苛立たしげに髪を掻き上げる。金糸の剥がれた肌はどこもかしこも初雪のごとく白く、透き通っている。知らずの内にジョナサンの喉は鳴った。生唾が喉を通り過ぎてゆく感覚に、これでもか、と羞恥心が煽られる。居た堪れなさに俯いた先ではすっかり反応しきった自身の性器が――ディオを悩ませている元凶が先走りを垂らしていて、ジョナサンは酷い罪悪感に襲われるのだ。
「……で、でかすぎるだろう……なんだこれ……」
呆けたようなディオの声が鼓膜を振るわせるたび、ジョナサンの逞しい体は益々縮こまってゆくばかりである。
何をしているのだろう思う。ディオと差向いに乗り上げたベッドの上、全裸だというだけでも気恥ずかしさを感じるのに、立ち上がった性器を様々な角度から眺め回される惨めさといったらない。それでも卑屈な姿勢を取っていると気持ちまでつられてしまうもので、萎れた花のように項垂れるディオを見ていると自分が悪者であるかのような気分になってしまうのだ。
ごめんなさい。
どこまでも素直であるジョナサンが用意した謝罪とは、こちらも大変に素直でシンプルなものだった。しかし罪悪感にせっつかれたそんな謝意は、舌先を通り過ぎる前に他ならぬディオの手によって封じられてしまう。
白い指。ささくれひとつないディオの指先が、見目のたおやかさを裏切る横暴さで以てジョナサンの性器を鷲掴みにするものだから、今夜他人の手から与えられる快楽を知ったばかりのジョナサンは嬌声を漏らすしかなかったのだ。
「~~なんでまたでかくしているんだ君という奴はっ、ジョジョォ!」
「ひっ、ご、ごめんよ、ぁ、ちょ、ちょっとディオ、それまずいっ、きもち、ぁァっ、あっ」
「喘ぐんじゃあない!!」
怒りだ、怒り一色しかない、ディオは死ぬほど腹を立てている。聳え立つジョナサンの性器を目にした瞬間に蒼白になったかんばせは、再び熟れた色に染まっている。
そんなディオに申し訳なさを感じながらも、閉じ方を忘れてしまったかのようなジョナサンの口からはひっきりなしに嬌声が漏れてゆく。大事な部分に酷い触れ方をされているとは分かっているのに、どうしたことかそうされるのが気持ちよくてたまらないのだ。
「悦びすぎだ!」
「だから、ごめん、って……ぁ、あぅ……」
「まったく……!!ええいくそっ、君という奴は、まったく!!」
「ああっ、あ!」
何故、こんなに情けない思いをする羽目になってしまったのか――。
痛みを伴った熱波の渦中で、ジョナサンはぼんやりと回想する。何か別のことを考えていなければ、本格的に頭が駄目になってしまう気がしてならなかった。しかしこうなってしまってはもう、どんな記憶を掘り起こそうともディオの姿が浮かんでならないので、ジョナサンは仕方なく一番直近のディオとの会話――まだ自分が多少正気であった頃の――を思い返してみることにした。

『――ぼくを抱いてみないか、ジョジョ?』

ディオがジョナサンの私室を訪れたのは、夕食もとっくに終わり、あとは寝るだけといった頃合いであった。夜間の訪問自体はそう珍しいことではない。お互いの部屋に入り浸ったり、余暇を共に過ごすことはあまりない、という意味では特別に仲のいい2人だというわけではなかったが、本の貸し借りや予定の確認のための訪問はままあることであった。
ノックを3度。それがディオの訪問の合図である。
今夜もジョナサンは「とん、とん、とん」と小さく戸を叩く音に応えるため、読み掛けの本を片手に入口へ向かった。そこにはやはりディオがいて、夜分に失礼、と片手を挙げている。もう何度も交わした挨拶である。

しかし――今夜はなにかがおかしかった。

やたらに薄着なディオ。身嗜みに人一倍気を払っている彼には珍しく、襟元の釦は外れている。浮かべている表情もどこか気が抜けているというか、無防備だというか、不自然なまでに友好的なものであった。
そしてなによりもおかしかったのは第一声だ。

(ディオは何を言っている?)

