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X通りの可能性

「なあ、ぼくは君に1つ隠していることがあるんだけれど、ジョジョ、君、気付いていたかい?」
「どうしたんだい、藪から棒に。君が今食べているそれ、ぼくが机の中に隠しておいたものだってことは知ってるよ」

ベッドの上に仰向けに寝転がったディオは、横目でちらりとぼくを見た。そしてわざとらしくぱきん、と軽快な音を立て、銀紙に包まったチョコレートの端を齧るのだ。この課題にひと段落が付いたら食べようと思っていたちょっとばかり高級なチョコレートを、まんまと目の前で掠め取られたぼくの気持ちをお分かり頂けるだろうか。

険交じりの声で吐き捨てたぼくを小馬鹿にするかのように、ディオは尚もぱきぱきとチョコレートを折ってゆく。とても悔しくてたまらないはずなのに、何故だかぼくはディオの小ぶりな唇が甘い塊を食んでゆく光景に、なんていうのかな、ちょっとしたエクスタシー染みたものを感じてしまっていて、咎めることも出来ずに目を釘づけにされてしまっている。理由なんて知らない。ディオへの感情は一向に収まりのいい言葉でまとまらない。ただどうやったって、不健全な言葉になってしまうものだってことは自覚している。

「なんて目で見てるんだ、ジョジョ。そんなに悔しかったのか?元はと言えば自分の分しか買ってこなかった君が悪いんだぜ」
「いいよ、もう。今度は君の分もちゃんと用意することにする。それでいいんだろ」
「結構」

仰け反ったディオの首。白い肌の下から、うっすらと動脈の色が覗いている。気付いた時には、重々しい生唾を飲んでいた。嫌に生々しい音と共に。
そんなぼくを見上げながら、ディオはやはりチョコレートの端を折る。ふっくらとした唇の先で、まるでクリームを舐めとるかのような繊細さで咥えたそれを、口の中に隠した途端にばきばきと音を立てながら噛み砕いたのだった。
ぼくは、努めて平静を装って、机の上の課題へと向き直った。
ディオなどに構っている時間はない。今日はせっかくの休日だ。今日中にこの課題を片付けてしまえば、後がずっと楽になるのだから。さっさと課題を提出してしまって暇を持て余しているー、なんて小憎らしいことを言うディオなんて、放っておけばいい。

「おいおい、ぼくを邪険にするなよな。話し相手にくらいなってくれたっていいだろう?」
「悪いけど、今日は君の相手なんてできないよ。どうしても寂しいって言うなら外へ行けばいい。たくさんいるだろう、友達」
「冷たいことを言うんだな、君って奴は。君がいいから、ぼくはここにいるんだぜ」
「ぼくとだなんて、いつだって話せるだろ。せめて明日にしてくれよ」
「嫌だ、今日がいい。ジョジョとたくさん『おはなし』がしたいー」
「ディオ……」

溜息を吐くとともに、ペンの動きが止まる。観念して、ぼくは椅子の背に腕を預け、体の半分だけで背後を向いた。
相変わらず仰向けでチョコを齧るディオがにやにやとぼくを見ている。どうにも小悪魔チックな表情がよく似合う男である。きっと彼が女の子だったなら、ぼくは白旗を振りながらキスを乞うたのだろうなってくらい可愛らしくて、蠱惑的だ。人並みに健全に多感な10代をやっているぼくがなんとか踏みとどまっていられるのは、彼が男であるからで、そして中身の方は小悪魔などではなく立派な大悪魔であることを知っているからなのだった。
いや、家に来たばかりの頃はともかく、最近の彼はすっかり品性方向な優等生が板についてはいるけれど。それでもふっと浮かべる酷薄な表情こそが、本当の彼であるのだろう、という気がしている。

ぼくはそんな彼が恐ろしかった。
彼が何をしたから、というわけではなく、「酷薄」だという人間としての欠陥すらも魅力に変えてしまう彼のことが、どうしようもなく恐ろしいのだ。
――衝動のままに彼にキスをしようものならば、きっとその瞬間にぼくの頭はチョコレートのように溶かされてしまう。触れてもろくなことにはならないと分かっているくせに、それでも彼に惹かれて止まないぼくの、ちょっとばかりおかしくなっているのだろう頭の中が。

