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生温い狂乱

「ん……んん……」
引き忘れたカーテンの隙間から、淡い月の光が差し込んでいる。けれど慎ましいその光はほんのりと窓辺を照らすだけで、部屋の大半は硬質な薄闇に支配されているのだった。

それにしても不可解な目覚めである。日の出を待たずに目覚めてしまうこと自体が滅多にないことであったし、中途半端な眠りではどうにも疲れが取れていないようで、こめかみの辺りが妙に重い。そして布団の中が、心地よい温もりを通り越して居心地の悪さを感じるほどに暑くなっている。
思わず布団を蹴り上げた。するとその拍子に、

「うおっ!?」
「っ!?」

どこからかやってきた悲鳴を聴覚が拾い上げ、同時に電流の走るような衝撃、あるいは快感を、やたらに鋭敏になっている触覚が拾い上げたのだった。

一息に目が覚めた。
事態の把握なんてものは全くできていなかったが、布団の中で異変が起こっていることは明らかだった。
半分捲れた布団を持ち上げて、中を覗く。そこは薄暗いながらも月光の差す部屋の様子とは比べ物にならないくらい、濃い暗闇に満ちた世界だった。しかしその中心で――ぼくの丁度足と足の間に蹲るその存在は、暗闇の中でもひめやかに輝く金髪を持つ人物であったので。

「……ディオ……君そんなところで一体、なにを……」

反射的にその名が口を衝いていて、もう呆れるしかない光景に、とめどなく溜息は漏れてゆくのだった。
「見て分からんのか。ジョジョは阿呆だな」
「いや、君が何をしているのかは分かる……ただ信じたくないだけで……ああ……あー……いくらなんでも君、そこまでする……?」
「いつまでたっても折れんお前が悪いのだろうが。口で言ってもどうにもならんのなら、あとはもう強行突破しかないじゃあないか」
「いや……だから君は、なにをそう意地になって……ぁ、っ、ちょ、ちょっと、まだ話は終わってないぞ、ディオっ」
「話なんてできるのか?」
「っ、ふぅ、ん、ん……!」
「こんな、馬鹿みたいにでかくして」
「あっ……」
先走りを垂らすぼくの陰茎を、ディオは下から上へ、愛おしげに舐め上げた。君は人のベッドに侵入して何をしてるんだ、とか言いたいことは沢山あるはずなのに、いよいよ先端を頬張りだしたディオを見ていると情けない息ばかりが漏れてしまって、文句の一つも言えやしない。
ぼくは――本当に、自分でも情けないというか、こんなものは紳士たるものが抱いていい感情ではないとは、分かっているのだが。しかしどんなシーンでも取り澄ました雰囲気を崩さないこのディオの、口淫に耽るときにだけ見せてくれる下品に崩れた表情にどうしようもなく、心が惹かれて仕方がないのだった。
「ん……ふぅ、ん、は……」
今だってそうだ。陰茎にむしゃぶりついて頭を上下させるディオには品性の欠片も残っちゃいないのに、そんな顔を晒してまでぼくに奉仕してくれている彼をともすれば、愛しいとすら感じてしまっている。こうして不道徳な行為に浸っている間だけなのだ。ぼくがディオに、そうした思いを抱いてしまうのは。
あまりに不誠実な感情だった。普段からどこか信用が置けない、とすら思っている相手に対し、自分を気持ちよくさせてくれている間だけは愛情めいたものを抱いてしまうなんて、あまりに現金で誠意がない。
「はふ、ん……ふふ、出そうになったら言うんだぜ、ジョジョォ……いきなり口に出されちゃあ、咽てしまうからな」
「ディオ……」

――時間と行為を重ねるごとにディオに纏わる感情の諸々は重量を増し、ぼくはただただ煩悶するしかない。

とっくに、ディオの体に溺れて仕方がないという時期は終わっていた。もう何年もこんな関係を続けている。その分精神的な方面でのぼくにとってのディオ、というものを考えるようになって、その結果、この先も彼と良好な関係を築いていきたいと思うのなら早くこんなことはやめるべきであるのだと、そう結論付けたのだ。

元々、そう心を許し合った間柄であったというわけではなかった。それでも友人としての彼はとても誇れる男であり、尊敬もしている。だからぼくは、彼との爛れた関係を一旦終わりにして、元通りの親友に――きっとお互い信用し合っちゃいないのだろうけど、それでも穏やかな日々を過ごせる親友同士に戻りたいと思うのだ。そうあることが自然な形であって、互いの幸せにも繋がるのだろうとも。

