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金曜日

片付けなきゃならねー仕事が山積みになってるから、しばらく大人しくしていてくれ。

承太郎がいつにも増した素っ気なさでそんなことを告げてきたのは、つい2日前のことだった。
要するに、このDIOをほったらかしにしてしばらく仕事にかまけるつもりだということである。なんと要領の悪い。家にまでつまらん仕事を持ち込まねばならぬとは、この無能。自室へ引っ込んでゆく背に思いつくままの詰り文句を投げかけてはみたものの、承太郎はこちらを一瞥することもなく襖の向こうへ消えてしまった。どうやら相当に余裕をなくしているらしい。
ソファーの上で仰向けになったまま、しばしわたしは逡巡した。承太郎が忙しかろうがそうでなかろうが、わたしには何の関わり合いもないことなので、律儀に『大人しく』していてやる義理などはないのである。しかしどうしたことか、わたしをないがしろにする承太郎を罵りに行く気にはなれなかった。去ってゆく背があまりにも煤けていたからなのだろうか。
――つまり2日前のわたしは、ついうっかり承太郎を『思いやって』しまったが為に、普段通りの振る舞いをすることができなかったのだ。思いやり。思いやり。我がことながら、気色の悪い。

それで結局どうしたのかというと、ひとまずわたしは数分の逡巡の後に承太郎の部屋の襖を開けたのだ。承太郎は座布団の上で胡坐をかき、ノートパソコンのキーボードを一心不乱に叩いていた。普段はまっすぐ伸びている背筋は草臥れたように曲がっていて、机の上はおろか座椅子の周辺にも分厚い本や書類の束が山積していた。6畳の和室はわたしの知らぬ間に修羅場と化していたのである。

『……このDIOはー、腹を減らしているのだがー』
『しばらく我慢してろ。血ぃ抜かれると集中力が散って敵わん』

やはり承太郎は一瞥も寄越さなかった。わたしはそれ以上承太郎を構うのをやめにして、引きっぱなしの布団に寝転んだ。糠に釘を打ったところで楽しくもなんともない。
修羅場が明ければ、変な所で人の良いこの男はわたしの機嫌取りに終始するのだろうという確信はあった。罪悪感に駆られる承太郎を思い浮かべてみれば多少は気が晴れないでもなかったが、承太郎が2日もの間わたしをないがしろにしている事実に変わりはない。内心の不満は溜まってゆく一方だった。
――せめて、こっちを見ろ。5分に一回、おおまけにまけて7分に一回でも勘弁をしてやるから。わたしを見るのだ、承太郎。
口にするにはあまりも情けない懇願を飲み込んで、わたしは『大人しく』散らばった文献の1冊を拾い上げた。そうして斜め読みをすること1分強、どうやったって興味の持てない学問の本を放り出し、結局わたしははぼんやりと承太郎の猫背を眺めながら一晩を過ごしたのだった。

そんなことが、一昨日と昨日で一度ずつ。
今日も今日とて承太郎は一心不乱にキーボードを叩いている。やはり背後のわたしを見やる素振りもなければ、声を掛ける様子もない。
わたしもわたしとて、今夜も承太郎の万年床に横たわり、広い背を眺め、どう考えたって時間の無駄だとしか言いようのない一晩を過ご『そうとした』。そう、本当はそうやって過ごしながら、承太郎の仕事の終わりを待つつもりでいたのである。

しかしなんというか――もう飽きた。
待つだけの時間を過ごすことも、承太郎なんぞを『思いやって』『大人しく』している自分でいることにも、すっかり飽きが来てしまったのだ。

そうとなればもう、いてもたってもいられなかった。むしろ押さえ込んでいた不満、このDIOをないがしろにしやがってこの野郎という気持ちが膨れに膨れ、それはすぐさま承太郎への怒りへと転身した。だから、邪魔をしてやろうと思った。困らせてやろうと思った。その一心である。
わたしは抱え込んでいた枕を放り投げ、すぐさま承太郎の膝元まで這うように移動した。それでもわたしを見ようとしない承太郎に腹を立てながらも、数秒後のお前はこのDIOを見ずにはいられなくなるのだぞ、と内心笑い転げたい気持ちを押さえ込み、胡坐をかいた足の真ん中に顔を埋めた。まさにぎょっとしたような様子で、承太郎の腹筋が強張った。酷くいい気分になったので、わたしは上目で承太郎に笑いかけながら、ゴムの緩んだズボンから奴の性器を取り出した。すっかり久しぶりの対面である。喉が鳴って顔が熱い。そんなわたしを見下ろしながら、承太郎も唾液をごくりと嚥下したのだった。



