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火曜日

出先から戻って一番に目にした光景というものが、丁度風呂から上がったばかりなのだろうDIOが襟首の開いたシャツと俺のジャージを身に着けてうろうろとしている姿だった。恐らくそれが、いけなかった。
「承太郎、アイスないのかアイス、あの棒のやつ」
後悔をする。後悔するとは分かっていた。けれども今ばかりは頭の中の、何か大事なタガが外れてしまっている気配があって――有体に言ってしまえば、2日前は耐えることのできた『DIOを酷く抱いてしまいたい』なんていうどうしようもない衝動が急激に、それはもう唐突に、この胸の内へと大手を振って帰還してきやがっているのだった。
不幸なことに今夜は時間に余裕がある。やらなければならないことがあるには違いがないが、それは一晩必死こいてやれば片付くというものではなく、期限だって週末を目途にすればいいものだ。なので今夜くらいは、10時間の睡眠をとったって許されるだけの時間があるのだった。
けれどやっぱりそれは今夜ばかりの話であって、片付かない仕事を抱えている事実に変わりはない。明日からはまたか、またあんな神経が張りつめて仕方のない日々を過ごさねばならんのか、と思えば気が立ってゆくばかり、精神は摩耗の一途を辿っている。

「……どうしたというのだ、承太郎?」

後悔を――しないわけがない。
DIOの前では格好をつけていたいだとか、あいつを大事にしてやりたいだとかいう、言ってしまえばDIOに対するエゴのような感情は1日2日で変わってしまうものではなかった。それでも俺は、今ばっかりは。

「上手くいけば今日であらかた片が付くと言っていたではないか。まさか本当に駄目出しを食らったのではなかろうな」

忙しくしていた俺の横で、寂しい寂しいと言外に訴えながらもダラダラとした『日常』を過ごしていた吸血鬼に、偶には俺を甘やかしてくれよなんて、そんなどうしようもない願いを叶えて欲しいと思ってしまっているのだった。




思い立ってからの行動は早かった。どんだけ切羽詰まってんだこの男、なんて自分でも笑っちまうほどの余裕のなさでDIOを6畳間に引っ張り込み、すっかり奴のスペースとなってしまっている布団の上に放り投げた。出来あがった体躯とそれに見合う力を持ち合わせたDIOがされるがままになっていた理由など、そんなの奴はずっと『こう』されることを期待していたからに他ならない。仰向けになって俺を見上げたDIOの両目は、甘ったるい期待でいっぱいになっていた。
しかしそれも、俺がどんな顔をして自分を組み敷いているのかということを認識するまでの、ほんの数秒の間だけのことである。
「どうしたことだ、承太郎。なんだその、やたらに原始的な表情は」
「知らねーよ。オラ、脱がすぞ」
「おい承太郎、っ、おい!」
空条の刺繍入りのジャージを脱がそうとすると、DIOは激しく抵抗した。脱がしきるまでにかかった数10秒、顔面目掛けて繰り出された蹴りのせいで目の奥がぐらぐらと揺れている。しかし頭などはとっくの昔に煮立っていて、思考や視力などもまともに働いてはいなかった。
――ともかく一刻も早く、DIOの体に溺れ、貪りつくしてしまいたかった。
――こいつの存在だけが網膜へと強烈に焼き付いて、他の風景は一切がぼやけている。
頭が、おかしくなっている。自覚はしている、だからって免罪符にもならないことも分かっている。狂気に染まっているようで、なのに肝心なところはどうしようもなく正気である現状が気持ち悪くてたまらない。なので、ボディーソープの香りが残る白い首筋に顔を埋め、柔らかな皮膚を噛んだ。噛んだ。甘噛みではない。半ば食いちぎってやるつもりで、奴の首に噛み付いた。この男に縋っているつもりなのだろう。ぼんやりとそう考えた、他人事のように。