だからディオを拒絶した。このひと月ばかりの話である。キスを仕掛けられても顔を背け、挑発的に肌蹴られたシャツのボタンをせっせと閉じた。
まだぼくの中にもあの白い肌に触れたいという気持ちは存在していたが、ここで欲望に負けてしまっては決して紳士になどなれやしないと、強迫観念染みた思いがぼくを留まらせてくれるのだった。

『……おいジョジョォ。お前まさかその年で、枯れてしまいましたーとか言うんじゃあないだろうなぁ?』
『そ、そんなわけないだろう!ぼくはまだ20にもなっていない!』
『なら貴様はどういう料簡でこのディオを拒絶するというのだ!不能になったのなら勘弁してやらないこともないが、そうでないならさっさと服を脱げ!いいや、脱ぐのを待つのもまだるっこしい!脱がしてやるからそこに横たわるのだ、ジョジョォォ!』
『ひぃぃ何をするんだディオォォ!!』

頭の片隅ではどうしてこうも、ディオはぼくとの行為に固執をするのだろうかと、疑問に思いながら。
それでもぼくもぼくで必死であったので、ディオの事情を慮る余裕などはなく、時には殴り合いになりつつもなんとかディオを躱してきたわけである。

けれどまさか、ディオがこのような強硬手段にでようとは夢にも思っていなかった。
なんだろう。本当にどうして、彼はぼくとの関係を持ちたがるのだろうか。
ディオがぼくに愛を囁いたことはなかったし、そういう気配を感じたことすらない。ただディオのプライドというものは、コケにされたようで悔しいとかいった理由でこんな真似をするような、安いものではないように思うのだ。だからなにか彼なりの理由がある気がしてならなのだが、見当などは全く付きやしなかった。

「あっ」
「どこに意識を飛ばしているんだ。ちゃんと見てろよ、ジョジョ。このディオがしゃぶってやってるってのに」
「う……こんなに酷い目の毒もないよ、ディオ……」
嚢を揉みしだく指先にちょっとばかり暴力的な力を加えながら、ディオは先走りの吹き出す先端を甘噛みした。白皙の美貌は相変わらずいやらしく歪んでいる。うっとりと細まった青い瞳は口淫の出来栄えを誇るように勃起した陰茎を見つめていて、やはりぼくはそんな彼の淫猥な姿を、愛おしいと感じてしまうのだ。
甘ったるい感情の到来を、首を振って拒絶した。このまま流されてしまってはいけない。いつまでたってもディオとの曖昧な関係に決着がつけられなくなってしまう。
重くなってしまった腕を持ち上げた。そして、柔らかなディオの頬を両掌で包み込む。時折慈しむように陰茎に頬ずりをしていたそこはぬるりと濡れていて、なんだか無性にやるせない。
「……ここまで来て、やめろだとか。下らないことを言うつもりじゃあないだろうな」
「その通りだ、ディオ。もうやめよう、こんなことは」
「どうするんだ、これ」
「自分で処理するよ」
むう、とディオの口が尖ってゆく。怒っているというより、拗ねているような表情だ。意外な反応に、思わず肩の力が抜けてしまう。拳の一発くらいは覚悟していたのに、というか、もう長く付き合っているはずなのに、ディオのこんな顔を見るのは初めてだ。頼りないというか、隙だらけだというか――どうしたことだ。なんだか胸が、おかしなざわめきに高鳴っている。
「その――ぼくらもそろそろ、子供というには無理のある年齢になってしまっただろう。今まではぼくも未熟な子供で、なんというか、君とするのは気持ちよかったから、離れがたいまま曖昧に君との関係を持ち続けてきた。でもやっぱりこういうことって、本当なら想い合う人たちがすることじゃないか。ましてやぼくらは義理とはいえ兄弟だ。だからディオ、いい加減ぼくたちは、」
「……」
「ひぃっ!?」
鋭い刺激が体中を駆けてゆく。ディオが口元の陰茎を、甘噛みと呼ぶにはあまりにも無慈悲な力で噛んだのだった。こんなものは暴力である、間違っても愛撫などではない。
だというのに。
激しい熱の通り過ぎた下半身が酷く重い。難しげに顰められた彼のかんばせへと勢いよく撒き散らされた白濁は、一体なにがどうあって、そこへと飛び出していったのだろう。
「あ、いや、いや、これはそのっ!すまない、ディオ!」

――これではまるで、痛めつけられて悦ぶ変態ではないか!

