スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

back

木曜日

酷い圧迫感と共に目が覚める。視界に飛び込んできたのはスイッチの入っていない蛍光灯ではなく、胸元にわたしを抱きすくめているのだろう承太郎の、着古したシャツに寄った皺だった。
「……このDIOを抱き枕にするか、狼藉者め」
「起きてたのか」
「目を覚まさざるをえないほどに苦しかった。ちょいと緩めろ、承太郎」
「……もう少し」
「……わたしはー、苦しいとー、言っているのだがー」
「それでも、もう少しだ」
「……仕方のない奴」
元より大した抵抗も出来なかったこの体を、承太郎はより一層キチガイ染みた力で抱きしめた。わたしがただの人間であったなら、ボロ雑巾のごとく抱き潰されていたに違いない。そういう、遠慮のなさである。
わたしが吸血鬼でよかったな、承太郎。
そう囁いてみたものの、承太郎からの反応はなかった。硬い胸板に押し付けられた顔を難儀して傾ければ、きょとんとした様子でわたしを見下ろす視線にかち当たる。どうにもこの男は無視をしたわけではなくて、わたしの声が聞こえていなかったようだった。必死こいてわたしを抱き締めて――縋りついて、いるものだから。そのわたしの声を聞き逃してどうするというのだ、この阿呆は。

「やっと、終わった」

やたらに感慨深げにそう呟いたこの男は、わたしのちょっとした苛立ちになど気付いていないに違いない。のだが、寝起きの今は一々腹を立てるのも億劫である。とりあえず、承太郎の腿の辺りを膝で蹴ってやった。それでチャラにしてやろう。
「やっとか」
「やっとだ。長いことほったらかしにしちまって悪かった」
承太郎は腕の力を少しばかり緩め、わたしの後頭部の髪をくいと引いた。抵抗してやる理由も見当たらなかったので、されるがままに上を向く。疲労と虚脱感、そして多分な安らぎに満ちた承太郎の顔というものは、普段の精悍さなどは見る影もなく、腑抜けた表情に緩んでいた。
笑わずにいられるわけがあるものか。ふふっと声を漏らしてみれば、承太郎は嫌そうに眉を寄せる。けれどちょいとばかし眉に力を入れたからといって、緩み切った表情が取り繕えるわけもない。承太郎の顔にはでかでかと『仕事が終わって嬉しい、DIOと一緒にだらーっとした時間を過ごせて幸せだ』と書いてあるのだった。笑いかけてやると、承太郎はやれやれだ、と溜息をつきながら、わたしの髪を梳きだした。ますます、わたしは愉快だった。
「まあ放っておかれたとはいっても、2日前には酷いセックスに付き合ってやったのだし。昨日は酌をしあいながら酒を呑んだ。それだけのことで幾分か腹が膨れちまっているー、なんて安っぽさをこのDIOに植え付けやがったお前には、いくらかの憎しみを感じないでもないのだが――まあ、なんだ。そう気に病むなよ、承太郎。わたしは心の広い吸血鬼であるのだから、お前の不調法の1つや2つなど許してやろうではないか。これからはもっとこのDIOを大事にするように。差し当たっては花見だ、花見。明日でいい。連れて行け」
愉快ついでに、そんなことを言ってみる。本当の所を言えば、散々わたしをないがしろにしやがってこの野郎、なんて気持ちは消えちゃいなかった。なのだがしかし、今は済んだことで腹を立てるよりも、この先得られるのだろう承太郎との時間の、幸福、に、胸を躍らせていたかった。馬鹿馬鹿しいとは思えども、今のわたしにとってはこの男の時間を食い潰してゆくことこそが幸福であるのだから仕方がない。このDIOをここまで『平穏』に堕落させてしまうなんて、大した大罪人がいたものだ。
「あー……」
「承太郎?」
「いや、なんつーか……俺はこれが、好きなんだなぁと。こう、妙にしみじみと」
「そこまで惚れ込んでいる相手を『これ』扱いか」
「てめーなんてぞ『これ』でたくさんだ」
承太郎の顔が接近する。期待通りのキスが降ってきたので、わたしは大人しく受け入れた。
「……それで?景気づけに一発抜きに来たのか、承太郎?」
「お前はまたそんな、明け透けな……まあ下心が全くなかったとは言わねーが、とにかくお前に触りたくて仕方なかったんだ、俺は」
「可愛らしいことを言うものだ」
「茶化すなよ」
「喜んでいるのだ、馬鹿者め」
今度はわたしの方からキスをくれてやる。ほんの1秒足らずだけ触れて、離れてみれば、真ん丸に見開かれた緑の瞳と目が合った。腑抜けを通り越して間抜けな表情である。

