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2

つい数ヶ月前まで押し込まれていたどこぞの財団とやらの研究所では、改めて口にするのも腹立たしい実験の数々に付き合わされてきたものだった。そんな場所からわたしを引っ張り上げたのが他でもない、わたしを粉微塵にしやがったあの男、空条承太郎だったのだというどうしようもない現実に、腸はマグマの如く煮えくり返ったものである。
屈辱だ。とんでもない、屈辱だった。他にどのような言葉で、この身を置かざるを得なくなった環境への感想を述べればよかったというのだ。
しかし、果てがないように思われた屈辱はいつしか髪を焦がす程度の不快感へと少々薄れ、気付いた時には不快だ、承太郎という男の何もかもが不快なのだ、と思うことさえも忘れてしまい、わたしは、狭いマンションの一室での生活に順応をしてしまっていた。わたしの寝室に取りつけられた、外側からしか開閉の出来ない鍵は、いつしか閉められることも開けられることもなくなった。ドアをあけっぱなしにしたまま就寝することもままあった。リビングで喉元と腹を晒して転寝をした回数などは、もはや数えきれたものではない。
承太郎との生活に馴染んでゆく己に、しかもどうにも平坦でならない毎日を楽しんでしまっていることに気付いた瞬間には、忘れかけていた屈辱感がぶり返したものだった。出ようと思えば出られたのに、愚直にも承太郎の帰りを首を長くして待つ生活などは、あの男に支配をされていることと同義である。
しかし、まあそれでもいいか、しばらくは、と思ってしまったのだ。このDIOが。このDIOが。
そんなちっともわたしらしくないことを考えながら、わたしは風呂へと向かい、上がった頃にはつまらない屈辱にほんの数秒、煩悶していたことすらも忘れていた。冷凍庫のアイスが切れていたのだ。だから承太郎と言い合いになって、いや、言い合いと呼ぶにはあまりに他愛ない会話であったのだが、気付けばあれと買い物に出る羽目にもなっていて、あいつが買ってくればいいのに、このDIOの為に足を動かすべきであるのにと思いながらも、わたしはせっせと髪を乾かした。
思うに承太郎と過ごす時間というものは、わたしの人生の尺度に照らし合わせれば、ほんの少し昼寝をするだけというだけの、一瞬ばかりの時間でしかない。だから許容ができたのだろうと思う。ほんの一時ベッドで横になるだけの時間、わたしが承太郎という男に飽きるまでは少しだけ、足を止めてやってもいい、思い返しては忘れる屈辱に甘んじる生活に身を置いてやってもいい――少しでも長くわたしを閉じ込めておきたいのなら、精々わたしを飽きさせないことだ、承太郎、承太郎よ――そんな言い訳ばかりを繰り返す、生温くも平和で、なにやら心が安らぐ日々だった。

「DIO、帰ったぞ、DIO」

視界の外から飛んできた声が、半日、ろくな音を拾うこともなかった鼓膜をびりびりと震わせた。承太郎の声である。瞬間、目隠しの内側で繰り広げられていた数ヶ月昔の回想、もうどこを切り取っても新鮮味がない程に繰り返し頭の中で再生されたそれは嘘のように霧散して、ただ承太郎、承太郎、早くお前の顔を見せてくれないか承太郎、と心臓が早鐘を打ちだした。

「いい子にしてたか?」

していた。ちゃんと部屋から出なかったし、手首のベルトも取らなかった。お前だけを待っていた。
心臓が馬鹿みたいに高鳴ってまともに喋れる気がしなかったので、わたしはただただ、頷いた。

「DIO、帰ったぜ、DIO」

半日ぶりに開けた視界は、いつだってぼんやりと薄暗い。承太郎の緑の瞳だけが鈍く輝き、じっとわたしを見つめている。わたしは、笑った。そうしたかったので、笑った。
承太郎。
呼び慣れた名を舌先に乗せてみれば、承太郎は泣きたいのか笑いたいのか分からない、とかく全く承太郎らしくはないのだということだけは確かな表情に精悍な顔を崩し、もう一度DIO、とわたしの名前を呼んだ。そうして首筋に寄せられる唇の愛おしさに、頭を撫でてやりたくなる。けれどわたしの両手は他ならぬ承太郎によって拘束されたままであったので、それはしてやれそうにはない。
お前は馬鹿だな、承太郎。