「~~ふざけた真似ばかりをするものだなぁ、承太郎!」

両肩を掴まれて、強引に引き離される。見下ろしたDIOはまさに怒り心頭に発するといった様子の赤い目で、射殺すように俺を睨みつけていた。
「あれだけしてぇしてぇ言ってたじゃあねーか、てめー」
「わたしは、いいように扱われるだけのセックスなどは、ごめんだ!」
「いつもはお前が俺をいいようにしてるだろ」
「それとこれとは違うだろう、鏡を見てこい愚か者!貴様はわたしを見ちゃいない!ただ自分を慰めるためだけに、わたしを、わたしを、このDIOを――っ!?」
うるさいことしか言わない口を塞ぎ、奴が目を白黒させている内に下半身へと手を伸ばした。萎びた性器を扱いてみれば、ゆるくではあるものの反応を示している。DIOの顔は心の底から悔しいのだと言わんばかりの表情に強張って、しかし白い肌に差した頬の赤味は消しようがない。
「ぁ、っ、っ、ふ、ぅ……んっ、んんぅー……」
後孔の入り口をなぞってみれば、DIOは目と共に口を閉ざし、けれどかみ殺しきれなかった甘い声が赤い唇の端から漏れ出ている。体内に埋めた指は押し出すような締め付けに襲われた。しかし普段そうするように壁の隅々を愛撫してやると、するりとそこは緩んでゆく。意思とは無関係に緩んでゆくばかりの体が憎らしいのだろう、うっすらと目を開いたDIOの目蓋の間には、今にも溢れだしそうな涙が溜まっていた。こいつは悲しくても泣かないが、悔し泣きは大いにする。感情の制御が下手なのだろう、そういう奴だ。そういうところがめんどくさいとは思えども、ちょっとばかし可愛いなと感じている。
「……そろそろ挿れるぞ」
「む、むりだまだ、痛い、痛いのだ、承太郎っ」
「平気だ平気。もう何回も突っ込んでやってるだろ」
「なんと腹の立つ物言いをっ、ひ、~~!!」
「っ――ずぶっずぶ入ってくじゃあねぇか」
「こ、こんなのわたしの意志ではない、ち、ちがッ、ぁ、あ、あっ」
火照った体を捩らせたDIOが手を伸ばしたのは、丁度頭の上に転がっていた枕だった。抱え込むように掴んだそれをとっかかりに、上へ上へと這うように逃げてゆく。せいぜい1秒に1ミリ動くか否かの、欠伸が出るようなスローペースである。本人は必死に逃げているつもりであるようなのがまた、滑稽さを助長させていた。
そんな姿をいつまでも晒させるのは忍びないし、こちらだっていつまでもこんな、無駄も無駄な逃走劇に付き合ってなどいられない。抱えた足を一旦放り投げ、引き締まった腰を両手で掴む。不穏な気配を察知したのだろう、豪奢なブロンドの先っぽがぴくりと揺れた。俺は罵声が飛んでくるその前に、掴んだDIOの腰を渾身の力で引き寄せた。
「ひっ、ぃ――~~!!?」
ぱつん、と威勢のいい音を立て、俺とDIOの肌がぶつかった。DIOは殆ど俯せになっていた上半身を中途半端に持ち上げたまま、すっかり硬直してしまっている。酷くいい気分だ、と思った。勢いよく突き上げた肉壁の締め付けは、もう先っぽから溶けちまうんじゃあねぇかってくらい気持ちがいい。そしてなによりも、まったく本意ではないセックスに付き合わされるDIOの姿というものがまた、俺の中の公にしてはいけないような欲求をこれでもかと満たしてくれるのだ。
掴み寄せた腰をがっしりと固定して、爛れるように熱い体内をひたすらに突き上げた。陰嚢がDIOの白い尻を打つたびにぱちんぱちんとまぬけな音が鳴り、DIOは髪を振り乱しながら甘い嬌声を上げる。とろけそうな声で嫌だ、嫌だ、と訴えられたって、抽挿のペースは上がってゆく一方だった。多分俺は、笑っている。DIOの泣き顔を肴に酷い顔で笑っているんだろう、そういう自覚がある。