「……大人しくしてろって言ったろうが。昨日まではできてただろ」
呆れた声を呆れた顔で零した承太郎は、片手でわたしの髪を引っ張った。どうやら引き剥がそうとしているらしいが、わたしの頬はぺったりと性器の側面に引っ付いたままであるし、髪は1本も抜けていない。大きな掌には、隠しきれない期待が滲んでいた。承太郎は否定をするだろうが、わたしはそう確信している。
気を良くして、口先で亀頭を食んだ。萎びた性器は少しずつ、硬度を持ち始めている。
「昨日は昨日、今日は今日だ。雲がその形を刻一刻と変えてゆくように、人の心もまた移ろいゆくものだろう?むしろこのわたしが、2日もの間大人しくしてやっていたのだぞ。褒めろ。これ以上ないってくらい飾り立てた美麗字句でこのDIOを褒め称えるのだ、承太郎」
「『たった2日』だ馬鹿野郎。大人しくってのはきりがつくまでの、っ、」
「ろーひたというのだ、じょー、たろー?きりがつくまで、なんらってぇ?」
「咥えたまま喋んな馬鹿!」
ふにふにとした性器を口内に収めると、なんだか酷く満たされたような気分になってしまい、自然とわたしは笑んでいた。それはもう口元が緩んで緩んで仕方がない。しかしそれでは上手く承太郎のものをしゃぶれないので、努めて口を萎めながら、一心不乱に頭を動かした。
「おい、……おい、その辺にしておけよ、お前」
「んっ、ぷぁ、ふぅ……そんなことを言っているうちにがちがちになっているぞ、承太郎。素直に言ってしまえばよかろうにぃ。このDIOにペニスを舐めしゃぶられて死ぬほど興奮しているッ、今すぐ突っ込んでひーひー言わせたいのだと!」
「生理現象だッ!つーか忙しいっつってんだろうがこのアホったれ!一区切りついたらちゃんと構ってやるから、マジでせめて1週間は大人しく――、っ、ぁ、こら、お、お前、DIOッ、おま、えッ!!」
「よいではないかー、よいではないかー。自分に正直に生きることこそが、幸福への第一歩であるのだぞ、承太郎よ」
「変な所で喋んな!」
滲み出る先走りが舌に絡み、唾液と共に喉の奥へと滑ってゆく。他人の体液に体内を犯されてゆく感覚というものは、わたしの中から被虐的な欲求を引き摺り出し、体中を火照らせてゆくばかりである。いいや、他人というか、承太郎のだからいいのだろうな。しゃぶるのも楽しければそうしているのが嬉しい、幸せ、口の中が苦しょっぱい味に征服されてゆく感覚にどうしようもなく興奮する――
「……ん?」
幸せ。
はて。今確かに、そんな単語がこのDIOの脳を過っていったのではないか。他人と時間を共有することが幸せなのだと、そんな、なまっちょろい感傷が。
それは遠い昔、まだ人間だった頃のわたしが指を差して笑ったものだ。そんなものは頂点に辿り着けぬ人間が、容易に手に入れることの出来る安心を得て自分を誤魔化しているだけであるのだと。そんな――いつ壊れるかも分からないものが、人生の寄る辺になるわけがないのだと。
しかしわたしは――この時間、だらだらと流れてゆく無為な時間を、承太郎と共に過ごすこのわたしは。どうやらそんな感傷を、いつの間にか、他でもないこの男の手によって――

「……DIO?」

わたしの髪を引っ張っているのか、それとも頭を撫でているのか。太い指を持て余すように蠢かせる承太郎は、すっかり息の上がった様子でわたしを見下ろしていた。上気した頬や、潤み始めている両目。鉄の男がこれまたまあ、なんとも情けなく緩んだ姿を晒している。わたしの口淫の成果だ。わたしの行動が、この男に変化を与えたのだ。喜ばしいことである。
けれどそれだけじゃあない。こんな他愛もない歓びよりも、むしろわたしを満たしてならないのは、承太郎が。この2日間わたしを見ようともしなかった承太郎が、確かにその目でわたしを見ていることが、もうどうしようもない程に嬉しくて、幸せで、幸せで、もうこれ以上ないってくらい――なんともまあ、腹の立つ話!