この美しい悪魔に食われてなるものか。
馬鹿げた恐怖を唾液と共に飲み込んで、ぼくはディオへと向き直る。

「やっとぼくを見たな、ジョジョ」

ディオがごろりと寝返りを打った。腹ばいになってぼくを見ながら、やっぱりにやにやと笑っている。
チョコレートが押し当てられた唇がぐにゃりと歪んでいて、なんだかたいそう、卑猥だ。――そして口の端にこびり付いている溶けたチョコの欠片が、やたらにまぬけである。どうやらディオは気付いていないらしい。
毒気と共に、気も抜けた。装うまでもなくぼくは『普段通り』のぼくになって、溜息と共にディオとの『おなはし』を開始した。

「まったく……それで、君は?一体何の『おはなし』をしたいんだい?」
「さっきも言っただろ?ぼくの隠し事の話だ」
「隠し事かぁ。とはいっても君のことは大抵知っているつもりだし、今更思い当たることもないんだよね。それってぼくに関わることなのかい?言い出しにくいことでも?貸したペンを失くされたくらいじゃあ、今更もう怒らないよ」
「だってそりゃ、君だってよくぼくが貸してやったものを失くすだろ。いや、そうじゃあなくってだな、ジョジョ、本当に分からないか?君に関わるとか関わらないとかそういう次元の話じゃあなくて、もっとこう、根本的な話なんだけれどな」
「根本的?なんの根本の話なんだ?」
「……ジョジョは節穴だなぁ」
「な、なんでそんな酷いことを言うんだい。当てて欲しいならもっと的確なヒントがないと分からないよ、ディオ」
「君ならヒントなんてなくても当ててくれるんじゃあないかって、期待をしてたんだけどな。ま、分からないならそれでもいいさ。それじゃあこのディオの一番の秘密を教えてやる。特別だぞ?誰にも言うなよな」
「はいはい、分かってるよ」

小指の大きさ程度になってしまったチョコレートの塊に、ディオはちゅっとキスをした。ぼくを見ながらそんなことをするものだから、なんだかあのチョコレートがぼくであるかのような気分になってしまって、耳の辺りが熱くなる。
そんなぼくをせせら笑うように、ディオは一口で残りのチョコレートを口の中に放り込んだ。

「信じられないかもしれないけれど、驚かないで聞いてくれ」
「う、うん」

こくり、と喉をうごめかせたディオは、さっきまでのニヤケ面が嘘のように真剣な顔になる。ぼくはつられて、生唾を飲んだ。これで何度目だ。
というかぼくは、隠し事がどうだだなんてどうせ、彼が暇つぶしをするための他愛もない話だろうと思っていたのである。しかしディオの顔は冗談みたいに真剣だ。すっと細まったアイスブルーの瞳は、君本当にディオなのかいってくらい真摯な雰囲気を湛えている。
重ねて生唾を飲み、ぼくは引き結ばれたディオの唇を注視した。端の方に引っ掛かったままのチョコが気になるところだが、今はそれよりもあの唇からどんな言葉が飛び出してくるのかってことの方が気になって仕方がない。それはぼくに受け止めきることの出来るものなのだろうか。

ほんのちょっとだけ開いたディオの唇が、喘ぐように戦慄いて、結局は閉ざされた。本当は言いたくないことを無理矢理言わされているかのようである。
勝手に隠し事を暴露しようとしているのは彼なのに、どうしたことはぼくは酷い罪悪感を感じてしまっている。戻れない場所へ行ってしまうかもれない恐怖をかなぐり捨てて、彼を抱き締めてやりたくなる程に。実際少し、椅子からお尻が浮いていた。

しかし彼は、再びチョコレートの引っ掛かった唇を持ち上げた。半開きになったそこからは赤い舌が覗いている。
ぼくはまた、生唾を飲んだ。
その生々しくも情けない音を掻き消すように、ディオは喉の奥から絞り出すような声で――

「――実はな、このディオ、生物学的には男ではなくて女なんだよ、ジョジョ」

――持ち上がりかけたお尻がすとーんと椅子に嵌ってしまう勢いで脱力をしてしまうような、とんでもない『隠し事』を発表したのだった。

「君が女の子、だって?」
「まさしく」
「…………」
「なんだその踏みつぶされた雑草でも見るような、哀れぶった目は」
「…………」
「もしやジョジョ、貴様信じていないのだな?このディオが恥を忍んで告白してやったというのに。なんたる不誠実な男」
「……いや信じるも何も、君は男だろう?」

確かにディオは、綺麗な顔をしている。だが男だ。
なるほどディオは、時たま同性からの愛の告白を受けている。だが男だ。
性別を曖昧に感じさせる雰囲気を纏っていることも尤もだ。だが男――いや、だから『だが』もなにもあったものではなく!彼は、男だ!ぼくの『おとうと』なのだ!

