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侵略完了までのX日

一瞬開いた瞼が、すとんと落ちる。筋肉痛を伴った倦怠感には耐え難いものがあり、まるでしこたま水を吸わされた雑巾にでもなった気分だ、と思う。
どうやら俺は、狭いソファーの上で仰向けに寝ていたようだった。肘掛の向こうに放り出された爪先が強張っている。中途半端に曲がった膝が、引き攣るように痛い。ようだ、というのは、一昨日の夜から今朝にかけての記憶があまりにも不透明なせいだ。鮮明に覚えているのは、

『おい承太郎!腹が減った!セックスするぞセックス!』

なんてことをほざきながら人の家の窓を蹴破ってきたDIOの、死ぬ程ありがたくない喜色満面の笑顔のみである。それが大体、一日半前の夜のことだ。それからは腹を空かせた吸血鬼とひたすらセックスに励み、時たま思い出したように食事を摂っては風呂場で汗を流してみたりなんだりもして、ようやくあいつが寝付くと共に俺も意識を手放して、今に至る。寝室にいた筈がリビングにまで移動してきていたのは、無意識にあいつから逃げようとしてのことだったのだろうか。酷使され続けた性器は何やらひりひりと痛く、腰はみしみしと軋んでいた。
『じょうたろうっ、もう一回ぃ、じょうたろ、まだたりんっ、じょうたろ、じょーたろっ、あ、あ』
「…………」
瞼の裏にぼんやりと浮かび上がるDIOとの記憶は、どこをどう切り取っても居た堪れない。身の置き所のなさに狭いソファーの上、難儀して横向きになってみれば、どうにも寝違えていたらしい首筋が倦むような痛みを発している。満身創痍である。どこもかしこも怠く、重い。溜息をつく気力さえなかった。すっからかんである。
こんな状態になるまで付き合ってやる義理などは、なかったはずだ。DIOにとっての俺は足りない力を補填するための食糧であり、俺にとってのDIOは――まあいまいち上手く形容する言葉は見つからないのだが、愛だとか情だとかを傾ける相手ではないことは確かである。そして、
『あ――……ぁ、はぁあん……あ……おいひぃ……もっと欲しい、もっと、もっと……もっと出せ、もっと……じょーたろぉ……』
ごたまぜになった性欲と食欲で理性を溶かし、承太郎、承太郎と俺を求めてくる姿にどうしようもなく興奮してたまらないことも確かな事実であって、つまりなんというか、性欲だ。DIOの横暴を許容する理由などは、ただそれだけに尽きるのだった。やはり、愛も情もあったものではない。

「……じょーたろー……どこだ、どこにいる……じょーたろー……?」

蝶番が軋む音に続いて、ぺたぺたと、フローリングに張り付くような足音がカーテンの閉め切られたリビングに残響する。丁度、俺が横たわるソファーの背の後ろである。寝室へと続くドアから、DIOが這い出てきたのだろう。声を出して、俺はここに居るのだと、答えてやるのは億劫だった。だから代わりに、片腕を持ち上げた。背もたれから指先が見える程度に、ちょっとだけ。例外なく腕も重い。ぶんぶんと振ってやる体力などない。それでも一応俺の居場所を知らせてやろうと思ったのは、じょうたろう、じょうたろうと舌ったらずに繰り返す寝ぼけた声が、妙な哀れを誘ってならなかったからだ。眠る直前までしていた行為が見せた幻想である。どこまで行ってもろくでもない。
「ん……む、ああ……そんなところにいたのか貴様……このDIOを置いて、きさま、承太郎、貴様という、やつはぁー」
「重いぜ、阿呆」
俺の傍らまで辿り着いたDIOは、糸の切れた人形のように冷えたフローリングに座り込む。そして無遠慮に、俺の下腹部の辺りに突っ伏した。思わず非難の声を漏らせば、喉が鈍い痛みを訴える。ああ、喉は渇いていたのだな。そう理解したところで、水を取りに行く気力などはない。
「承太郎……腹が……このDIOは、腹が、減って……」
「嘘だろおい……散々出してやったし、血も吸わせてやっただろう……」
「足りるものか、あれしきで……」
「……おいこら」
マニキュアの剥げた指先が、力なく俺の性器を握りこむ。そうして人の腹に鼻先を埋めたまま、おざなりに手淫を施し始めるのだが、どうにもむず痒い感覚ばかりが広がるのみで、勃起する気配はない。