頭の中が真っ白になった。確かにこれまでディオの顔に白濁をかけたことがないとは言わないが、意図せぬ形で迎えた絶頂はショックだったし、何よりもこの関係をやめようと諭している最中だというのに、ぼくはなんてどうしようもないことを。
「……」
「ディオ……そんなもの、舐めちゃあいけないよ……」
尚もしかめっ面を張り付けたままに、ディオはその顔にぶちまけられた白濁を指先で掬い上げ、迷うことなく口の中へと運んでゆく。これまで散々彼に搾り取られておいて何を今更とは思えども、自己嫌悪と罪悪感は深まってゆくばかりである。
「おいジョジョ、口を開けろ」
「へ?どうしてうぐぅ!?」
「ちゃんと味わえよ。自分の出したものだろう」
「ひ……酷いことをするじゃあないか……」
その進路を阻む隙なくぼくの口に突き込まれたディオの指先には、彼が先程舐めとったものと同じ、ぼくの出した白濁が絡みついていた。図らずとも自分の味というものを知ってしまい、ちょっとした絶望感に襲われる。いつの間にぼくは、とんでもなく爛れた男になってしまっているのではないだろうかと。
感想?そんなの不味いに決まっている。
「素晴らしく不味いだろう。本当にもう最悪だよな、匂いといい味といい。でもな、ジョジョ。大変困ったことに、ぼくは…………」
「……どうしたんだい?なにか、言い辛いことでも……」
「…………だ……」
「ディオ……?」
尚も布団の中に潜ったままのディオが顔を伏せ、全く表情が見えなくなってしまう。それに声は今にも消え入りそうで、おまけになんだか言葉尻が震えている。
――ここにいる彼は本当に、ぼくの知るディオなのだろうか。
足元の揺らぐような不安が胸を刺し、ぼくは慌ててディオを布団の中から引き上げた。大した抵抗もなくぼくの腕の中に収まった体は熱く、白磁の肌は淡い薔薇色に染まっている。よくよく見てみれば彼は薄いシャツ一枚を肩に引っ掛けただけの格好で、他には何も着ていない。ちら、と視線を落としてみれば、引き締まった臀部が裾の端から覗いていた。慌てて布団を手繰り寄せ、しっかりと彼の上に被せてやる。

「ジョジョ……ジョジョォ!」

その途端に、ぐわっとディオの首が上を向いた。真っ赤に染まり、白濁のおまけつきの顰め面。色味の深まった目尻になにか、薄闇の中に光る透明な雫が――
「え……?き、君、泣いてっ」
「ぼくは、ぼくはっ、こんなものを心底おいしいと感じるようになってしまったんだ!さっきもうっかり、なんで顔なんだ口じゃあないんだって、そりゃもう残念な気分になってしまったんだぞ、ジョジョのアホ!!」
「へ、ええ、え、え……!?」
「なのに、お前ときたら!お前ときたらー!」
「分からない!君の言わんとしていることが全く分からないぞ、ディオ!!そ、そして苦しい!」
ディオに掴み上げられた胸元で息が詰まっている、つまり大変に息苦しい。難儀して何とか彼を引き剥がすも、未だに白濁を引っ掛けたままのかんばせは恨みがましくぼくを睨みつけていて、心情的な圧迫感は全く緩和されないままなのであった。
今夜のディオは、明らかにおかしい。仕掛けてきた行為はもちろん、まるで迷子のような頼りない表情や、目尻に涙すら浮かべて喚いてみせる姿はあまりに普段の彼から逸脱してしまっている。
「何が分からないって!?ぼくはそんなに難しいことを言っているのか!?ぼくはただ、ぼくを抱けって言っているだけじゃあないか!今日だけではないぞ、お前が急にぼくを拒絶しだしてからずっとだ!ずっと、それしか言っていない!」
「分かった、分かったから落ち着くんだ、ディオ!今の君は全く君らしくない!きっと朝になったら、後悔するぞ!」
「ぼくらしくないなんて、そんなの……そんなのも、ずっとだ」
「ディオ……?」
青い双眸が、今にも大粒の涙を零さんばかりに切なげに細まっている。しかしそこが決壊してしまう前に、ディオはぼくの胸元に顔を埋めてしまったので、彼の泣き顔というものを見ることはできないのだった。
胸元がじんわりと熱くなってゆく。丁度彼の目が押し当てられている辺りである。声もなく泣いているのだろう。焦燥感に駆られるまま、ぼくは彼を抱きしめた。