様々な違和感が現実に穴を開けてゆき、体の働きを奪ってゆく。二の句を継げずに口唇を戦慄かせるばかりだった。
そんなジョナサンにディオは、尚も柔らかな笑顔を見せる。どんなに取り繕おうとも内面の酷薄さを隠しきることができない(と、ジョナサンは感じることがある)ディオであるというのに、この時の笑顔ばかりは嘘のように穏やかで、可憐であった。
――心臓の動きが加速している。ジョナサンが唯一認識できた、現実である。

『興味がないかい、男には。考えたこともなかった?』
『ディ――ディオ。一体何を言っているんだ、君は?』
『セックスをしようと言っているんだよ、ジョジョ。いやだな、恥ずかしい。皆まで言わせないでくれ』

ディオがそっとジョナサンの胸を押した。大した力が込められていないにも関らず、ジョナサンは背後へ一歩、後ずさる。そうしてディオは、今の今までジョナサンが立っていた場所に滑り込むように彼の私室へと侵入した。

『意味が分からないよ。い、いや、言っていることは分かる。ぼくだって物知らずじゃあない。しかし――ぼくと君が?ぼくが抱くというのか、君を……?』
『嫌かい?』
『嫌だとか、そういう問題ではなくて……その、いくら血が繋がらないとはいえ、ぼくらは兄弟なのだし』
『そうだ、ジョジョ。本当の兄弟ではないんだ、ぼくらは。だからもう何年も同じ屋敷で暮らしているというのに、妙な距離を保ったまま近付ききれないでいる。――悲しいことじゃあないか』

薄いシャツに包まれたディオの両腕。硬直するジョナサンへと伸ばされたそれは、そうあるのが当然であるかのような馴れ馴れしさで逞しい首元へ絡んでゆく。ジョナサンの鼻先まで肉薄したディオは、殊更美しく微笑んだ。

『君ともっと仲良くしたいと思っているんだ。だったらどうするのが一番なのかって、とても考えた、ぼくなりに。迷惑かい?正直な気持ちを言ってくれて構わない。そして今日のことは忘れよう。残念だけれど、もっと別の方法を考えてみることにするよ。――なあ、ジョジョ?君はどうしたい?』

――ディオは酷い嘘をついている。
問いかけの答えになっていないとはいえ、それがジョナサンの率直な思いだった。確信もしている。その程度には、ディオという兄弟のことをジョナサンは理解しているのだ。彼へ向ける友情がどこか疑惑的であるのと同じように、彼も、自分を心からの友人や兄弟だなんて思ってはいないことも。
分かっている。自分のことなど誰よりも分かっている。ディオのことも、他の誰よりも分かっているという自信がある。
分かっては、いるのだ。それでも――

『ふふ、おいジョジョ、苦しいぞ。見た目通りの馬鹿力だなぁ、君は』

後頭部を包む掌に誘われるように、ジョナサンはディオの躰を抱きすくめた。片手に提げていた本が思い出したかのように投げ出され、ぱたんと床へ着地する。

『……こういうことに経験はないんだ。それでもいいかい、ディオ』
『安心しろよ、ジョジョ。ぼくが全部教えてやる』

熱っぽい声で囁かれた言葉の羅列に、ジョナサンの脳は大いに揺れた。強引にディオの腕を引いて、投げ飛ばすように寝台へとその体を沈める。腹の下で、ディオは蠱惑的に笑っていた。

ディオに恋い焦がれていたわけではなかったし、わざとらしいまでの色香に惑わされたわけでもなかった。強いて言えば、これまで共に過ごしてきた年月でジョナサンが知らずの内に貯め込んでいたディオへの鬱屈とした思いが、性欲という即物的な形になって昇華されようとしているのかもしれない。
実際寝台にディオを組み敷いた瞬間に、ジョナサンの体内を駆け巡ったのは燃えるような征服欲の昂りだった。いつも自分の上を行くディオが無防備に腹を見せていることに、興奮して仕方がない。そういった類の、どこか乾いた雰囲気の中でその行為は始まった。

自分が受け入れる側だと言われていたらきっとこの話は受けなかったのだろうなぁ、なんて。
ぼんやりした頭でそんなことを思い浮かべながら、ジョナサンは一心に色付く肌を貪った。腹の下で繰り広げられるディオの嬌態を前に、思考能力は霞んでゆく一方である。

ディオも同様に、ジョナサンに与えられる愛撫に体も声も、蕩けさせてゆくばかりであった。行為が進む程ディオからの指示は具体性を欠いてゆき、呂律が怪しくなった頃には何とも言えないわざとらしい雰囲気は消えていた。今更羞恥心を滲ませてすらいるようなディオを少しだけ、愛しい、とすら思い始めていた。