「……どうして勃たんのだ?」
「そんな顔されてもな……」
こてんと顔を傾けたDIOは、不満よりも疑問を滲ませた面でぼんやり俺を見上げている。一日半、嬌声と卑猥な言葉ばかりを吐き出し続けた唇がぽってりと厚く腫れている。白磁の頬は、変わらず血色の悪いままである。どうにも淫猥で、怠惰な面だ。病的な雰囲気はいやにこの男に似合っていて、妙にそそられるものがある。いやらしい、生き物である。
「おい、承太郎、承太郎」
「……あ?」
「今更わたしに見惚れてどうするというのだ」
「見惚れてた?俺が?お前に?」
「違うのか?違わんだろう?」
「……よう分からん」
実際、見惚れていたのだと思う。作り物のように綺麗なくせに、どうしようもなく俗っぽくいやらしいこの男に。認めるのは癪だったので、適当に誤魔化した。DIOからの追及はない。重い瞼を緩慢に瞬かせるばかりである。
「お前もいい加減、限界なんじゃあねぇのか」
「……わたし?」
「半分寝てるだろう、今」
「そのようなことは、ない……いや……眠いと言えば、眠いのだが、それよりも腹が……まだ足りぬ、わたしは、腹が、減っている……」
「……おい。おい」
意地を張るように眉を寄せ、DIOの頭が持ち上がる。そして両手で掴み直した性器に押し付けるように、柔らかな唇をふにゃりといやらしく変形させた。まるで、へたくそに棒アイスをかじる子供である。濡れた舌に亀頭を擽られる感覚もやたらにじれったく、今一つ勃起までには行きつかない。はむはむと亀頭と戯れるDIOの横顔には、それなりに感じるものがないでもないのだが。
「ん、ふぅ……んむぅ……んん……」
「もう出ねぇよ、馬鹿」
「馬鹿とはなんだ貴様、このDIOに向かって、ん、……んむぅぅ~……」
「うおっ」
金の髪の塊が、ずるずると重力の方向に崩れ落ちてゆく。辿り着いた先、下生えの生える根元の辺りに鼻先を埋め、DIOははあと、熱い息を吐き出した。
「寝るならどっか別の場所に行けよ。落ち着かねぇ」
「んー……んー……」
「おい。んな所で寝るなっつってんだぜ、聞いてんのか、暴食魔」
「じょうたろう、うるさい……」
「だから――ああ、ったく……」
髪を引っ張っても頬を張っても、DIOはぴくりとも動かない。少々躊躇した後に、未だ柔らかな性器でぺしぺしと頬を叩いてやれば、嬉しそうに頬ずりをし出す始末である。この淫乱。ちんぽ狂い。競り上がる罵倒文句はしかし、寸でのところで飲み込んだ。何を言われたってDIOはちっとも意に介さないのだろうし、むしろそんなどうしようもない淫魔相手に1日半付き合ってしまった俺は一体なんであるのかと、こちらの方が余分なダメージを喰らってしまう気がしてならなかった。いや、もう既に、ちょっとばかり落ち込んではいるのだが。
「……お前は、なんつーか。悔しかったりだとか、屈辱に思ったりだとかはしないのか?」
「……?」
亀頭でDIOの頬を撫でてやりながら、投げやりに問いかけた。今までじんわりと気になりつつも、今一つきっかけがなかったので聞けなかったことである。なにせ、顔を合わせれば挨拶をする間もなく下着を脱がせ合うような関係だ。真面目くさった話をするには今更照れくさく、馬鹿馬鹿しいことであるようすら思う。しかし嵐のような熱の過ぎ去ったこの怠惰な朝に於いてなら、そうした話をするのも許されるような気がする、というか――ああなんだ、よく分からんが、とにかく。とにかく。寝起きで、頭が馬鹿になっている。うっかりDIOの内面に踏み込もうとする言葉を吐きだそうとしている理由などは、きっとそれで充分だ。
「お前を負かしたのは、俺だろう」
「ん……ああ、そうだな。貴様こそが、このDIOの体を粉々になるまで叩き割ってくれた不届きなガキである。そのせいでわたしは腹を空かせて世界中を彷徨う羽目に……はふぅ……」
「おい、寝んな」
ぺちぺちと音を立てながら性器で頬を張ってやれば、DIOはとろとろと瞬きながら、付け根の辺りをぺろりと舐めた。少しばかり、ぞわっとした。清く正しく暮らしていれば触れられるはずのない箇所への、未知の快感である。緩慢に背筋を走った電流を受け流すべく、指先にDIOの髪を絡めながら、DIOの首、真っ白な皮膚に刻まれた首輪のような傷跡へ何とはなしに目をやった。いつだってこいつは、首の傷を辿るように舌を這わせてやると涎を垂らして感じ入る。そんなろくでもないことばかり、知っている。