一体なんなのだろう、この気持ちは。ディオを愛おしいと、泣いて欲しくはないと思う、まるで愛情のような感情は。
昔一度、ディオをひどく泣かせてしまったことがあった。その時は全く申し訳ないなんて思わなかったし、泣いたからどうだというのだと、そんなことすら思ったよう気がする。

そりゃあ、あの時とは全く状況は違うけれど――しかしぼくのディオに対する感情の根本は、きっとあの頃から何にも変わっていないのだ。冷たくて、酷いことばかりをする男の子。到底信用することはできないと、そんな印象が。
なのに何故、どうしてだ。どうしてぼくは、この胸の中にいる彼を抱き締めずにはいられないのだ。
ぼくの中の何かが、変わってしまったとでもいうのだろうか?――それとも彼が?

「別にお前が好きだったから寝てみようとか、まったくそういうことじゃあなかった。単純に、女を抱いたこともないお前の初めてを奪ってやろうって、最初の動機はその程度のもので――それからは馬鹿みたいにセックスに嵌ってゆくお前を見ているのが、楽しかったからとか、本当に、それだけの話だった。お前に固執しなければならない理由なんて、どこにもない。ぼくは決して、そういう意味でお前を好いてなんか、いない。なのにどうしてだ。お前がぼくを求めてこなくなったというだけなのに、どうしてこんな……ジョジョのくせに、と思う前にぼくは、どうしてそれが、さ、さみしい、なんて」
「――ディオ」
「な……なんだよ。こんな顔、見るなよな……」

彼の後ろ髪を引いて、顔をこちらへ向けさせる。すんなりとぼくを見上げてくれた彼の顔は、白濁に涙にと、それはもう酷い有様になっていた。やっぱり彼はぼくのよく知るディオではなかったが、間違いなく、ぼくが追い詰めてしまったディオであった。
頭の中がぐしゃぐしゃになって、顔もこんなに汚してしまって。それでもぼくに縋りつく手を離そうとしない彼が、愛しかった今ははっきりそう言える。『ぼくはディオが、愛おしい』。
異常だった。全く健全な感情ではないのだ、こんなものは。
彼への感情は元々そうであって、だからこそぼくは彼との関係を終わらせてしまおうと試みたわけだけれど、その結果何故、悪化する羽目になるのだろう。だっていつの間にか不道徳への後ろめたさよりも、彼への愛しさが上回ってしまっている。少なくとも今ここにいるぼくの中には、彼を突き放す選択肢なんて存在しない。
「もしかすると、君、ぼくのことが好きなんじゃあないのかな」
「何を言っているんだ、お前は」
「ぼくは君が好きだよ」
「そんなの嘘だ。ぼくがお前のことを、知らないとでも思っているのか」
「そうだね、君はいつも、ぼくの傍にいたものね。けれどきっと、今ここにいるぼくは君の知るぼくではないんだ。今の君が、ぼくの初めて見る君であるように」
「なんなんだ……何が言いたいんだよ、お前……」
「好きだって言ってくれ」
「ジョジョ、」
「その言葉さえあれば、なんというか、君との関係のいくらかが許されるような気がしてね、都合のいい話だけれど。でも、口先だけでもいいんだ。君がぼくを好いてくれていて、ぼくも君を好いているって事実があって、ようやくぼくは――君を抱くことが、できるのだと思う」
「……面倒なことを考える男だな。セックスにそんな、たいそれた意味なんてあるわけがないのに。お前は何でも真面目に考えすぎるんだ。本当に、まぬけな奴」
いつの間にか、月の光はその背をぐんと伸ばしているようだった。窓辺を照らすだけだった月光が、今はディオの瞳を美しく輝かせている。
再び彼の頬に掌を押し当てて、潤む瞳を覗きこんだ。彼の瞳にぼくがいる。粘っこいディオへの情念に染まったぼくだけが、月光に煌めく瞳に映っているのだ。
「ディオ、」
「……すきだ」
「うん――ディオ、」