「――あっ、あっ、あぅ、やっ、いや、ぁあっ、や、いやだと、こ、このDIOはぁ、いやだと、いっ、いって、いるっ、こ、このぉ、あ、ひぃっ!?ひ、ぐぅっ、ぁ、ああっ、や、やだぁ、じょーたろっ、や、し、したくないぃ、ああぁ、あっ、ひぁっ、あ、ぬ、ぬいてっ、ぬいてくれっ、はやくっ!ああっ、あ゛っ、あ、あ゛ー……!!」

別に――普段から酷いことをしてやりたいと思っているのか、と聞かれれば全くそんなことはなかったし、むしろでろでろにふやけるまで甘やかしてやりたい、なんて馬鹿なことを思っちまう衝動に襲われることの方が、遥かに多かったりするのだが。

「あ、はぁっ、は、ああぁっ、じょうたろっ、じょーたろぉ、あっ、ひっ、も、もう、いや、もうっ、もう……!」

体を支えていた肘も折れ、敷きっぱなしのシーツの上に投げ出されたDIOは、きつく枕を抱き締めている。嫌だ嫌だと繰り返すくせに、両足は大股に開きっぱなし、赤い目は淫猥な恍惚に塗れ、一心に俺を見つめていた。

なんというかもう――これだ、これなのだ。
この、逃げようと思えば俺の肩を一発蹴ればいいだけなのに、それをしないで犯されてくれているDIOが最高に愛しくて、嬉しくて、この1週間ばかりのあれこれですっかり擦り減っちまった俺の精神諸々が、急ピッチで満たされてゆく。きっと、『DIOに受け入れられている』という幻想だ。そういう思い込みが、この瞬間の俺を『DIOに無体を強く酷い男』に貶めて、同時に『世界一の幸せ者』であるかのような錯覚を抱かせるのだ。