「――お前という奴は。本当にこのDIOが好きで好きで仕方がないのだなぁ、承太郎よ」

他でもないこの男にそうした感情を向けられることが、心地よかった。だってきっと、元々の承太郎というものは本来『こういう』男ではないはずなのだ。それがうっかりこのDIOに惚れ込んでしまったばっかりに、らしくはないことを言ってみるし、下手な甘えのようなセックスに溺れてみたりもする。愉快である。果てしなく、愉快である。そうやってわたしだけを見ていればいい。そうすればついでにわたしも『幸せ』になれるようなので、双方損のない理想的な型に嵌れるというわけだ。
「ふふふ、じょーたろー」
承太郎の後頭部へと手を伸ばす。わさわさに乱れた短い髪が、ちくちくと皮膚の表面を擽った。ないも同然になった距離にある承太郎の顔は、やっぱり腑抜けの間抜けに緩んでいた。ちょっとは取り繕えよ、幸せ者。そう囁くやいなや、太い眉と眉の間に皺が生まれ、けれどもどうやったって緩んだ雰囲気を払拭できるはずもない。あまりに中途半端なしかめっ面が滑稽だ。
「幸せ。幸せ、なぁ」
「幸せだろ?なんといっても、お前の腕の中にはこのDIOがいる。これ以上の幸福があるものか、承太郎?」
「……その通りだっつーのが死ぬほど癪だ」
「素直になれよ。お前もいい年なのだから」
「落ち着きのねーじじいがなんか言ってるぜ」
「そのじじいが好きで好きでたまらんのは誰だというのだ」
「俺だよ、馬鹿野郎」
だらだらとわたしの髪を梳いているだけだった大きな掌が、唐突に強烈な意志を持ち、わたしの後頭部をがっと押さえ込む。そうしてやってきた承太郎からの2度目のキスは、口内の隅から隅までを貪ってゆく激しいものだった。さっきの触れるだけのものよりも、ずっと承太郎らしい。他でもないこの男に、こうして熱烈に求められることが嬉しかった。だからと言って、大事に大事に扱われるのが嫌だというわけではないのだが――つまりわたしは相手が『わたしが好きでたまらない承太郎』であれば、どんな触れ方をされたって喜んでしまうということであるらしい。
――まったくもって、忌々しい!忌々しくも、どうしようもなく『幸せ』だ!
「っ、んむっ!」
口内に蠢く熱い舌を、奥歯の辺りで噛んでやった。頓狂な声とともに承太郎が離れてゆく。そして自分の舌に何が起こったのかを認識するやいなや、じとっと細まった目でわたしを見た。次には小言を繰り出そうとするのだろう。その前に、承太郎の口を塞いでやる。承太郎の真似をして、後頭部を押さえ込みながらのキスで以て。絡んだ舌から伝う血の味が、やたらに美味で、愛しかった。
「……で。するのか、承太郎?」
「…………頼む」
2日前に勝手をしてしまった、という負い目があるのだろうか。さっきまでの激しいキスが滑稽に思えるほどに、承太郎の態度はしおらしい。そうした姿に優越感を抱かないでもないのだが、ここまで負い目を前面に押し出されてもうっとおしいだけなので、気にするなと。そう告げてやるつもりで、下唇を噛んでやった。
――お前はお前の思うように、このDIOを愛せばいいのだ。そうすることを、許してやっているつもりでいる。
口にするにはあまりに馬鹿馬鹿しいから言ってやらんぞ。わたしが好きなのだというなら察してみせろよ、承太郎。