初めの数回はそれはもうとんでもない屈辱を感じたものだったし、手首を戒められ、目隠しを施された時などはこのDIOに対する裏切りだ、とさえ思ったものだった。もしかすると、少々心が痛んですらいたのかもしれない。しかし、
「……あっ、ぅんッ……ん、んん……」
「……痛かったか?」
「いいや……急に、いいところを触られて……きもちがよかった、だけだ……」
「……そうか、よかった」
「あ、あぅ、あ~~……」
回数を重ねるごとに馬鹿みたいに優しくなってゆく承太郎を見ていれば、まともに腹を立てるのも馬鹿らしくなってくるだけである。見よ、このわたしの股座に顔を埋め、勃起した性器を舐めしゃぶり、その下、子を孕めるわけでもない器官をやたらに丁寧に、そっとそっと解かしてゆく承太郎の姿を。こんなものが、正気であるものか。わたしが声を上げる度に嬉しそうに口元を綻ばせ、そうすることが幸せだと言わんばかりの表情で男性器をしゃぶる男の姿が、正気などであるわけがない、いかれている。馬鹿馬鹿しい。
「はぅ、ん……ぁ、あ、は……あぁッ……」
「……嫌なのか、お前、こうされるのは」
「あ……ど、どうして……?」
「首を振った」
「ぁ、ふ、ふふ……だから、きもちがよくて……耐え切れなかっただけ、だ……ぁ、あ、ああっ!?」
ほっとしたように目を伏せった承太郎が、性器の先端を吸い上げた。中にくぐらせた指で、前立腺を揉みしだいた。承太郎がやりやすいようにと膝を立て広げていた足がシーツを滑り、勢い余って宙に浮く。反りかえった爪先では、数日前、承太郎の手で塗りたくられた赤い、真っ赤なペディキュアが、薄闇の中で昏く、昏く輝いている。まるで承太郎の瞳のようだ。あの目と同じ輝きが、わたしの10枚の爪にも灯されている。嬉しかった。気分がよかった。とても、とても。胸を差す歓喜はそのまま快感へと直結し、わたしはただただ、承太郎に与えられる快感に声を上げた。いつの間にか、涙すらもが流れ始めている。
「あっ、あ、ひぃ、っく、あっ、きもちい、じょうたろっ、もっと、もっとっ、あ、で、でひゃうぅっ、あっ、ああんッ」
「ああ、出していい……いっちまえ、DIO、DIO……!」
「はっ、ぁ、~~……!!あああっ、やっ、ひ、い、いくっ、いく、じょうたろっ、わ、わたしっ」
「DIO、」
性器の先端をべろりと舐め上げる承太郎が、視線でわたしに訴えている。誰に、何をされているのかということを、その口で喚いてみせるのだ、と訴えている。唾を飲んだ。喉が鳴った。全身がかっと熱くなった。涙で視界がぼやけた、承太郎の顔が見えない、見えない。
「じょ、じょうたろうに、ぺ、ぺにす、しゃぶられてっ、う、うしろっ、あなる、いじくられてぇっ、じょうたろうにっ……じょうたろぉにっ!いく、こ、このDIOは、ふぁンっ、ぁ、DIOはぁっ……!も、もうだめ、らめぇ、やっ、そんな吸わな、ぁ、ああっ、ひッ……あ、ああああああっ!!!!」
涙が零れ落ちた両目に映る、承太郎の厚い唇の間を勃起した性器が出入りする光景に、恍惚とした色を湛えた承太郎の双眸に、快感に咽び泣く姿を余すところなく見られている興奮に、下半身を支配するただただ気持ちが良いばかりの刺激に――思考が溶け、目の奥が眩く白んでゆく。ぎっぎと鳴るベッドのスプリングと泣き喚くようなわたし自身の嬌声はどこか遠く、承太郎ごくりと鳴る承太郎の喉の音だけが、搾り取った精液を飲み下す音だけが、生々しく、鼓膜を打った。
「DIO、」
体を起こした承太郎が、武骨な指先で優しくわたしの涙を拭い去る。そして鈍く輝く緑の両目でじっと、わたしを見つめている。白濁に汚れた口元、上気した頬、いきり立つ下半身が無性にいやらしくて、愛おしくて、愛おしくてならなかった。
「DIO、」
許しを乞うように、わたしを呼ぶ声色も。
「承太郎」
承太郎が望むとおりに微笑んでやりながら、やはり望むとおり、押し上げられた衣服越しに承太郎の性器を足の裏で愛撫する。承太郎は歯を食い縛るように笑って、衣服の前を寛げた。ぽろりと飛び出す性器は既に先走りに濡れていて、硬く、大きく、勃起をしている。両方の足の裏で挟み込んで扱いてやれば、逞しい顎は仰け反り、濡れた口の端から唾液が零れた。吐く息は、荒い。
「は、……は、ふ……ぁ、っ……」
噛み殺しきれない承太郎の嬌声に、気が変になりそうなほど興奮する。両足で承太郎の性器を潰してしまわんがばかりに、激しく扱いた。陰嚢を蹴りつけるように愛撫した。痛いのだろうと思う。屈辱であるのだろうとも思う。わたしも同じ男であるのだから、そういうことは、よく分かる。しかし勃起し脈打つ承太郎の性器はだらだらとだらしなく先走りを垂れ流し、承太郎のかんばせは欲情も露わにとろけていて、大きな掌の押し当てられた唇からは噛み殺しそこなった嬌声ばかりが漏れていた。頬は赤い。耳まで赤い。この男は興奮している。わたしにぞんざいに扱われることに、男としての矜持を殴りつけられることに、どうしようもなく興奮している。たまらなかった。
「承太郎」
「っ……ふ……出る、DIO……そろそろ、もう……」
「ああ……ちゃんとわたしと見ながら射精するのだぞ、承太郎、出来るだろう、承太郎?」
「できる、できる、分かってる……っ、ぁっ、っぅ、ぁ……!」
滲む涙にとろけた両目でわたしを見つめながら、承太郎は射精した。頭を撫でてやる代わりに、絶頂を迎えたばかりの性器を爪の先で撫でてやる。押し出されるように溢れた白濁がペディキュアの塗りたくられた爪先を汚し、ああ、卑猥な光景もあったものだなぁ、と他人事のようにそう思う。
「……ん、」
わたしが益体もないことを考えている間に絶頂の余韻から脱出したらしい承太郎は、わたしの足の裏、爪先に唇を寄せ、自らが零した先走りと白濁を赤い舌で舐めとった。そして腿の内側、下腹部に至るまで、飛び散った白濁の飛沫全てを余すところなくその舌で掬い上げ、わたしを見て笑うのだ。低く喉を鳴らし、わたしを見下ろしながら、笑っている。その瞳に映るわたしだってきっと、だらしなくとろけた顔で笑っているのだろう。