「ジョジョ、好きだ、ジョジョ――すき、」




「ディオ、もう少しお尻、上げれるかい?」
「……こう、でいいのか?」
「ああ……うん、そんな感じ。ありがとう」
ベッドヘッドに寄りかかるぼくの上に、ぺたりとディオが座っている。触れ合った皮膚の温もりは離れがたいものであったが、これではいまいち彼の中を解す指を動かし辛かったので、少しばかりお尻を上げるように頼んでみた。驚くほど従順に頷いた彼の白い臀部が、躊躇いなく上がってゆく。その間も彼は縋りつくようにぼくの首へ両腕を回し、首筋に顔を埋めたまま離れようとはしなかった。
ほっこりとした気分がぼくの中を満たしてゆく。誤魔化すことをやめたディオへの愛しさが際限なく膨らんで、もう言葉では追い付かない。だからその代わりに精一杯、彼の中へと侵入した指先で、ひくつく内壁を愛撫した。
「あ……あ、ぁ……うぅ、ん……」
「痛くない?増やしても大丈夫?」
「……」
「いてっ」
星の痣がある辺りを、緩慢な痛みが走ってゆく。どちらかといえばむず痒いその刺激はきっと、ディオの甘噛みによるものだろう。
「……いちいち聞くんじゃあないぜ、そんなこと。初めてするわけでもあるまいに」
「はは……確かにそうだね。ごめんよ、久々だからちょっと、緊張してるみたい」
「根性なし」
「だから、ごめんよって」
「んっ……はぁ、ぁっ、ん、ふ……」
ぼくの指を食まされた白い臀部はもどかしげに揺れていて、指の数を増やすたびに、より奥の方を引っ掻くたびに、揺れ幅は大胆になってゆくのだった。
もう何度も生唾を飲んでいる。そんなぼくをディオが揶揄してこないのは、彼も彼で余裕を失くしてしまっているからなのだろう。鼓膜に叩きつけられる押し殺しきれない嬌声は、非常に切羽詰まっているように聞こえる。指でこれなのだ。陰茎を食まされてしまったなら、一体彼はどうなってしまうのだろうか。
そんなことを考えているだけで、下半身に熱が集まってゆく。ぼくはすっかりどうしようもない男になっているのかもしれない。けれど何故か、彼とこんなことをしている時だけは。そんな男になってしまっても、許されるような気がしている。
「あっ、あ、ぁ、う……うぅ……」
「もう……大丈夫かな」
「ん、ふふ……大丈夫、じゃあないのは……お前だろ……?」
「ぅわっ」
不意にぼくの首元から剥がれて行ったディオの指先が、反応を見せ始めている陰茎を撫で上げた。怠惰に頭を持ち上げたディオはぼくの情けない表情を発見し、満足げに笑んでみせたのだった。

「ジョジョ――もういい。だから、早く」

尚も弧を描く唇で、ディオがぼくを誘っている。目と鼻の先ではあはあと、熱く荒い息を吐きながら。淫らで、下品で、だらしがない。しかしぼくにはそんなディオを詰る資格などありはしないのだ。彼の瞳に映るぼくだって、負けず劣らず酷い顔をしているのだから。
「うん、それじゃあ……」
「ん……」
ディオを抱えたままにシーツの上に転がって、そして彼を組み敷いた。ついさっきまでベッドヘッドに守られていた背中が、部屋に立ち込める寒気に肌寒さを訴えている。ベッドの縁に押しやられた羽毛布団が目に入ったので、引き寄せて、背中からかぶってみる。よし、暖かい。
「……なんだかこうしていると、この世にぼくとお前しかいなくなったような気分になるな」
「へ?……ああ、ふふ、確かに」
背に回ったディオの腕が蠢いて、おざなりに羽織っただけだった布団をぼくの頭の上まで引き上げた。暗い布団の中には月光などは届かない。彼の瞳の色も分からなくなるような暗闇の中に、ぼくと彼だけが息をしている。狭くて息苦しい、2人だけの世界だった。
キスをする。触れ合った口先からじわ、と幸福が滲みだし、ぼくの涙腺を緩ませに掛かってくる。
しかし舌先が絡まり合う頃にはそんな感慨に浸る余裕などなくなって、ぼくはただ欲望のままに、ディオの体内へ陰茎を突き入れた。
「っ、――、は、っ、っ、……~~!!」
そして彼の口を解放する時間すらも惜しみ、ひたすらに内壁へと欲望を擦り付けた。
時折がちがちと歯が当たり、唇が切れている感覚すらある。背中には彼の爪が立っていた。痛みの1つ1つすら愛おしいなんて、ああ駄目だ、このぼくは本当に愚か者で、紳士などには程遠い。
それでもぼくは、この堕落に歯止めをかけることができないのだ。だって、ディオがいる。同じところまで落ちようとしている。