服の裾を鎖骨の辺りまでたくし上げられ、そうして暴かれてしまった胸元に承太郎が顔を埋めている。ついさっきまで承太郎が唇で探っていた首筋だとか、耳の付け根だとかには、未だじんじんと疼くような甘い痺れが残っていた。けれどとうとう啄まれ出した乳首から広がってゆく痺れは段違いに強烈で、わたしは承太郎の頭を抱え、ただ喘いだ。側面が噛み潰されてゆく感覚が溜まらない。ぱっと離された後に、舌の表面で丹念に舐めしゃぶられる感覚などは余計に、言葉にならないものだった。
「あ、は、ぁー、あ……」
承太郎のつむじを眺めていたはずなのに、いつの間にか首は反っくり返っていて、わたしは暗い天井を見上げていた。もはや見慣れた天井である。何年もこの部屋で寝起きをしている。承太郎の用意した部屋で、承太郎が選んできたベッドと布団に包まれて。今着ている服だって、元はと言えば承太郎のものだ。つまりこのDIOの生活には、絶えず承太郎の影がちらついているというわけだ。
そうしていると、まるでわたしまでもが承太郎の所有物にでもなってしまったかのような気分になる。それも、悪くはないと思っている。だって承太郎は、とっくにこのDIOのものだ。それが奴にとっての幸せであるらしい。まったく奴に似合っちゃいない、健気ですらある可愛げが、おかしくもあり、愛しかった。だからこのDIOを楽しませ続けている褒美として、とりあえずわたしが飽きてしまうまでは、奴のものでいてやるのも悪くはないと思っている――