つつけば花火のように炸裂し、わたしを酷く抱き出す承太郎が好きだった。
例えば、承太郎の帰宅に合わせてベッドを下りていた日。
例えば、シーツに頭を擦り付けて目隠しをずらしていた日。
直近では、行為の最中にいや、いやと、行為への嫌悪感をちらつかせてみた日、など、など。
本当はそうしたくなくてたまらないのだろうに、激情が赴くままわたしを責め立てる承太郎が好きだ、愛しかった。というのも結局、一番初め。ある日の夕方、わたしをこの部屋に引っ張り込んで強姦に及んだ――そうだ、強姦だ、あれはまごうことなき強姦だった――承太郎の必死こいた面がどうやったって忘れられず、今になって考えてみればあれほどストレートな感情表現もなかったのではないか、あれが一等に激しく承太郎が己の胸の内を曝け出した瞬間だったのではないか、なんてことを思ってしまっているからだ。そんなにわたしが欲しくてたまらなかったのか、お前は、お前、承太郎。そう思えば、多少以上に愉快な気分にもなろうというものだ。
「あ……あ、ふぅ……んぁっ、あ……」
膝に乗せたわたしに硬度を取り戻した性器を食ませ、優しげにこの頭を撫でながら、承太郎はゆさゆさと緩慢にわたしの体を揺さぶっている。星の痣の刻まれた肩口に額を押し付けられているので、承太郎の顔は見えない。声も漏らそうとしないので、感情が読み取れない。どうせ、泣きたいのか詫びたいのか分からない顔をしているのだろう。可愛い奴、馬鹿な奴。
「あぅっ、ん……はぁあ……ああ……」
優しくされるのも、嫌いではなかった。というか多分、今となっては承太郎に何をされるのも嫌ではないのだ、このわたしは。あの男が許容量を超えた愛情、のようなものをわたしに抱いてしまっていることは、もう、身を以て知っている。
だから、いい。お前の執着はあまりに甘い。舌に馴染む。だからいい。わたしに纏わるお前の全てを、わたしはあるがままに受け入れる――とは思えども優しくされればされるだけ、脳裏にぼんやり浮かぶのは死ぬほど酷く扱われた一度目の記憶で、なんというか本質的に、わたしはこの男に酷く抱かれたがっているのだろうという気がしている。
わたしの体が持つのなら――承太郎の、今にも焼き切れてしまわん精神が持つのなら。
ままならないものである。