――このまま行き着く所まで行ってしまえれば、自分とディオの仲もなにか、友好的な方面へ変わってゆくのではないだろうか。

熱の中で酩酊しているだけかもしれないが、それも悪くない、とジョナサンは思った。彼と「本当に」仲良くすることができたのなら、彼との間に流れる空気のそこはかとない息苦しさを消してしまえる気がしたのだ。元々ディオのことを嫌っているわけではない。様々な感情が入り組んで簡単に「好いている」とは言えないだけなのだから、きっかけがあれば、或いはと。

だからジョナサンは先を急いだ。たどたどしくも愛撫を施し、ディオの体を高めてゆく。誘いをかけてきた時の積極性を忘れたように素直に喘ぐディオも、似たようなことを思っている気がしてならなかった。ちらちらと寄越される視線にはなにか、ジョナサンを求めてやまない切実さのようなものが滲んでいた。
だとすれば自分たちは今日よりもずっと、良い関係で結ばれた明日を迎えることができるのではないか――いいや、できるのだ。このまま2人、溶けるように交わり合えば、明日は今日より眩くなるに違いない!

はずであった。
下着から勢いよく飛び出したジョナサンの一物を目の当たりにしたディオが、一瞬で正気に戻ってしまう前までは。

「こ、こんなもの!入るわけがないじゃあないかっ」
「あ、あれ、ディオ……?まさか、泣いて……?」
「泣きたくもなるわこの××××!!」
それは恐らく、初めてディオが素直な感情をジョナサンにぶつけた瞬間だった。
後にジョナサンは「さすがにあそこまで怒らなくても」とディオの理不尽な言い様に溜息をつくことになるのだが、今ばかりは彼も今一つ尋常ではないというか、混乱をしていたのだった。ジョナサンの略にすっかり怖気づいてしまったディオ程でないにしろ。
とにかく涙を流すディオの姿というものは罪悪感を加速させてゆくばかりだったので――もしかするとそれ以上の勢いで体中を駆け廻り出した嗜虐欲を振り切るように、ジョナサンはディオの小ぶりな顔を両掌で包み込む。そして強引に視線を合わせ、縺れた舌を必死になって動かした。