「どこに気ぃやってんだよ、オラ」
「ひ、ぃっ」

鋭い感覚に一瞬意識が飛んだ。慌てて胸元を見てみれば、片方の乳首は承太郎の爪の先で潰されていて、もう片方は承太郎の唾液に塗れ、ぷっくりと膨れていた。どうやら、強く噛まれたのだろう。記憶にある数10秒――あるいは1分強ほど前の状態よりも、いくばか膨れ上がっているように見えた。
「ちゃんと、お前のことを考えていたのだぞ」
「どうだか」
「本当だ。乳も出ない胸に必死こいて齧りついている姿というものは、妙に変態くさいものであるのだなぁ、と」
「悦んでるお前だって大概変態だ」
口の減らん男である。それどころか、すっかり勃起した乳首をこれ見よがしに、唇の先で啄んで見せる始末である。わたしの両目を、じっと見つめながら。
背筋が震えたのは、決してその愛撫が気持ちよかったからだけではない。承太郎の視線こそが、わたしという男の深い部分をこれでもかと犯している。ずっと欲しかったのはこれだ、これなのだ。わたしを支配したくてたまらないようであり、反面骨の髄まで支配されることを望んでいるようにも見える、あまりにも官能的な陶酔に染まる緑の瞳。その目で犯し尽くされることを、わたしはずっと待っていた。
喉が鳴って、頬が緩む。両掌で承太郎の頬を包み込むと、加熱された体温に皮膚の表面を焼かれてしまう幻想に襲われる。熱い頬。この男だって、わたしとの接触にどうしようもなく興奮をしているのだ。
「わたしをこんな体にしたのは、お前だろ?」
「……俺の記憶が正しけりゃあ、お前最初から割とこんな感じだったような気がするんだが」
「ふふふ、言ってみたかっただけだ」
「ろくでもねー漫画ばっか読んでんじゃあねぇよ」
「んっ、ふ、ふふ、ぁ、あっ」
摘ままれ噛まれて舐めしゃぶられて。そうして承太郎に弄繰り回されるだけの器官と化したその箇所は、すっかり膨れ上がり快感を通り越した痛みを訴え始めていた。一応、形だけは咎めてみる。けれどわたしの零した声はどう聞いたってもっと、もっととねだるような甘えが滲んでいて、頬は緩んだままだった。ちょっとだけ顔を上げた承太郎が、わたしの顔を見て凶悪に笑った。やたらに雄くさい。そして、憚ることのない執着心が滲んでいる。腹の奥がきゅんと熱くなった。
「あ、はは、ぁー、ぅ、ふふ……やっぱり、ぃ、今のお前、死ぬほど変態くさいぞ、じょーたろぉっ、ん、ん……ふふ」
「だぁからてめーも大概だって、言ってんだろうが」
「んぅ、ん、ふ、ふふ」
「うおっ」
膝を緩く曲げてみれば、硬い感覚とぶつかった。それをこねくり回すように膝を動かすと、承太郎の顔が赤らんでゆく。
「……行儀わりぃなぁお前、ったく、相変わらず」
「そういうのが好きなのだろ?」
「ばぁか」
承太郎はようやく胸元から撤退し、わたしの上に覆い被さった。そして無遠慮にわたしの両耳を掌で抑えながらキスを寄越し、とろけるように熱い舌で口内の端から端を愛撫しに掛かってくる。明け透けな水音が耳の奥で残響して、わたしは酷く興奮した。されるがままになっているのが死ぬほど物足りなくなる程に。なので、手を伸ばした。承太郎の後頭部に指を絡め、衝動のままに髪を引く。髪が一本抜ける度に承太郎は眉を顰め、一層激しくわたしの口内を貪った。たまらない。たまらない。死ぬほど気持ちいってのは、こういう時に使う言葉なのだ。
「じょー、たろぉー、んぅ、ふ、ふふ、ふ」
「は、……ん……どうした、DIO」
「もっとだ。もっと。もっとわたしに、キスをしろ」
「仕方ねぇな」
どっちが吐いた息かも分からない。どっちが零した唾液なのかも分からない。口先からぐちゅぐちゅと溶け合いながら、それでもまだだ、もっともっと溶け合うことができるだろうと、舌を絡める動きは激しさを増してゆく。
それだけでは足りなくなったので、丁度その高さにあった承太郎の下腹へ、すっかり勃起してしまった性器を押し付けた。そして腰を動かすと、衣服越しのもどかしい快感に性器は体積を増してゆく。承太郎がまた、見計らったようにわたしのものへと自分のものを擦り合わせるよう、腰を動かし出すものだから。際限のない快感に全身は打ち震え、合間合間に交わす視線の愛しさに、精神が果てしなく満たされてゆく。
わたしは、これが好きだ。承太郎という男が好きなのだ。
たったそれだけ。それだけのことしか考えられない馬鹿にすら、なってしまっている気配がある。今はもうそれでよかった。――幸せ、であるわけなので。
ああ、わたしは幸せなのだ。幸せなのだぞ、承太郎。お前のせいで、わたしは幸せになどなってしまった。
「じょ、たろう、お前、ふ、ふふっ、犬にでもなった、つもりかぁ?馬鹿みたいに、へこへこと腰を、振りやがって!」
「ふ、はは、間抜けがなんか、えらそーなことを言ってやがるぜ」
「まぬけ?このDIOが?」
「写真にでも撮ってやろうか、お前?その耐え切れませんってばかりに、腰を突き出したポーズ!さいっこうに間抜けで笑えるんだぜ、DIO!」
「なぁにを言うのだ、承太郎っ!カメラを取りに行く余裕などないくせに!」
罵り合いながら笑い合って、最中もずっと下半身を擦り合わせる動作は止まらない。決して射精に至る快感ではなかったが、そのもどかしさやむず痒さがどうにも愉快で、愛しかった。
けれど互いにそう、耐え性のある方ではない。すっかり下着の中がべたべたになってしまった頃合いに、不意に承太郎が体を起こした。その背から厚い羽毛布団が落ちてゆく。薄暗い部屋の中、わたしを一心に見下ろす緑の双眸だけがぼんやりと輝いて、それがまたわたしをたまらない気分にさせるのだ。
「……今から慣らすっつーのもなんか、めんどくせー話だな」
「待っていてやるから、ちゃんと慣らせよ。わたしが大事なのだろう?」
「にやにやすんな」
承太郎が下着ごとわたしの下衣をずり下げた。てらてらと濡れた性器が威勢よく飛び出して、開放感に息が漏れる。しかし余韻に浸る暇もなく、先走りを絡めた承太郎の指がわたしの体内に突き立てられる。本当にめんどくさがっているのだろう。妙に雑な愛撫である。それでも大事にしろと念を押したことが利いたのだろうか、逸りながらもゆっくり1本ずつ指を増やしてゆく様には可愛げがあって、多少きついがもういいぞ、と言ってやりたい気分になった。でももうちょっと逸る承太郎を見ていたかったので、わたしも少し我慢してやることにする。
「……さてはてめー、またろくでもねーこと考えてるな?」
「んー、ふふ、さあて、どうだろうなぁ、承太郎、っ、っ、ん、」
中を探る指が3本に増えて、反射的に体が強張った。やはり少々息苦しい。なのに突っ込んでいるはずの承太郎の方が、苦しそうな顔をしている。これで案外分かりやすい男なのである。
やれやれだぜ。奴の口癖を心中で呟きながら、奴の背中へと両腕を絡めた。はっとわたしを見返した承太郎の顔は、待ての出来ない駄犬のそれに似ている。
「いいぞ、承太郎」
「……よかねーだろう。きついぞ、まだ」
「わたしがいいと言っている」
「大事にしろっつったのもてめーだ」
「分からん奴だなぁ」
絡めた腕をとっかかりに上半身を持ち上げて、奴の耳元に唇を寄せた。耳まで、赤くなっている。
「……指なんかじゃあなくて、もっとおっきくて太いのが欲しいのだー、と、言っているのだが。このDIOはー」
体内を探る指も例外ではなく、承太郎の動作の全てが静止した。かと思えば3秒も経たないうちに、空いた方の手でわたしの肩をシーツの上に押さえ付けて、赤くなったしかめっ面でこのDIOを睨んでくる。そんな顔をされても愉快なだけだ。
「……お前マジで、どんな漫画読んでんだよ。今度見せてみろ。どうにも検閲しなきゃならねー必要を感じるぜ」
「そんなの今は、どうでもいいだろう?承太郎。早く。承太郎。早くわたしを犯せと言っているのだ。ここまで言ってやらんと分からんか?」
「後から喚くんじゃあねぇぞ」
「後のことは、後のことだ」
「勝手を言いやがる」
承太郎は片方の掌でわたしの後頭部を包み込み、自身の胸元へと押し付けた。そしてもう片方、体内に埋まっていた指を抜き去って、入り口を押し広げる。無理矢理に体を暴かれる感覚に全身が粟立った。その次に、押し当てられた承太郎の脈打つ性器の熱量に、思わず唾を飲んでいた。
承太郎。
訳も分からないまま、わたしを抱く男の名前を呼ぶ。それが合図だったかのように――