『――殺すっ、殺してやる貴様承太郎!!き、貴様はこの身を粉微塵にするだけでは飽き足らず、尚もわたしを貶めようというのか!承太郎っ、じょうっ、あ゛っ、あ゛ぃっ、あ、やっ、ひっく、ぅ、ッ、は、はぁ、いやだっ、いやっ、いやだ、いやだ!!』
『殺せるもんならやってみろよ、お前、できねぇからこんなことになってるんじゃあねぇか、おい、DIO!!?』
『承太郎――承太郎……!!!』
『っ……DIO……!!』

答えになどなってはいなかった。あれ自身も感情のまとまりがつかず、自分が何を言っているのか分かっていなかったのだと思う。ただ猛った凶器と化した性器でわたしの体を刺し貫いた瞬間に、もうその数分前まで続いていた馬鹿馬鹿しく平和な日常には帰れないのだということだけは、察してしまっていたようだった。今にも泣きそうな顔をしながら、あの男はわたしを散々に凌辱した。
泣くくらいならしなければよかったのに。それでも凶行に及ばずにはいられなかったのだろう承太郎の内心を思えば、どうにも憐憫だとか興奮だとかの感情が一息に押し寄せて、本当は嫌だったのに、あの時ばかりは本当に嫌だったのに、わたしは拒絶しきることができなかった。そして腹の奥に熱い精液を注ぎ込まれた瞬間に、ああわたしはこの男を愛していたのだなと、薄れゆく意識の中でぼんやりと思ったものだった。

「……ひっ」
「どこに気ぃやってんだ、おい」
「ぁ、はぁン……んぁ……」

わたしの腰を掴み上げた承太郎が、ぐりぐりと押し込むようにこの体を突き上げた。たまらなかった。気持ちがよかった。不安定な体勢ではこの快楽に耐えきれる気がしなかったので、承太郎にしがみ付こう――と思った辺りで、両手が拘束されていたことを思い出す。解いてくれ、とでも言おうものなら、その瞬間から承太郎はこの穏やかな交合が嘘のように酷くわたしを抱き出すのだろう。想像して興奮した。無意識に下腹部に力が入って、耳元で承太郎が小さく声を漏らす。わたしもありありと感じ取れた承太郎の性器の形にもう、どうしようもなく興奮して、たまらず腰を揺らめかせた。
「じょうたろう、」
「どうした、DIO」
「……」
「DIO?」
「……なんでもない。もっとだ、もっと……承太郎……」
酷くされたかった。わたしをこんな小部屋に閉じ込めたのだから、承太郎はもっともっと、わたしにその激情を叩きつけるべきなのだと思っている。お前もこの部屋に閉じこもってしまえばいいのに。これまでの人生だとか、輝かしい前途だとかを全て全て、投げ出して。そこまで頭のイかれた愛を捧げられたらわたしはきっと、嬉しい、とても、嬉しい。――とは、思えども。