「は、ひぃ、あ、あ、じょぉ、たろぉ……」

DIOが本気を出して逃げない理由なんて、隅から隅まで開発され切ったケツに性器をぶち込まれて訳が分からなくなっているだけなのかもしれない。そもそもこいつは誰よりも自分が一番で、俺のこともそう受け入れてくれているわけではないのかもしれない。
それでもよかった。とにもかくにも、今だけは。今だけは頭が腐っちまうような妄想に突き動かされるがまま、海洋生物のうねうねとしたフォルムなんて頭の中から放り出して、ひたすらDIOに溺れ倒してしまいたかった。
「嫌だ、っつーなら勃起なんかしてんじゃあねぇぞ、オラァ!」
「あぐぅっ!ゃ、お、おまえぇっ、ひ、ま、またぁ、でっかくぅ……!」
「涎垂らして喜んどいて、なにが嫌だって、てめーはっ、おい、DIO!?」
「っ、ひ、ひがうぅっ、よろこんでっ、なんかぁ、ない、ないぃっ、あ、あっ、お、おく、こんなっ、あ、ああああ!!?」
これ以上は無理ってほど奥まで突っ込んで、いいやこんなじゃあ満足なんてできねぇもっとだもっとと腰を振る。DIOはしゃくり上げながら咽び泣き、形が変わるほどぎゅっと枕を抱き締めた。両手でDIOの両足首を掴み上げてみれば、突き入れた箇所の入り口が、蛍光灯の安っぽい光の下に晒される。限界まで押し広げられ、自分にもついている物を食まされている赤い淵が、やたらめったらに健気だった。
「あっ、あ、ぁあっ、は、ぁ、あっ」
「トんじまうにはまだ、早ぇ、だろうっ」
「ひぃ!?ぃ、いぁあっ、あ゛っ、う、うぅう~~!」
くったりと弛緩する白い脚を、枕を抱えた胸元を目指して折り曲げて、上から抉るように一際激しく突いた。とろん、と落ちかかっていたDIOの目は見開かれ、涙が弾け飛ぶように散ってゆく。そうしてそのまま、悔しそうな顔でぐずぐずと泣き喚き出す様は、まるで駄々を捏ねる子供である。
「~~く、くそっ!ち、ちんぽなんかにぃ、じょうたろぉの、ちんぽなんかにぃぃ!わたしがっ、こ、このDIOがぁっああっ、きさまっ、おぼえていろよきっさまぁあ、あ!?あ、あっ~~、ぁ、ひぃっ、い、やぁ、やらぁっ、そ、そこだめだっ、じょーたろぉっ、わ、わたしぃ……そこ……だめぇ……じょぉたろ、ぁっ、ぁあ゛ー……」
抱き潰されかかっていた低反発枕が、いつの間にか元の形に戻っている。もう指先で枕カバーをちょいと摘まむのがやっとの力しか残っていないらしい。さすがに苛めすぎたかと詫びを込め、仰け反った首筋にキスをした。すると、くったりとするばかりだったDIOの体が大袈裟に跳ねた。もう一度、今度は耳元にキスをする。するとやっぱり、DIOの体は陸に打ち上げられた魚のごとく、跳ねる。
「ああ……いっちまったのか、お前」
「も、もぉ……ほんとうに、もう……むり、なのだ…………」
下の方を覗いてみれば、張りつめたDIOの性器が頼りなく震えていた。どうやらDIOは、射精を伴わない絶頂に達していたようだった。熱の籠った体を持て余し、うわ言のように無理だ無理だと呟いている。どうにも罪悪感を煽られて、これ以上酷くするのは躊躇われる姿である。かといってこのままここでやめちまうってのは、俺の方が無理なのだって話である。DIOを見下ろしながら少々逡巡して、とりあえず、戦慄く唇にキスをしてみることにした。
「ん……んん~……」
抵抗はなかった。積極的に応えてくることもなかったが、眉間に寄っていた深い皺は幾分薄れているように見えた。キスを続けながら、やんわりと下半身を動かしてみる。途端に、眉間の皺が深まった。
「……そう睨むなよ。まだいってねーんだ、俺は」
「い、いくだけで、あるなら、わたしの、体を使わずとも、よい、はずだッ」
「自分で片付けろって?つめてーこと言うなよ、DIO」
「冷たいのはおまえ、ん、んん……」