「あっ、――あ、ぁ、あっ、ひ、っ」

育ちきった承太郎の欲望が、ずぶずぶと緩慢に、けれど確かにわたしの体を抉ったのだった。
「あー、あ゛、は、はいって、いるぅ……承太郎が、わたしのなかにぃっ、あ、あぅ、ぅ、んん……」
「唇噛むなよ。切れるぞ」
「た、たえきれん、のだ、あ、ひぃっ!ん、んぁ、あぁ~……」
突き落とされるような快感に、頭の先から爪先までを満たしてゆく充足に、わたしの意識が乱れてゆく。そんなわたしを落ち着かせようとでもいうのだろうか、承太郎の掌に優しく後頭部を撫でさすられるものであるが、そんなのはまったくの逆効果だった。だって、どうせよというのだ。こんな湧いて出て止まらない幸福への対処なんて、わたしは知らない、そんなの知らない。
「じょぉ、たろぉ」
「ああ、DIO」
「……じょーた、ろぅー……」
「……DIO?」
色んな感情がごったになって、酷い顔になってしまっている自覚があった。そんなものを承太郎に見られたくはない。恥じらいなどではなく、これはもう、わたしの意地の問題である。両腕で承太郎の背中を抱き直し、顔を上げてなるものかと爪を立てた。承太郎が息を詰めた気配がする。けれど今は、そんなまぬけを笑い飛ばしてやる余裕はない。
「もっと――もっとだ、承太郎。もっと……激しくしても、いい」
何も考えられなくなるくらいに。でなければ、セックスなんて動物的もいいところなこの行為について、妙に感傷的な意味を求めてしまうような気がしてならないのだ。このDIOが、まるで2日前、妙に思いつめた顔で強引にわたしを抱いた承太郎のように。
それは嫌だ、とても嫌だ。幸福なんてものに浸ってしまっているというだけでも、このDIOにとっては大事件であるわけなのだ。この上セックスへの価値観までもを歪められてしまうなんて、たまったものではない。これも、意地だ。いくら平穏に染まりかけているからといっても、わたしにだって張り通したい意地はある。