「自分を負かした相手の血だの精液だのを、女みてーに足広げてねだり倒して食い繋いでいく気分ってのはどんなものなんだ?傍から見ればお前、物理的にも性的にも完全に屈服した負け犬だぜ」
「屈辱とは、何も成せぬままに死んでしまうことを言うのだ。世界に風穴の1つも開けることすら、叶わずに」
明瞭な声でそう返したDIOは、先端の窪みを爪の先でぐりぐりと刺激した。悪くはない感触である。
「屈辱であるものか、この程度のことが、ああ、この程度、この程。わたしは生きるぞ、承太郎。貴様を喰らい尽くして、千年先まで生きてやる。それこそがこのDIOだ。わたしを甘く見るなよ、青二才」
「……ろくでもねー」
とは思えども、こいつのこういう所は案外、嫌いではないのかもしれない。頭を撫でてやれば、DIOは微睡むように目を細めた。可愛らしいことだ、と思う。馬鹿馬鹿しい話である。
「まあ、さすがに……首だけになった姿を、ジョジョの前に晒さなければならなかった時などには……いかにこのDIOとはいえど、それなりに……いいや、それなり以上に、屈辱だとは、思いもしたのだが……」
「…………、」
そうしていよいよ、目を閉じる。やたらに無防備な寝顔を晒しながら、それでもぺろぺろとぎこちなく、怠惰に性器を舐めている。本格的に眠ってしまうのも時間の問題なのだろう。なにせ、一度俺に負けてからのDIOというものには体力がない。この1日半の間は異常な食欲に突き動かされるまま、きちがいの様に俺を求め続けた次第ではあるが、限界などはとっくの昔に迎えていた筈だ。並の成人男より体力には自信があるつもりでいる俺ですら、これなのだ。だからこのままDIOが観念して寝てくれることこそが、互いにとっての幸いなのである――とは、
「…………」
分かっちゃあ、いるのだが。
「……ん、ん……?じょうたろう……?」
「寝んなつってんだろ」
「眠ってなどいない……ちょっと目を閉じていただけ――ん……」
柔らかな金髪を引っ張り、重い頭を持ち上げる。そして、赤い、紅を引いたように赤い唇に、性器の先端を咥えさせた。DIOが怪訝そうに、半分だけ現れた赤い瞳で俺を見る。時にはやたらと可愛らしくすら見えるDIOの、微睡の表情ではあるが、今だけは妙に、その胡乱な視線が苛立たしい。
俺を見ろ。ちゃんと目を開いて、俺を見ろ。今確かにお前の目の前にいるこの俺を。
「ひょーたろ、ん、んぅぅ……!!?」
湧き出て止まぬ出所不明の感傷に、胸の内を巣食われてゆく居心地の悪さと言ったらない。どう発散したものかも見当がつかず、何故こんなに苛つく羽目になっているかも分からない。諸々の腹立たしさを発散してしまうべく、俺はDIOの頭を上下に揺さぶった。
「ん、んぶッ、ん、ん、ぅ、うっ!~~!!」
DIOの口で、舌で、馬鹿みたいに必死になって性器を扱いた。喉の奥に先端を擦り付け、見開かれたDIOの赤い瞳から涙が弾け飛んだ時にはいつの間にか、性器は勃起してしまっていた。不意に喉奥を締め上げられ、鈍い快感が下半身から全身へと伝播する。DIOは涙でとろけた双眸で、俺を睨みつけている。
「欲しいっつたのはてめーだろうが」
「ふ、んんっ、ん、んんぅ!!」
「そんなんじゃあイけねーぞ。飲みたいんじゃあねぇのかよ、精子。オラ、もうちょい頑張りな」
「っ、っ、~~!!」
「この程度のことは、屈辱でもなんでもないんだろ」
「……、」
ふいと目を反らしたDIOは、数秒の後に観念したように目を閉じた。そしてされるがままではなく、自分の意志で頭を上下に動かし始める。器用に動く舌に性器を絡め取られる感覚が、気持ちよかった。しかしそれ以上に、この目に映る従順なDIOの姿が、俺に妙な興奮と満足感を与えてならないのだ。もっと泣け、泣きながらしゃぶりつけ、後から「恥ずかしい姿を見せてしまった」と顔を赤らめてみせるくらい、みっともなく俺を求めてみろ――ああくそ、気色の悪い!気持ちの悪い、感傷があったものだ!