「――無駄ぁ!」
「うぉあっ!?」

腸が煮えくり返って仕方がなかったので、先走りを垂らす亀頭を前歯で噛んだ。甘噛みと呼ぶにはちょっとばかし強めの勢いで。承太郎が聞いたこともないような頓狂な声を上げる。反射のように、緑の瞳から涙の粒が弾かれた。
こんな考えるだけ無駄も無駄なことに頭を悩ませたって仕方がないのだ。だからそろそろこの小憎らしい男へ絶頂を与えてやる為に、猛った性器を喉の奥まで咥え込んだ。そして性器と擦れる唇がちょっとばかり痛くなるような勢いで、無心に頭を動かした。承太郎が呻いている。もはや声を殺す余裕もないらしい。大きな掌でわたしの頭を包み込み、髪を掻き混ぜるようにわたしの頭を撫で回した。頬に刺さる髪のむず痒さが心地いい。またも緩んでゆこうとする口元に力を入れ、わたしは渾身の力で以て、承太郎の性器を吸い上げた。
「~~!!!」
「んぶっ!?」
勢いよく飛び出した白濁が喉に絡む。思わず咳き込み、絶賛絶頂中である性器から口を離してしまう。びゅっびゅと飛び出る白濁は失速を知らず吐き出され、わたしの顔のあちこちに付着した。脈打つ性器を慌てて両手で包み込めば、指の間をぬめり気を持った感覚が滑ってゆく。
「……随分と貯め込んでいたものだなぁ」
「…………」
「ふふふ、どうだどうだ承太郎、よかったろ?これくらいじゃあ足りんだろ?ならば仕方がない、このDIOが責任を持って最後まで面倒を見てやろうではないか!」
「オラァ!」
「うおぉ!!?」
突如承太郎が立ち上がる。わたしは弾き飛ばされるように畳の上に転がった。その拍子に胸を差したのは、これから行われるのであろう『本番』への果てしない期待である。あいつのものをしゃぶっている内にわたしもすっかり興奮をしていたようで、下半身に溜まった熱がそろそろきつくなってきた頃合いだ。
蛍光灯の光を背負った承太郎がわたしを見下ろしている。わたしは努めて淫猥に、下品な顔で笑いかけ、承太郎へ向かって手を伸ばした。承太郎の白濁に塗れた指先を。
承太郎の逞しい腕がそろりと動く。わたしの手を取るために。わたしを、その腕で抱きしめる為に。らしくもなく心臓が早鐘を打っている。早く承太郎に触れたかった。体の奥の奥まで触れて欲しかった。だから五指が反り返ってしまう程にぴんと、承太郎へ向かって手を伸ばしたのだ。

そうして承太郎は、その掌でがっしりと掴み取る。
握りつぶしちゃうんじゃあないかってくらいのとんでもない力を込めて――このDIOの足首を。

「お――おいおい待て待て承太郎!何をする貴様、ちょっ、お、おい馬鹿やめろッ、人を荷物のように扱うんじゃあない!!」
「いっそものも言わねー荷物の方がまだましだクソ野郎!鞄は暇だからって人のちんこしゃぶったりしねぇからなぁ、ああ!?」
「お前はイった!確かにイった!見ろこのDIOの顔を!お前の出したものでべたべただッ!わたしをこんな風にしたくせに、言うに事を欠いてクソ野郎!?どこまで無礼な男なのだ、貴様という奴は!」
「こっちは大人しくしててくれって頼んでんだよ!協力できねーってなら、こうするまでだ!」
「じょうたおああっ!!」
足首を掴まれずりずりと引き摺られながら――辿り着いたのは、6畳一間の出入り口である。すぱーんという音と共に襖を開け放った承太郎は、その向こうのリビングへ向かってこのDIOを放り投げた。もう一度言う。この男はこのDIOを、それこそ鞄か何かのように、冷えたフローリングへと放り投げたのだ。
「わたしはまだ、何もしてもらっていない!お前だけずるいぞ承太郎!あまりに不公平だと思わんのか!」
「不公平もクソも、頼んでもねーことをお前が勝手にやっただけだろうが!一段落ついたら気が済むまで構ってやるし、ほら、なんだあれ、ちょっと前に言ってた美術館にも連れてってやるから、大人しく待ってろこのアホ!」
「じょ、承太郎!」
開け放たれた時と同じ潔さで、さっさと襖は閉まってしまう。慌てて私は体を起こした。
「ではなにもしない!昨日までと同じように、ただお前を見ているだけにする!だからせめて、このDIOを部屋の中に入れるのだ!」
「あんなことされたばっかで、お前を意識しねーわけがねぇだろうが!後ろに居られちゃあ気が散って仕方がない!」
「お前の言う通り『大人しく』していてやるから!別に後ろで自慰をしようだとか企んじゃあいないのだぞ!」
「尚更入れるわけにゃあいかねぇな!」
「承太郎!」
わたしと承太郎を隔てる襖には鍵なんか掛かっちゃいない。だから簡単に開け放つことができるのだ――と気付いたのは不承不承シャワー室へ移動してからで、わたしは愚鈍にも紙の扉に取り縋り、薄情な男の名を呼び続けたのだった。








それでも2日は大人しくしてたDIO様


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