片方の足首を解放し、空いた方の手でDIOの頭を撫でる。もう片方で抱えたままの足を肩の上に担ぎ上げれば、DIOの体はちょっとばかり斜めにかたがって、反動で中の角度も変わったのだろう、DIOはむずがるような息を漏らした。相変わらず、胸元には枕を抱えたままだ。
「あれだけ構え構えうるさくしてたくせに、いざ構ってやったら嫌だ嫌だってお前、一体どういうつもりなんだよ」
「た、たしかに、わたしは、お前に構われたがっていた。しかしダッチワイフとして扱っていいと言った覚えは、ないっ!」
「ダ、ってお前……どこでそんな言葉……つーか大体お前、俺が構う構わない云々を置いといても元々好きだったろ、セックス」
「す、すきなんかじゃあ、ぁっ、あ、ひ、ひきょうだ承太郎っ、そんな、きゅ、きゅう、に」
少しばかり律動を早めてみると、DIOは鼻から下を枕に埋めてぎゅっと目を瞑った。かと思えば、滴る涙と共にうっすらと目を開く。そして気まずげに俺を見て、なにやらをぼそりと呟いた。厚い枕に阻まれている上に、嬌声交じりの声は酷く聞き取り辛い。なんだよ、と問い返せば、引き結ばれた赤い唇が枕の陰からおずおずと現れた。改めて話すのが恥ずかしいことなのだろうか、羞恥の滲む双眸をふっと伏せたDIOは、口の中でなにかをもごもごと呟いて、やっぱり俺には聞き取れない。
ので、口を開かせてやろうと勢いをつけて奥を突いてやった。一回だけのつもりだったのだが、ゆるい抽挿を数分続けた後の全力挿入はそれはもう気持ちが良いものだった。DIOがなにかを伝えたがっていたことをうっかり忘れ、俺は数分前のDIOがトんじまった時と同じ勢いで腰を振った。DIOが身悶える。枕が再び潰れてゆく。頭を撫でながら耳の端を齧ってみると、DIOは鼻から抜けるような甘ったるい嬌声を漏らし、うわ言のような独白を始めた。
「す、すき、ほんとうはぁ、ぁ、せ、せっくす、すきぃ……承太郎のちんぽもすきっ、だ、だいすきでぇ、というか、わたし、わ、わたしは、あ゛っ、ぅぁ、あ……じょ、じょーたろの、ことが、あぅ、ぅううっ……!」
耳元の俺を追い払うようにDIOはかぶりを振った。滅多に言わない素直な好意を口にした吸血鬼は、すっかり目を瞑ってしまっている。睫毛に引っ掛かった涙の玉が、やたらにきらきらと光っていた。
「わたしはお前が、す、すきなのにっ、こんなにすきなのに、承太郎とかいう愚か者はっ、このDIOを粗末にする!珍しくわたしを見たと思ったらこれだ、こ、このような、性の捌け口のような扱いを!そういう承太郎は、嫌いだ、大嫌いだ、殺してやる!」
「落ち着けよ」
「ん、むぅ、うぅ……!!」
喋っている内に余計に腹が立ってきたのだろう、どんどん過激になって行く口先を塞ぎ、今度はついでに舌を突っ込んでみた。噛みちぎられる覚悟はしていた。しかしDIOは言葉とは裏腹に必死に舌を絡めてくる始末であったので、スプラッタな事態にはならずに済みそうだ。
名残は尽きないが、息が途切れそうになった辺りでDIOの口を解放する。真上から見下ろしたDIOは、憎々しげに俺を睨みつけていた。思わず、やれやれだ、と呟いた。したらばDIOの赤い目が一層剣呑に細まってしまったので、慌ててそうじゃあなくてだな、と訂正を入れておく。
――やれやれだ。
決して、DIOに呆れているわけではない。わざわざ言葉にしなくても、こっちの言いたいことはそれとなく察してもらえるはずである、許してもらえるはずである――なんてとんでもない傲慢を、飽きず発動させていた自分自身への呆れである。
乱れに乱れた金髪を梳いた。そして、少々言い辛くはあるし、後になったらきっと後悔をするのだろうが――DIOもセックスが好きだとかちんぽ大好きだとか素面じゃあ決して言えないことをわざわざ言葉にしてくれたわけなので、多少の羞恥心を唾液と共に飲み込んで、意を決して囁いた。