ぼくがディオを見る目はとても怪訝なものになっていることだろう。だって当のディオは呑気に寝返りを打っていて、口の端にはチョコが引っ付いたままで、なんというか、さっきまではあったはずの真剣みというものが全く消えてしまっている。
しかし冗談にしても雑すぎて、騙す気ならもっと色々あるだろうとか、むしろ本当に本当のことを言っているのではないのかとか、ディオの態度はあまりにどっちつかずなのである。
正直ぼくはまったく信じちゃいないのだが、もしかして、の可能性が捨てきれないところがなんともむず痒い。

「――その昔、このディオはそれはもう精巧なドールと見違えるほどに美しい少女だった」
「えっ、あ、そ、そうなのかい」

そういうことを恥ずかし気もなく言えてしまう辺りが、実にディオらしいとは思う。実際彼――いや彼女?が飛び抜けた美しさを今も保っているから、言って許されることであるような気がする。
ごろごろとベッドの上を行ったり来たりするディオは、やはり本気か冗談か分からない調子で、自らの来歴を語り出した。

「箸より重いものも持てない少女のままでいられたのは母が亡くなるまでで、それ以降のぼくはといえば生活費とその他諸々を稼ぐために馬車馬のように働いた。娯楽なんてものは何もない。生きてて楽しいことなんて何もなかった。ぼくの幸せは母と共に死んでしまったのだ。
ろくな食事も睡眠時間もなく働いて、精神の方はすっかりロンドンの街に迎合するように擦り減ってしまっていたのに、それでもぼくはあの街の誰よりも飛び抜けて美しかった。だからこの体が売り物になってしまったのも、自明の理であったのだな」
「ディオ……」

ディオは鼻から下をシーツに埋め、沈鬱に目を伏せた。ぼくの視線から逃れるように。豊満な睫毛の影が落ちた目元はあまりに儚い。

「君がアホ面で野を駆け巡っている間にも、ぼくは朝も昼もなく働いていたのだ。そうやって稼いだ金を自由に使えたことなんてなかった。
それでもぼくは生活の為に体を切り売りして、少しでも高く買って貰えるように身嗜みのことには病的に過敏になって、頭は益々おかしくなって、それでもぼくは美しかった。いっそのことこの顔が崩れてしまったら、こんなことをしなくてもいいのかなと思ったこともあったくらいさ。でもそれじゃあ、生活ができなくなるものな。顔をつぶすことなんて、できなかった。

まあそれでも、こんなぼくに同情したのかは知らないけれど、親切にしてくれる大人はいたし、それに趣味のチェスはずっと続けてて、ちょっとした大会で優勝したこともあったくらいで、正直生活はそれなりに潤っていたというか、こんな掃き溜めで一生を終えてなるものかとは思っていたけれど、別に楽しみが全くなかったわけではなかったというか――」

淡々としたディオの声が、不意に途切れる。ぎこちなくぼくの方に向けられた彼の顔には、「おや?」といわんばかりの表情が浮かんでいた。不思議そうにぱしぱしと瞬くたびに、金の睫毛が頼りなく揺れている。
ぼくはとりあえず、背もたれに深く凭れた。そして多大な脱力と共に、ディオの、よく回る口を見る。未だ口の端のチョコは健在である。

「――ディオ、設定、設定変わってる。最初らへんに「楽しいことは何もなかった」とか言ってたぞ」
「ああ、それか!ふふふ、ぬかったものだなぁ、このディオがー」

ぐてー、といった調子で、ディオは散々に転がりまわったシーツの上にへばりつく。うりうりと揺れながら収まりのいい位置を探しているのだろう金の頭を一発くらい叩いたところで罰などは当たらないのだろうが、それをするにはぼくの方もまさにぐてー、といった調子であって、ベッドまでの数歩を歩くのがひどく億劫だ。