愛しい人と沈む暗闇の、居心地の良さと言ったらそれはもう、もう、このまま死んでしまっても構わないような――

「あぁ、ァっ、あうぅ、んっ、アっ、あっ」
いつの間にか、唇同士は離れていた。折り重なるように縺れ合いながら、それでも快感を追い求める動きだけは止まらない。
「あああっ、あっ、ジョジョぉ、そこ……」
「ああ、分かってるよ……ここだよね?」
「ひぃっ、あぅ、アっ、あああ、あ、ひっ」
「ディオ――ディオっ……!」
「もっと、もっとそこっ、ひぐっ、ぁっ、いっ、イイぃ、じょじょぉ、ぁ、あっ、ああ」
そのうちディオの腕はぼくの背から滑り落ちてゆき、力なくシーツの上へと投げ出された。もう力など入らないのだろう。その指先はシーツを掴むことすらなく、律動につられるように頼りなく揺れている。
月光の当たる範囲へ飛び出した掌に、ぼくは自分のそれを重ねてみる。そしてそうあることが自然であるかのように、5指と5指が絡まり合う。果てのない充足感が体中を駆け廻る。そろそろぼくは爆発をしてしまうのではないのかと、頭を過って行った生温い不安に思わず苦笑した。幸せな、話である。

「……すきだよ、ディオ。あいしてる」

そう囁きかけた瞬間に、熱く蕩けた彼の後孔がきゅっとぼくを締め上げた。思わず顔を上げると、そこには記憶にあるよりもずっと、泣き濡れたディオがいた。酷い顔だ。本当に酷い、みっともない。そう思えば思うだけ、彼への愛しさが膨れ上がって仕方がない。酷い、話である。
「もう、だめだ、も、もう、ほんとうに、おかしくなる」
「大丈夫だよ、ディオ。たぶんぼくも、とっくにおかしくなっているから」
「ん……」
「はは……なんだか正気に戻るのがちょっと、怖いね」
自分が異常である、と感じる程度には正気である。しかし彼を求める気持ちは止まることなく、そんな自分に羞恥を感じ、妙な身の置き所のなさに体温はどんどん上がってしまうのだった。
誤魔化すように、律動を再開した。ディオの熱い体が跳ねる。ぴんと張った爪先が、とうとう布団を蹴り飛ばしてしまう。汗に濡れた彼の体が、月光の下に晒された。白い光を浴びる彼はやはり酷い顔をしているというのに、それでもぼくの目にはこの世に於いて何よりも、美しい存在として映るのだ。
「っ、はぁ、ぁ……ぅんっ、ぁ、アぁっ」
「はぁ、ん……きもちいいね……ディオ……」
こくこく、と必死に首を振る彼が愛しかった。新しい涙が零れ、彼の頬を濡らしてゆく。思わず、目尻にキスをした。しょっぱい、涙の味がする。決しておいしいものではないはずなのに、舌先から不思議な甘味が広がってゆく。ぼくの精液をおいしいと感じてしまう彼と、同じ状態になっているのだろうか。
「ああぁ!!やっ、やらぁ、ジョジョっ、そ、そんなところ、ばかり……」
「……もう限界?」
「ああ、ああっ、もうだめだっ、もう、いく……!」
半狂乱になった彼の、痛々しい程に張りつめた欲望が、ぼくの腹筋へとひっきりなしに擦り付けられている。あまりに卑猥な光景だった。あのディオがこんなに情けない真似をしているのだと思えば、割増しでぼくの熱は上がってゆく。