「ディオ!君はせっかく顔だけは綺麗なんだから、そんな言葉を使っちゃいけない!!」
「顔だけとか言うな!」
「ぐえぇ!」

返ってきたのは容赦のない頭突きであった。瞼の裏に星を浮かべながら、ジョナサンは仰け反った。
「……一度出させてしまえば、こんなもの――」
後ろ手を付き体勢を整えようとするジョナサンを尻目に、ディオは一段トーンの低くなった声で呟いた。何事だ、とジョナサンは、患部を押さえながらディオを見る。そしてその先で待ち構えていた光景に目眩を覚え、震える声で問いかける。答えなど分かりきったものであったが、それでも聞かずにはいられなかったのだ。
「……なにをしているんだい、ディオ」
「見て分からないのか」
「質問に質問で返さないでくれっ!一体君は何を、」
「口で、この口で!お前を慰めてやろうというのだこのディオが!光栄に思うのだな、ジョジョォ!」
「や、自棄はいけない!!ディっ、ひっ!?あっ、ぁあっ、ああ……!!」
ジョナサンの言う通り、ディオは傍目にも明らかに自棄を起こしていた。熱っぽさの増す目元。涙の膜を張った双眸は据わり切っている。頬などは触れれば火傷を負わされるのではないかという程に赤くなっていた。尋常の様子ではない。それが恥じらいからくる姿であればいくらかの可愛げもあろうというものであるが、悔しくてたまらないがための自棄であることをジョナサンは瞬間的に理解していた。ディオとはそういう男である。
とにかく引き剥がしてしまおうと、股座に埋められたディオの金糸を引っ張った。しかしディオはジョナサンの儚い抵抗を捻じ伏せるがごとく、一層熱烈に昂る性器を舐め上げる。じゅぶじゅぶと。品性の欠片もない水音は、ジョナサンを追い詰めてゆくばかりであった。
「ふ、はふ、ん……」
しかめっ面のままにジョナサンの性器へ舌を這わせる姿は、どこか悔し気でもある。まるで無理矢理男の欲望を舐めさせられているようにも見えた。ジョナサンの腰回りに蟠る熱が一段と重みを増す。実際無理矢理舐められているのは自分だと理解していても、口元を先走りで濡らすディオを見下ろしていると征服欲の満願を自覚せずにはいられなかった。
「くっ、は……ディオ……!」
「ん、ぅん、ん……」
「きもちがいい、とても……!」
とうとう張りつめた欲望はディオの口内へ誘われる。荒い呼吸を繰り返す赤い口唇を、脈の浮いた性器が出入りする光景はあまりにも卑猥である。
「すまない、本当に……!でもっ……で、でも!」
「っ!?っ、んっ、っ、……~~!!」
引き剥がすために金糸に絡めたはずの指先であり、掌であったはずだった。しかし気付けばジョナサンはその手でディオの頭を押さえつけ、熱い口内に自らの熱を擦り付けるよう腰を振る。うわ言のように繰り返す謝罪は心からのものであるというのに、高まるばかりの官能が体の動きを止めてくれない。
「あっ、ぁぁディオ……ディオっ……!」
そして――本当に心の底からディオに申し訳ないとは思いながらも、ジョナサンはその口へ、白濁を吐き出した。
「っ、は、ん!!んっ、ん……!!」
長い射精だった。その間もジョナサンはディオの後頭部を押さえ続け、口内の粘膜へ吐き出した欲望を擦り付けてゆく。ここまでくるとディオともいえど涙目、を通り越して大粒の涙を零しており、目元はぐずぐずに蕩けていた。それでも彼は、射殺さんばかりの視線でジョナサンを睨み上げる。憎悪に片足を突っ込んでいる怒り。ジョナサンの背筋が歓喜に震える。仲良くしたい、という気持ちに嘘はないのに。ディオが痛々しい姿を晒せば晒すだけ興奮と、ともすれば愛しさのようなものが膨れ上がって仕方がないのだ。
「――ごほっ、っは……ぅ、く、くそっ」
「ごめんよ、ディオ……あまりに気持ち良かったものだから、つい……」
嘘ではないが、言い訳じみている。内心でジョナサンは自嘲した。
形容しがたい居た堪れなさを誤魔化すように、汚れたディオの口元へ手を伸ばし、溢れた白濁を拭い去る。ディオからの抵抗はなかった。ただ一層鋭さを増した双眸をこれでもかと凶悪に細め、ジョナサンを睨みつけている。
「濃い。多い。顎が痛い。死ぬほど不味い」
「あ、ああ、その……自分でも驚くくらい、興奮してたみたいだ」
「ああそうだな、馬鹿みたいに腰を振っていたものな。サルにでもなったつもりかお前は。本気で殺してやりたくなるくらい苦しかった。――だというのに。俺がここまでしてやったというのに、何故治まる気配がないというのだ貴様という奴は!?」
「ひぃっ!!ごっ、ごめんよディオー!!」
「ジョジョの阿呆!!もうっ、この、これだから童貞は!お坊ちゃんは!!」
ディオは未だ硬度を失わないジョナサンの性器を掴み上げた。デジャブである。
「……本当に。君は何をそんなに興奮しているんだ?」
しかし嵐のような罵倒は飛んでこない。重い溜息を吐き出すディオの白皙にはありありと疲労が滲んでいた。
気だるい色気。自分が引きずり出したもの。
新たにやってこようとする官能の波をやり過ごすべく、ジョナサンは口を開く。
「それは……」
「……ジョジョ?」
「……君があまりも、魅力的だから……」
「ふん」
小さくディオの鼻が鳴る。ぱっとジョナサンの性器を手放した彼は、シーツで軽く拭った指先で汗ばんだ髪を掻き上げた。
「どうだか」
そして先ほどまでの熱っぽさが嘘のように冷めた眼差しでジョナサンを睥睨した。吐き捨てた一言には「取り繕うなよ」と、そう責め立てるような響きがある。それでもジョナサンは、内に秘めたディオへの鬱屈とした思いや、口に精液をぶちまけてやった瞬間の何とも言えない充足感を言葉にする気にはなれなかった。それを口にすれば、危ういバランスで成り立っているディオの関係が粉々に崩壊することなど分かっている。
「まだるっこしいことをしていても無駄だということがよく分かった。おいジョジョ、ちゃんとぼくを支えていろよ」
「するのかい、最後まで?」
「当たり前だ。最初に言っただろう、ぼくを抱いてみないかと」
座り込むジョナサンの足の上に、ディオが乗り上げかかっている。脱力している雰囲気の体はどこか頼りなく、ジョナサンは咄嗟に腰を支え、腕を自らの首の後ろへと導いた。
「……無理はしない方がいい。僕でも手でならできるし、それで君を」
「後ろを使わないとイけないんだ」
「え?」
「冗談さ」
あっけにとられるジョナサン。そんな彼を見下ろして、ディオは勝ち誇った笑みを浮かべた。こめかみから流れる汗や辛そうに寄った眉根の様子が、虚勢を張っているようにしか見えなくとも。
「ここで引いちゃあ、ぼくの負けだ。なにも目標を達成しちゃいない」
「ディオ、」
「すごすごと逃げ帰るなんて死んでも嫌だ」
「何故だ、ディオ。何がそう、君を意固地にさせてしまっているんだ?」
「何が、とはまた冷たいことをいうものだな、ジョジョ。分かるだろう?他の誰に分からなくても、君だけは」
「っ、ディオ」
ディオが自ら押し広げた後孔の入り口に、ジョナサンの性器の先端がくぷりと沈む。ジョナサンは息を詰めた。ほんの先端しか埋まっていないのに、熱の奔流が体中に走り出している気配があるのだ。爛れるように熱い体内。その先をもっと、知りたいと思う。