「ディオ……そういう、妙に真実味があって、人を不安にさせる嘘は、ついてはいけないよ」
「不安になったのか?」
「そりゃあね。君が本当にそういう境遇にあったのだとしたら、ぼくは――上手くは言えないけれど、その、とても心が痛むことは確かだ。どうにもならない話ではあるけれど、そこから君を救ってやれなかったことを、悔やむくらいには」
「嘘だとは言ってないぞ」
「へ?」

ぐるり、とディオの体が反転する。久々に仰向けになった彼の服は、すっかり乱れてしまっていた。捲れあがったシャツの裾から見え隠れする引き締まった腹部は、病的に白かった。

「可能性の話だ、ジョジョ」

にんまりと引き上げられた唇は紅を引いたように赤い。それこそ少女めいている、と表現したっておかしくはない程に、彼という人が纏った肉体とその内の精神は性別というものを感じさせない。

「このディオが「そうやって」生きてきた可能性はゼロではないってことさ。ぼくは本当に体を売っていたのかもしれないし、引っ張り込んだ男の金だけを奪って逃げたりしていたのかもしれない。真面目にくそみたいな賃金で働かされていたって場合もあるな。実際の所なんて君には知りようがない。君はぼくの言い分への裏付けを持たないのだ。ぼくのことを、なにも知らない。ぼくを知っているのはぼくだけだ」

ディオの声は淡々としていた。反面、静かな怒りを湛えているようでもある。もしかすると彼は、ぼくが彼を知った気でいることに――誰よりも理解しているのだ、という風に思っていることに、腹を立てていたのかもしれない。
こうやって言われてしまえば、なるほどぼくはディオのことを何も知らないのだな、という気にもなってくる。けれど、そういう彼のこれまでの人生とかではなくて、彼が本当はどういう人なのかってことを一番に理解しているのは、やっぱりぼくなんじゃあないのかなという気がするのだ。自分でもちょっと傲慢だとは思うけれど。

「ま、それでも一つ、君がこの場で証明できることがあるわけだが」
「それは――」
「決まってるだろ?ぼくの性別さ」
「え!?ま、まだ続いてたのかい?その話!?」
「だって君、ぼくが男だって断言できるのか?一緒に着替えたことも、風呂に入ったこともない。君は服を着たぼくしか見たことがないだろう?」
「そんなのは屁理屈だっ」

ぎし、とスプリングを軋ませながら、ディオがベッドから降りてくる。そしてじっとぼくの目を見据えたままに、こちらへと足を踏み出した。
窓から差す光に照らされた金の髪が神々しい。けれど青白い肌には全く似合ってない。そっちはきっと、月に照らされた方が美しく輝くのだ。アンバランスな、男である。喉を鳴らしたぼくを、ディオは可憐に嘲笑した。

「ジョジョ、君いやに否定をしたがるな。ぼくが女だと何か、都合の悪いことでも?」
「ぼくからしてみれば、君の頭がおかしくなったようにしか見えないよ。だって君はどう見たって……どう見たって……」
「君にはぼくが、どう見えている?」
「君は――とても、綺麗だ」
「そうか。君には、そう見えているのだな」

どう見たって、男だ。男であるはずだ。用意した答えはぼくの喉から出ていこうとしてくれない。
否定をしなければ。早く、彼が男であることを証明しなければ。
彼がまかり間違って本当に女であったなら、ぼくは言い訳を失ってしまうのだ。彼はぼくと同じ男だから、彼に抱く劣情の塊のようで恋慕でもある執着が成就するはずがない。だから、抱きしめるのを我慢しているのだって。
だってこのディオという人を抱き締めてしまったら、きっとぼくは今までのぼくではなくなってしまう。頭が溶けて、ディオしか見えない、ディオにどこまでも溺れてしまう、不健全な男になってしまう。そういう確信めいた予感がある。

なのに、言えない。君はどう見たって男だろう、の一言が。
彼が本当に女性であることを、ぼくの気持ちを受け入れてくれる余地があるのだってことを、浅ましくも期待して。

「ジョジョ」

椅子に深く腰掛けたぼくの上に、ディオはそっと跨った。両肩に手をついて、そっと体重をかけてくる。反射的に、ぼくは彼の腰を支えていた。ぼくを見下ろすディオは艶然と笑っている。
――悪魔だ。ここにぼくを不道徳の道へ引き込もうとする悪魔がいる。