「っく、ディオっ……!ぼくも、もう限界だ、ディオっ、出すよ、ディオ!」
「中がいいっ、中じゃないと嫌だっ、ぁひっ、や、あ、じょじょっ、じょじょぉ――!!」

ずっぽりと陰茎を咥え込んだその箇所が、狂ったようにぼくを締め上げた。
搾り取られるように迎えた絶頂に、頭が馬鹿になってしまったようだった。本格的にイかれてしまったかのように彼の名だけを呼びながら、尚も下半身の動きを止めることができないのだ。

酷い水音に、すすり泣くような彼の嬌声。後孔から濃い白濁を溢れさせる彼は、泣きながらに笑っていた。

やはりそれは涙でぐしゃぐしゃになった、酷い顔であったはずなのに。
どうしたことか、一際眩くなった月光に照らされたその顔が妙に神聖なものに見えてしまって、ぼくは罪の許しを得る罪人のように、彼からのキスを求めたのだった。

そこで記憶は途切れている。




翌朝の目覚めはとんでもない倦怠感を伴ったものだった。一旦狂乱が去ってしまえば気分もいくらか冷めるもので、昨晩確かにここにあった不道徳な幸福に、おぞましさすら感じてしまう。
いや――彼に囁いた愛情は、少なくともあのぼくにとっては本物だったはずであったし。彼が唇を震わせながら呟いた「すき」という一言を思い出せば、一晩経った今でも頬が赤く染まるばかりではあるけれど。
なんだか本格的にぼくと彼の関係は切れなくなってしまったようで、ちょっとばかり肩が重くなった。なんというか、ディオという存在はぼくにとって重すぎるのだ。こんなにぼくを煩悶させる存在になど彼のほかに出会ったことがなく――そして困ったことに、彼に心を乱されることを悪くはないと、正気に戻った今になっても思ってしまっている。

ぼくと彼はどうなってしまうのだろう。
離れがたいと繋がったまま、一体どこへと辿り着くのだろうか。到達点などは、存在するのだろうか――

隣で眠るディオを見た。穏やかな寝顔に昨晩の酷い淫乱の面影はなく、憔悴した雰囲気がいじらしくて可愛らしい。そうだ、可愛いと、思うのだ。昨晩以前にはなかった感情だ。性行から離れたところになっても、彼に好意めいた感情を覚えてしまうなんて。
昨晩でぼくの中の何かが変わってしまった。ディオに変えられてしまった。ちょっとばかり悔しくなって、滑らかなディオの頬へ指を這わす。そして微かに躊躇はあったものの、結局えいやとその頬を引っ張ってみた。

「んー……な、なにをするぅー……」

むずがるように金髪が揺れる。面白くなってもう片方の頬も引っ張ってみれば、さすがに彼も目を覚まし、ぼんやりとした目でぼくを見上げたのだった。
「お、おはよう、ディオ」
「……うわぁぁぁ……」
「ディオ?」
覚悟していた罵倒は飛んでこない。それどころか深く苦悩するように眉を寄せ、昨日の再現をするようにその目を潤ませてしまっている。
「ゆ……夢じゃあなかった……うわぁぁぁ……」
「あ、あー……」
「くそ……お前などに、このディオがぁぁ……」
「そ、そこまで悔しがらなくても。いいや気持ちは分かるけれど、ぼくだって傷つくぞ」
「うるさい!大体お前が下らないことを考えて、ぼくを邪険にしたのがいけないのだ!そのせいで、そのせいでぼくはお前なんかにあんなこと……」
ぼくの手を振り払ったディオは、そのまましおしおと布団の中にもぐってゆく。ぴょんと跳ねた金髪の一房だけが隙間から覗いていた。
「……なあディオ。どうやらぼくは、正気に返った今になっても君のことが好きなままみたいなんだけれど」
「……そんなの気のせいに決まってる」
「そうなのかなぁ」
「そうだとも」

きっと、そんなわけはないのだろうけど。

しかしこれ以上入り組んだことを考えるのは嫌だったので、ぼくは思考を放棄して、ディオの籠る布団に侵入した。途端に白い脚が、ぼくを追い出しに掛かってくる。応戦すべくこちらも足を繰り出すと、今度は肘が飛んできて、いつの間にか泥仕合である。
居心地の良い日常だった。難しいことなんて、考える必要などない。きっとなるようになるのだろう。というかもう、なるようにしかならない気がしている。








切っても切れないジョナディオが好きです


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