「……お前に負けるのは、悔しいことじゃあないか」

強張った笑顔で吐露された本心は、ディオがその口で嘯いたものとは思えないほどに素直でシンプルで――だからこそ激しくジョナサンの胸を打ち、闘争心と興奮を煽ったのだった。ジョナサン自身にも、そんな気持ちがあるからこそ。
ディオの顔を見つめながら、ジョナサンは恐る恐る腰を突き上げた。散々にディオの唇で慰められた欲望が、今度は後孔を通じより深く彼の体を犯そうとしている。
耳元にまで、心臓の音が競り上がってきていた。息も荒い。止まり木を得るように白い背を抱きしめて、ジョナサンはより深く、ディオの体を抉ってゆく。
「――あ、あっ、は、ひ」
「っ……き……きついね、君の中は……」
「お、前がっ……!でかすぎっ、ぁぐっ……る、んだっ、ぅっ、ぁ、ァ」
ディオが部屋を訪れてきた時には既に、その後孔はディオ自身の手によって入念に慣らされていた。前戯の際もディオの手解きを受けながらジョナサンが愛撫を施したために、そこは充分男を受け入れる準備が整っているはずだった。
しかし現実そう上手くは行かないもので、ディオ曰く規格外であるジョナサンの性器は非常に難儀しながら、本当に少しずつディオの体を進んでゆく。2人そろって圧迫感に喘ぎながら、少しずつ。ここまできてやめる気などどちらにもない。音を上げたほうが負けである。言葉にせずとも、そういった暗黙の了解を2人は一瞬のうちに交わしていた。青と緑の瞳。双方には等しく相手を食い尽くしてやろうという、凶暴な征服欲が滲んでいる。
「はっ……ひ、ぅ……」
「平気かい、ディオ……?いっ、ちょ、ちょっとディオっ」
ちり、とした痛みにジョナサンは慌てて声を上げた。首元の、ちょうど星形の痣のある辺りである。首筋に顔を埋めたディオに、噛み付かれた。
「余計な心配を、するなっ」
耳元で怒声が上がる。相変わらず負けず嫌いだなぁ、と。すっかり茹だったジョナサンの顔に苦笑が浮かぶ。そして一息を付き、ちょっとした覚悟を決めた。主導権を獲りに行くための。
「ディオ、舌を噛まないように気を付けるんだよ」
「は?ジョジョ……?お前、なにを、っ、へぁっ!?」
片手は金髪の生い茂る後頭部へ、もう片方は引き締まったウエストへ。それぞれに回すやいなやジョナサンは一息に、
「ひっ、っ、っ~~!!!」
根元まで。ディオの体内への侵入を果たしたのだった。
淡く色付いた胸板が弓なりに反れてゆく。赤い舌を覗かせる唇は戦慄いて、見開かれた双眸からはとめどなく涙が溢れていた。
自然とジョナサンは笑んでいた。高揚している、というか、変に幸せな気分になっている。無理矢理――今度は本当に無理矢理男を咥え込まされたディオが惨めで可哀想で、そんな憐憫が胸を掠めるたびに彼への愛しさが募って仕方がないのだ。
(――もしかするとディオに関わるぼくは、相当おかしくなっているのかもしれない)
一瞬だけの自覚は熱の中に溶けてゆく。無防備に晒された白い首筋へ、ジョナサンは唇を寄せた。
「っは、ぁ……あ……はは……意外と、なんとか……なってしまうもの、なんだね、ディオ……」
「……ァ、あ、ぁ……」
「……ディオ……?」
だらり、と投げ出された白い腕。よれたシーツに辿り着いた指先はぴくりとも動かない。
「な、なか……ひろがって……」
「ああ……君のここ、なんだかすごいことになっているみたいだよ……」
「ぁ……」
接合部をジョナサンの指がゆっくりとなぞった。その箇所がどう形を変えて、ジョナサンを咥えているのかを思い知らせるように。
「ジョ……ジョジョで、いっぱいに……」
呆然とディオが呟いた。悦んでいるようでもある。心底悔しがっているようでもある。ただ涙に融けてゆきそうな虹彩の青色が、ジョナサンの幸福だとか、欲望だとかを、じわじわと満たしてゆくのだ。
「ディオ、」
独り言のように呼びかけた。返事はない。乱れた呼吸に息を詰まらせかけながら、ディオはただただジョナサンを見つめている。こんなに間近で、そしてまっすぐに2人が見つめ合ったのはともすればこれが初めてであったのかもしれない。
青い瞳は到底澄んでいるとは言えなかった。いつだってそうだ。どれだけ美しく在ろうとも、ディオの瞳に星の如き輝きはない。少なくともジョナサンは、何かの拍子にそう感じることがある。けれど生まれた時は曇り一つなかったのであろうその瞳が、見たくもない現実を映して翳ってゆく過程を思うとたまらない気分になってしまうのだ。
――ディオ。ディオ。
形容しがたい高揚に身を任せるまま、ディオを抱えたジョナサンはシーツの上に転がった。
「ディオ――あついね、ディオ」
「ああ……とても、あつい……ジョジョ……」
ジョナサンの大きな掌が、ディオの頬をすっぽりと包み込む。猫のように細まった青い瞳には、微笑むジョナサンだけが映っていた。