「DIO、」

今この瞬間、膝の上のわたしを壊れ物を扱うかのように抱きしめて、穏やかに笑う承太郎。安心をしているのだろう。わたしがちゃんと、ベッドから降りずに待っていたから。目隠しも取らなかったし、いやともだめとも言わなかったから。
そうして一時の安堵に浸る承太郎の愚かさが、わたしは愛しくて、愛しくて、ならなかったのだ。ほんの一時の平穏を維持してやりたいと思う程度には、わたしはごくごく真っ当な愛情をこの男に、承太郎に――

「アッ、」

体を揺すられ、思考が飛ぶ。勃起した承太郎の性器が入り口をゆっくり出入りする感覚に、腰が痺れた。少々、もどかしくもあった。しかし自分から動きたくとも、未だこの体は承太郎に抱き込まれたままであるので、思うように動けない。涙が溢れた。じれったい、じれったい、気持ちが良い、もっと欲しい、もっと、もっと。
「はぁあん……ああっ、はぁ、ああああ~……」
承太郎、承太郎、
「じょ、じょうたろっ、あ、あ、お、おかしくなるっ、こんな、ぁひっ、あぅ、ああっ」
もうとっくに、わたしはおかしい。承太郎だって、輪をかけて、おかしい。分かっているのに、それでいいとも思っているのに、理性が希薄になればなるほど否定をしたくなるのはきっと、本能のどこかでは『そうでなかった頃』の平穏を求めているからだ。未だ、未だ。プリンを食べた食べていない、さっさと風呂に入れお前から入れ、今日はよく晴れていた、ああそうか――他愛もない会話で時間を食い潰すことが楽しくてならなかった、馬鹿馬鹿しく平穏だったあの日々を。
「DIO、DIO……!」
「じょうたろうっ、いくっ、いくっ、もう、もうッ、ゆるして、じょうたろぉ、じょうたろぅッ」
「っ……!!!」
「あ゛っ、ひぃン、あ、奥、おくそんなぁっ、あ、ああっ、いく、いっひゃうッ、じょうたろ、じょうたろうのでわたしっ、わたしッ……ぁ、ああっ、ひ、で、でてるぅ、じょうたろうのッ、じょうたろう、わ、わたしの中でぇ、あ、あ、らめぇっ、も、でるっ、でる、じょうたろっ、わ、わたし、ひっ、ああ、ああああああッ~~!!」
砂糖菓子を愛でるようにゆっくりゆっくり繊細にわたしを犯すくせ、根元まで突き入れた性器から迸る精液を一滴残さずに注ぎ込もうとする傲慢と言ったらなかった。両手で臀部を掴み寄せてぐにぐにと揉みしだかれてしまえば、もうどうにもたまらない気分になって、涙と涎が溢れてくる。後孔からは白濁が零れ、しかしすぐさま承太郎の指によってわたしの中へと塗り込まれた。
承太郎――承太郎。

「DIO、」

承太郎が、わたしを呼ぶ。許して欲しいのだ、と言っている。受け入れはしないくせに。わたしがどれだけ許してやると言ったところで、悪いのは自分なのだ、自分は決して許されないことをしているのだなんて頑なを、拭い去ることができないくせに。
だから言ってやる代わりに、血を吸った。首筋に牙を押し当て、熱い血液を飲み込んだ。承太郎にとっての禊であるのだと思う。わたしにとっては、ただの食事だ、ただの後戯だ、大した意味があるでもない。