「どうせ後から文句言うんだぜ、お前」

承太郎が、やれやれだぜ、と呟いた。呆れ笑いの滲んでいる声だった。そしてまた壊れ物を扱うかのように、そっとこのDIOを撫でるのだ。
承太郎が優しかったのはそこまでだ。次の瞬間からの承太郎はちゃんとわたしに従って、2日前を思い出す激しさでわたしを抱いた。わたしは承太郎に取り縋りながら、喉が裂けるんじゃあないのかってくらい喘ぎ倒し、その内両腕が奴の背から滑り落ちて行った。
慌てた様子の承太郎がわたしの背を抱え直した瞬間のことは覚えている。反っくり返った上半身、だらりと脱力した首に頭。涙と唾液で塗れたわたしの顔を覗きこみ、承太郎はただ一言、ひでー顔だなと。やたらに幸せそうに笑いながら、そんなことを言いやがったのだった。
「――も、もうッ、もうだめだ、だめ、承太郎っ、でる、でるッ!」
「ああ、俺ももう、限界、だッ!」
「あっはぁあ、あアッ、あっ、あ、あ……!!」
性器を叩きつけられるように体の中を抉られて、目の奥がちかちかと白くなる。なのに承太郎の、汗が浮かんだ承太郎の、必死こいた顔だけは鮮明で、ああわたしはこれが好きなのだ、どうしようもなく好きなのだ、と半狂乱に心の中で絶叫をしながら、

「もうイクぅっ!!で、でる、でる、じょうたろっ、じょ、ああっ、ああああああッーー!!」

突き落とされるような――それこそ承太郎が真面目ぶった顔で呟いた「ちんこもげるかと思った」ってなくらいの、とんでもなく強烈な絶頂に至ったのだった。

「っ、すげっ、ふっ、DIO……!!」

承太郎の声は切実だ。そんな声で短い嬌声を漏らしながら、承太郎はわたしの中に熱い精液をぶちまけた。気持ちが良い。気持ちが、よすぎる。
「で……でてる……わたしの中に、じょーたろぉの……」
「……つらくないか」
「ない……きもちいい……」
キチガイ染みた熱が波のように引いてゆく。そのあとに残ったのは穏やかも穏やかな、ひたすら精神を充足させる緩やかな快感だ。承太郎は中途半端に抱えていたわたしの上半身をシーツの上に横たえて、額や頬へ雨のようなキスを降らせた。わたしも何かしてやりたかったが、まだ体が重くて動けそうにないので、幸せそうにわたしに触れる承太郎をただ眺めた。そうこうしている内に視線が合い、言葉もなく、どちからというわけでもなく、わたしたちは子供の遊び染みたキスを交わしたのだった。

1週間。1週間。放置を食らっていた――ようでいて、結局はなにかしら構われていた気のする7日間。
劇的な何かがあったわけではない。承太郎はいつもより忙しくて、わたしはいつもより暇だった。それだけのこと。それだけの時間がこれからも、パイの生地のように積み重なってゆくのだろう。幸せ。ああ、幸せだ。今のところのDIOにとっては、承太郎とのそうしたなんてことのない時間の重なりが、なによりもの幸福を与えてくれるのである。悔しい話だが、本当に悔しくてたまらないのだが。
だから、言ってなどやるものか。教えてなんてやるものか。

「――お勤めご苦労」
「――おかげさんで」

とりあえず承太郎は、承太郎なりに神経をすり減らしながらこの1週間を乗り越えたようなので。
一言労わってやれば、承太郎は疲れたように苦笑をして、飽きずわたしの唇へとキスを仕掛けてきたのだった。
back

since 2013/02/18