セックスなどで快感を得られたことなどはなく、あんなものは暴力であるとすらディオは思う。
だというのに昨日はどうだ。自分の正体を見失ってしまうまで散々に乱れ、底なしの快感に一晩中すすり泣いていたようなものだった。自分をそこまで追い込んだジョナサンも、なにやら我を忘れた様子でがっつくように腰を振り続けていたことだけが唯一の救いである。昨晩のセックス、の体を取った喧嘩、征服ごっこはドローに終わったというわけだ。

本当は肉欲でジョナサンを堕落させてしまうつもりでいたのだが、終わったことを悔いても仕方はない。これからは舐めてかからず慎重に、時間をかけてジョナサンを籠絡してゆけばいいのだ。――と、思うのだが、心のどこかに白けきっている部分があるので、ディオは先のことを考えるのを止めにした。こんな寝起きの頭ではろくなことが思いつくはずもない。

隣ですやすやと眠る男。ジョナサン。いつか人生の障害になる――かもしれない、ので、今のうちになまくらにしてしまわなければならない男。
この胸に巣食うジョナサンへの感情とは本当にそれだけなのだろうか――いいや、それだけだ。行為のさなか、熱に流されながらもぼんやりと繰り返していた問答は、朝になっても決着がつかないままにいる。彼に感じた愛しさ、のようなものの正体も掴めぬまま。

(……本当に、忌々しい奴)

ディオの指先がそっとジョナサンの鼻を摘まむ。じわじわと眉を寄せるジョナサン。ふご、と鼻を鳴らしながら目を覚ます。

「おはよう、「ジョナサン」」
「……君は朝から何をするんだい」
「寝坊助を起こしてやっただけじゃあないか」

窓辺を照らす明かりは既に月光から陽光へと変わっている。朝日を受けたジョナサンの、緑の瞳。やたらに美しく輝くそれが無性に憎らしかったので、抉り出してやろうかと。穏やかな笑顔の裏で、ディオはぼんやりとそんなことを考えている。








どっちも負けず嫌い
たらしこんでやる気満々で誘ったくせになんか違う方向にはっするしちゃうディオさまにときめきます


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since 2013/02/18