「お前が、好きでたまらん、俺は、俺は」

日に焼けた皮膚に血を滲ませ、切羽詰まった顔でそんな言葉を寄越してくる承太郎が、可愛いのだ。それだけだ、それだけ。


わたしの手首を拘束するベルトであるが、何もこれはこの数ヵ月間ずっと付けられっぱなしだったというわけでなく、承太郎の気分によっては外される日もあった。あれがこの部屋を出る時には、きちんと戒め直されてしまうのだが。

「承太郎。承太郎よ。お前は馬鹿な男だな」

荒れ果てているのだろう承太郎の精神が、一時雨の晴れ間のように落ち着いている時だ。もしくは血をたくさん吸われてもまだ足りぬ、まだまだ許され足りないのだと、その胸の内に暴風が吹き荒んでいる時だ。そんな時に承太郎はわたしの手枷を外し、この膝に頭を預け、深く眠る。今日はどうにも前者であるような気がする。眠りの淵に落ちる寸前、夢を見るようにわたしを見上げる承太郎の双眸は、穏やかだ。

「承太郎」

承太郎の目を掌で覆った。子守唄を、歌ってやった。もう何分もしないうちに、承太郎は眠ってしまうのだろう。
――とてもとてもわたしらしくない話ではあるのだが、承太郎をこの密室に引きずり込むのではなく、一緒に出てやる愛というものも示し方の1つであるような気がしている。わたしがこの胸に抱え込む、承太郎なる男への愛情について。
あんな手枷など、本当は簡単に引き千切ってしまえるのだ。毎夜わたしに伸し掛かる承太郎を蹴飛ばして、この部屋から逃げることもできるのだ。なにせセックスをするたびに、承太郎の血液を、ジョースターの血をこの身に取り込んでいる。もうほとんど、全盛期に近い力は戻っているのだった。
だから、精神をすり減らすばかりの承太郎を『救おう』というのなら、わたしは今こそ承太郎を叩き起こし、ごてごてと鍵のついたドアを蹴破って外へと出てしまえばいい。この男は、わたしの精神の化身であるスタンドを自らのそれによって砕いた男だ。荒療治の一発でも施してやればすぐさま目を覚ましてくれるのだろう。それだけの強さがあると、知っている。
それでもそれをしてやれないのは、わたしの勝手だ。承太郎に閉じ込められ、承太郎を支配するこの日々の充足感が、たまらなかった。

「承太郎。外はもう、夏なのだろうか」

掌で覆った瞼を撫でる。承太郎からの返事はない。寝てしまったのだろう。

『――今日、海に行ったんだが。なんつーか、綺麗なもんなんだな。海で見る日没ってのは』

今更、青空も太陽も恋しくはなかった。その筈だった。しかしいつだったか、承太郎が野を駆けずり回る少年のような目で述べた、わたしがもう見ることの叶わない光景を、なにやら無性に見たくて見たくてたまらなくなってしまった。
わたしは、承太郎の目に映る世界を見たかった。
馬鹿馬鹿しくも美しいものであるのだろうその世界を、承太郎と共有したかったのだ。

「お前は馬鹿だな、承太郎」

――お前が気に病み続けているこの数ヶ月の出来事など、わたしの長い人生から見ればただ一時、アフタヌーンティーを楽しむ程度の時間でしかないというのにな、承太郎、承太郎よ。

「ふふふ、承太郎、承太郎、よ」

わたしが抱くまっとうなお前への愛情が、まっとうではない愛情を上回ったその時には、共にこの部屋を出よう。そして海になりどこへとなり、このわたしを連れて行け。別に、晴れていなければいけないというわけではないのだ。わたしが欲しいのは、お前の世界なのだから。お前と共に見る景色なら、空が黒くても、月しか見えなくても、わたしはな――ああ、なにやら眠くなってきた。

「おやすみ、承太郎」

また明日。明日もお前を待っている、わたしはちゃんと、この部屋で。






閉じ込めてるのは承太郎なのに支配してるのはDIO様なんだぜみたいな監禁に滾ります


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