「……偶には俺を、甘えさせてくれ」

無理矢理の行為を強いたのも、普段より強引に事を進めたのも――とにかく本当に、それだけのことだった。それだけの惰弱があるのみだ。
なるほど性の捌け口言われてしまえばまったく否定はできやしないのだが、他でもないDIOにだからこそ、どうしようもなく溜まってしまった俺のストレスや性欲その他諸々を受け止めて欲しいと思った。散々ぞんざいに扱ってきた相手になにを都合のいいことを、と責められても文句は言えない。そんなことは、分かっている。分かっちゃあいるのだが――こういう俺のどうしようもなさもついでに丸ごと受け止めて欲しい、なんてのはやっぱり情けない我儘でしかないわけで、なのにそういう自分をDIO相手にひけらかしたがっている今現在の俺の精神は、一体どれだけ摩耗してしまっているのかと――ああもう、訳が分からない。とにかく俺は、もうとにかくとにかくこいつのことが――

「……ど――どうしたことだ、承太郎。わたしはもう、こんなの止めたいはずなのに。今ので、わ、わたし、なにやら死ぬほど興奮した」
「……そうかい、オラ、動くぞ。お前だってまだ出してねぇんだから、辛いだろう」
「あ、あッ、あ……」

気恥ずかしくてたまらなかった。なのでここから先は無駄口を叩くのはやめにして、どこを触ってもひゃんひゃんと大袈裟な反応を示す体を無言で無心に貪った。耳元を通り過ぎてゆくDIOの嬌声は一層甘くとろけているように感じる。そろそろキスをしてやりたい所であったのだが、そうするとこの声が聞けなくなってしまうのが困りものだ。
「は、はぁ、はッ、はー……は、ひぃ、い、あっ、あっ、や、じょ、じょうたろう、なにかくるッ、す、すごいのがくるぅッ、ああっ、あ、はぁ、あっ、じょ、たろうッ、じょうたろう――!!」
「……っ、」
焦点の定まらない目で、それでも必死に俺を見つめ、だらしなく弛緩する唇を叱咤して、何度も何度も俺の名前を呼んで――そんなDIOの姿を、愛おしいと感じないわけがない。
後頭部を引き寄せて、肩口に押し付けた。汗ばんだ金髪が指の間に絡む感覚に、何故だかどうしようもなく涙腺を刺激されて、慌てて俺はDIOの首筋に顔を埋めた。早く、いきたい。一刻も早くDIOの中に、腹一杯を満たしてしまう程の精液をぶちまけたい。奥を突くたび下半身がとろけてしまいそうな快感に目の奥が白み、嗚咽交じりでDIOが叫ぶ俺の名前にどうしようもなく精神が満たされた。好きだ、と思う。好きだ、好きなのだ。いつの間にか俺の中に生まれていたDIOへの愛情は、すっかり俺という一匹の人間を構成する根幹の1つになっている。

――好きだ、DIO。愛している。

「承太郎っ、じょうたろう、じょうたろ……――!!」

泣き叫ぶような声を上げながら、DIOは精液を吐き出した。狂ったような内壁の締め付けに促されるまま、俺もDIOの中で射精をする。一度ドライでいってしまったからなのだろうか、DIOの絶頂はあまりに緩慢で、性器はぴくぴくと震えながら少しずつ精を吐き出している。その間DIOは、とんでもない快感に襲われているのだろう。口元は弛緩し切っていて、唾液が垂れ流しになっている。押し出されるような嬌声が止まらない。

「――じょう、たろぉ」

精液と共に荒い息を吐きながら、DIOは噛み締めるように俺の名を呼んだ。陶酔染みた甘い声に背筋が震える。なんだ、と問い返せばいつの間にか枕を手放していた両腕が、気だるげに持ち上がっていた。ので、その手を取って俺の背へと導いてやった。
DIOが、笑っている。昔のこいつを知っている奴が見たら腰を抜かしかねないような、とても穏やかな顔で笑っている。滅多にお目に掛かれない表情に俺だって腰を抜かしかけながら、気が急くまま唇に噛み付いた。その拍子にかくんと逸れてゆく白い首。背中の腕もずりずりとずり下がり、布団の上に投げ出された。

「……、」

失神したDIOの上で、とうとうやってきた恐ろしい後悔に頭を抱えながら――せめてもの責任として丹念に体を清めてやらねばと。重くなってきた体を叱咤して、俺は一先ずタオルを取りに洗面所へと向かった。