「……君は何がしたいんだい?ぼくをからかいたいだけなら、いい加減よしてくれ。度が過ぎているぞ、ディオ」
「誘っているんだよ、お坊ちゃん」
「ぼくらは、恋人同士なんかじゃあない」
「ああ知ってる。でもな、ジョジョ」

生白い彼の掌が、ひたりと頬に張り付いた。冷たい。ひどく、冷えている。

「ジョジョにはディオが必要だ」

そう断言をした唇は毒々しく赤くって、端にはやっぱり、チョコの残滓がこびり付いている。

「――ディオにジョジョは、必要ではないのかい」

ぼくが反射的に零した一言に、ディオが笑って、嗤って、わらって、ちょっとだけ、泣きそうになっている。垂れ下がった目尻の淵も赤い。けれど唇の色のような毒々しさはなく、ひたすらに可憐で、いじらしい色だった。

「ぼくを抱いてみれば、分かるさ」
「それは――きっと、いけないことだ。だってぼくらは恋人などではなくて、義理とはいえど、きょうだいで、」
「ジョジョ、愛に躊躇なんていらない、必要ない。男だろうが女だろうがぼくはぼくだ。これが君の愛したディオだ。悪いことになどなりやしないさ。ちょっと頭が溶けてるくらいの方が健全なんだぜ。君は真面目すぎるんだ」
「ディオ――っ」

彼の唇が降ってきたのが先が、ぼくがそこへと自分のそれを押し当てたのかが先かは分からなかった。触れ合った瞬間に色んな感慨が押し寄せて、ぼくらの境目が分からなくなってしまうくらいに滅茶苦茶にキスをした。
両手の指の間を滑ってゆく金髪の感触が、心地よかった。
ぼくの後頭部を拘束するディオの掌が、愛おしかった。
ディオとの初めてのキスは、甘いチョコレートの味がした。

「っ……愛っ!ぼくは君を、愛しているのか!?君も――君も、ぼくのことを!?」
「本当になにも知らないのだなぁ、お前という奴は!そして学習能力がないッ!ぼくを抱いてみれば分かるって、つい1分ほど前に言ったばかりだぞ、このディオは!」

ぼくはディオを、抱きしめた。これ以上ないくらいぎゅっと、果てしなくぎゅううっと抱きしめて、彼という人の全てを手に入れたような幻想に、なんだかとても、泣きたくなった。

「ほら、いつまでも猿みたいに抱きついてないで早く脱がせてみろよ、ジョジョ。そうすればちょっとくらいはぼくのことが分かるはずだ。差し当たっては、性別とか」
「……そこら辺のことも、事前に教えておいてはくれないのかい」
「脱がせてからのお楽しみって奴だぜ、ジョジョ」

恐る恐る釦を外したシャツの下には果たして――白い白い、真っ平らな胸が呼吸の音に合わせるよう、緩やかに上下していたのだった。
中心、から少しばかり左の方を狙って、掌を押し付ける。女性特有の丸みがなければ柔らかさもない彼の胸部は、しなやかな筋肉を纏っている。滑らかな白い肌は確かに美しくはあるものの、ぼくがたった今触れているそこはどうしようもなく『男性の胸部』であるのだった。

ディオが試すような笑みを浮かべ、ぼくを見下ろしている。すかさずぼくは、吊り上った唇に噛み付いた。驚愕を示すように真ん丸になった青い瞳が、愛おしかった。

男だ女だなんて、そんな些細なことは初めからどうでもよかったのだ。ぼくはこのディオという人に焦がれていて、手放したくはない。ああそうだ、そうなのだとも。ジョジョにはディオが、必要なのだ。ディオという『少年』が、ジョジョを必要としてくれているように。
――きっとそれだけの気持ちがあれば、ぼくたちどれだけでも彼と幸せになれるのではないかって。
溶けかかっている頭の中は、そんな願望染みた妄想でいっぱいになっていた。






知った風にぼくを語るな!みたいな主張をするついでにぼくが男でも大丈夫か?なんてことを試してみるディオさまの図。ちょっといじらし風味のディオさまもたまにはいいですよね!


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