「は、はふっ、ん、ぁ、ふぅンっ、ん、は、んんん……!」
俺の下半身に覆い被さって、DIOが性器にしゃぶりつく。もはや俺が頭を上下させてやる必要もない。まるで犬だ、犬である。こんな姿ですらも、恥ではないというのだろうか。ジョジョ、ジョジョ――俺のじじいのじじいだとかいう男を、首一つになってまで追いかけたことの方が恥であるのだと、言うつもりであるのだろうか。
「……出すぞ。零すなよ」
「ん、ひょーたろっ、じょ、たろっ、ぅ、んぶぅ……!」
DIOの後頭部を押さえつける。腰を浮かせ、性器の先端で喉の奥を凌辱する。半分だけ開いた赤い瞳からは乾く暇もなく涙が滴って、形の良い眉は情けなく垂れ下がっている。情けない面である。みっともない面である。――俺にふしだらな感慨と、奇妙な独占欲の満願を抱かせてならぬ面である。DIO、DIO。うわ言のように奴の名を呼びながら迎えた絶頂は、やたらと満ち足りたものだった。もう精液は薄く、大した量もでやしないのに、この1日半の中で一番に気持ちの良い絶頂だったような気さえする。
「――っ……っ……!」
零すなよと。その言いつけを守るが如く、DIOは必死に口の先を窄めて赤黒い性器を咥え込む。それでも結局、耐え切れなかったのだろう。ごほごほと咳き込みながら顔を上げ、口の端から白濁の液体を零しながら、涙に濡れた目で俺を睨みつけたのだった。
「だ、だす、ならっ、もっと飲みやすいように、しろっ!承太郎の、あほ!もったいないではないか!」
「……」
やはり、あの程度のことは恥でも屈辱でもないらしい。呼吸が落ち着くやいなや、未練がましげに再びしゃぶりつき出す始末である。何やら妙に脱力した。射精して頭が冷静になったのかもしれない。何故俺は、こんなろくでなし相手に必死になってしまったのだ。後悔も恥も屈辱も、結局は俺が引き受ける羽目になっているではないか。
「今度はちゃんと飲むから、承太郎、早く、はやくっ」
「もう出ねーよ、馬鹿」
「さっきもそう言っていた!しかしちゃんと、出たではないか!」
「吠えるなよ、うるせーな」
「じょうた、――」
乱れた金髪を掴み寄せ、喧々と姦しい唇にキスをする。ついさっきまで性器をしゃぶっていた口の中は、ろくでもない味がした。
「ん……ん……んぅー……」
「……」
だというのに、うっとりと瞼を閉じ、大人しくキスに応じるDIOの顔を見ているとこのまま何時間も過ごせてしまえそうだ、むしろ1日中こうしていたって構わない、なんてことを思ってしまう。まるで愛情だ、馬鹿馬鹿しい。粘膜の接触が生んだ幻想である。悪質な冗談が、あったものだ。
「ん、は……じょうたろう……」
「とりあえずは、こっちで我慢しておけ……」
「……もう一回……」
「……仕方ねぇな……」
血液、精液に限らず、人間の体液からエネルギーを取り出せるDIOにとっては、唾液でさえも糧となる。血に比べれば微々たるものだ、とはDIOの弁であるのだが、キスをしてやるたび必死になって舌を絡めてくる様を目の当たりにすれば、そうした微々たるものでさえもかき集めねば立ち行かぬほどに弱っているDIOの現状というものを突き付けられた気分になる。腹が膨れるまで、血でも精液でも唾液でも与えてやりたいと思ってしまうのは、やはり粘膜の幻想だ。会うたびにキスをしてはセックスに溺れているものだから、距離感がおかしくなっている。粘膜を介さない俺とDIOとの関係というものは、実際どんなものであるのだろう。俺はこの男をどう思っているのだろうか――どうしたいと、思っているのだろうか。
「…………おいひぃ……じょうたろう……ん、ふふ、ふ……」
「……そうかい」
荒い息を吐きながら、DIOは俺の唇をぺろりと舐めた。ちょっとは腹が膨れたのだろう、幸せそうな面は、1人真面目くさったことを考えているのが馬鹿らしく思えてくるほどのまぬけ面でもある。乱れた金髪の群生する頭を撫で回せば、DIOはふにゃふにゃと崩れ落ちるように、俺の胸元へ顔を埋めた。
「起きたらするぞ、承太郎」
「勘弁してくれ」
「貴様もいい思いができるのだぞ、ウィンウィンではないか」
「限度ってもんがある、限度が」
「でも、貴様は応じるのだろ」
「何言ってやがるんだ」
「経験則だ、承太郎」
「したり顔すんな、あほ」
「んんー……じょーたろーめー……」
白い頬を引っ張る。みょんと伸びた。半笑いで零された声の平和ぼけた響きがどうにもおかしく、気付けば俺も笑っていた。
「早く満足して帰れよ、お前」
「貴様の頑張り次第だ、承太郎……ん……んんー……」
俺の胸の上で、電池が切れたようにDIOはぱたりと眠りに落ちた。乱れた髪を撫でて整えてやりながら、ようやく俺も、両目を閉じる。起きた後のことは、起きてから考えればいい。DIOとのことだって、DIOに纏わるまとまりのつかない感情なども、急いで整理をする必要などないのだろう。なるように、なるはずだ。多分、多分、きっとな。
なげやりにそんなことを思いながら、DIOに続いて一旦の眠りに就いた。




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