「貴様の罪を述べてみよ」
「……悪かったとは思ってるぜ」
DIOの失神からそろそろ30分が経とうとしている。寝こけるDIOの傍で手持ち無沙汰になってしまった俺は、とりあえず明日から始めようと思っていた没を食らった部分の書き直しに取り掛かろうと試みた。しかし今のさっきで集中などができるはずもなく、アルファベットを叩けやバックスペースを長押しするのサイクルである。
そんな折に目を覚ましたDIOは、難儀そうに起きるやいなやゾンビのような足取りで出入り口へと向かっていった。どうした、と問いかければ、風呂場に行くと返ってくる。おぼつかない足取りが心配だったので連れて行ってやる、と腰を浮かしかければ、いらん触るなこっち来るなと捲し立て、そのままふらふらと襖の向こうに消えて行った。
それから数分、ほかほかとした湯気と共に戻ってくるやいなや、DIOは俺の背中を蹴りつけたのだった。踵で蹴りやがったのだろう、中々に痛い。そして冒頭の一言である。吐き捨てられた声に感情は籠っていなかった。というよりも、疲れに疲れて怒ることすらかったるい、と言わんばかりの投げやりな声だった。
俺はパソコンを放り出して後ろを向き、正座になって仁王立ちをするDIOと対面した。慣れない体勢に足が悲鳴を上げているが、これが一番誠意を見せられそうな座り方であるような気がするので、早くもやってきた足の痺れなどは我慢の2文字である。
「年甲斐もなく盛りやがって」
「悪かった。なんというか、もうやってもやってもやることがでてくるわ、その間ずっとお前をほったらかしにしてるのも気になって仕方がないわで、少々気が立っていた。言い訳になるとは思わんが、とにかく謝っておく。悪かった」
「それだけか?他にも何かあるんじゃあないのか。わざわざそんな、お行儀のいい畏まった姿勢になるからには」
「ああ、まあその……正直すげー気持ちよかったっつーか、なんつーか、自分でも引くくらい興奮しちまってたのも、悪かったと思っている」
「そんなによかったのか」
「ちんこもげるかと思った」
「じょ、承太郎?なんだその頭の悪い物言いは。お前まさか、ヒトデにばかりかまけていたせいで頭が馬鹿になっちまったんじゃあないだろうな?」
馬鹿にしているような体を取っているくせ、なんだか心から心配していそうな声である。気まずげに目を泳がせながら、DIOは続けた。
「……別にセックスというものに、愛が必須だとは言わんし、そういうものだとも思っていない。ただお前とする時は、その――愛なるものが過分に溢れた場合の方が、気持ち良いと感じるので、今度する時はあれだ、もっとこう、愛情をもってこのDIOを労わりながらことを進めるのだ。あと身勝手をするのもやめろ、そういうのは嫌いだ、気分が悪い。強引なのが嫌いとかそういうわけではなくて――ええと、そうだな、その――ええい、なんというかあれだ、つまりちゃんとわたしを見るのだ承太郎。つまらないことで思い悩む時間があるのなら、1秒でも長く!いいか、こんな原始も原始な行為に高尚な意味を求めることの方が馬鹿馬鹿しいのだぞ。したいからするでいいではないか。それだったわたしだって、喜んで付き合ってやると言うのに」
これは――こいつなりに、俺を励まそうとしてくれているのだろうか。

「まったく、承太郎。お前はいつまでたっても馬鹿な子供のままなのだなぁ、承太郎よ」

そうやってぎこちなく笑った顔には、失神の寸前に見せてくれたような、穏やかな、春の日差しのような幸福が滲んでいた。ように、見えた。ので、そういうことにしておこうと思う。俺の隣にいるこいつは、こいつなりに幸せでいてくれているのだと。ついでに、俺のどうしようもなさをも受け入れてくれているのではないのだろうかって、それこそ都合のいい思い込みでしかないのだが。思うだけならきっと、自由だ。
両腕を開いてみれば、間髪入れずにDIOが胸元に飛び込んでくる。水気の残った髪を撫でると首筋を甘噛みされた。そうして俺を見上げたDIOの顔は、馬鹿馬鹿しいくらいに得意げだ。
ああもうまったく、好きでたまらんこんちくしょう。





勝手するのは好きだけどされるのは嫌いなDIO様。たまには承太郎が甘えちゃってもいいですよね!


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