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端が変色しています

ふと思い立って日の出を見てきた。
なんつーか、まあ、すげぇもんだなぁと。
こんなちゃちな感想しか出てこなくなる程度には、割と、なんだ、とんでもない光景だってのか、上手く纏まらんが。毎日俺の知らない所でああやって太陽が昇っては沈んだりをしてるんだと思うと何とも言えない気分になる。
毎日だぜ。365日。誰も知らない昔から。
そう思えば俺の20年未満の人生なんか瞬き未満の、きっと瞼が1ミリ程も動く時間にすらならないのだろうし、お前の100年なんてのも似たようなものだ。
つーか100年つってもお前の実働時間は俺とそう変わらないらしいじゃあねぇか。
それでよく俺をガキだなんだと扱き下ろせたもんだな、この野郎。

一応写真を入れておく。
お前に太陽のルーチンワークを美しいと思える情緒があるのかは知らないが。
俺は思えたぞ。
自分がそういう性質じゃあねぇことは自覚しているが、それでもそう思えた。
どうだ、ざまあみろ。



「まーた悪だくみをしとるのか、くそじじい」
「貴様や白衣を着た有象無象たちをいかに欺き我が手に自由を取り戻してくれようか、ということに知恵を絞らん日はないぞ、くそじじい」
「言いよるわ。んで、なんじゃあそりゃあ」
「人の持ち物に一々興味を示すのではない。卑しい男だな」
「んなペラ紙一枚握り締めてにやついとる悪党がいれば、そりゃ気にもなるわ」
「悪党。悪党なぁ」
「なんだ、その顔は。にやにやしくさって」
「その悪党にせっせと手紙を送り続けているのが貴様の孫だ、『おじいちゃん』」
「は?……はぁ!?」
「そういきり立つなよおじいちゃん。貴様もいい年なのだから、いつ血管がぷちんといってしまってもおかしくはないのだぞ。人の部屋で死体になるつもりか?おじいちゃんは行儀の悪い男だな」
「おじいちゃんおじいちゃんと気色の悪いことを言うんじゃあない!いや、んなことよりも手紙、手紙だと!承太郎が、お前に!」
「ん。宛名を見ろ。わたしは日本語には明るくないのでよく分からないのだが、これは貴様の孫の名前なのだろ?」
「……oh……」
「半年ばかり前になるか。最後に貴様の孫が、この部屋を訪った時だ。あまりにもとりとめのなさすぎるやり取りであったが故に流れなどはちっとも覚えちゃいないのだが、『貴様は見た目通りざっぱな男だから、日記なども長続きした試しがないのだろう』という話になった。そこで何やら、貴様の孫はむきになってしまったのだな。ちょっとした言い合いの後にわたしは『貴様が三日坊主でないことを証明したいのならこのDIOに定期的に手紙を寄越してみろ』なんてことを言っていて、あの男は『てめーがうっとおしいつっても送り続けてやる』と間髪入れずに答えたのだ。それでな。これで3通目になる」
「……はぁ~、まったく何をやっとるんじゃ、お前たちは」
「そんなに孫が心配か、おじいちゃん?」
「お前みたいなろくでもない孫を持った覚えはない!……それでくそじじい、お前からも手紙を返しておるのか?」
「まあ、暇だからな」
「……」
「なんだ、その胡散臭いものを見るような目は」
「胡散臭いもんを見とるんじゃから仕方ないだろう……」
「初めは返信するつもりなどはなかったのだがな。それで承太郎からの手紙が来なくなったとしも知ったことではない。あれが勝手にむきになっているだけなのだ。しかし、まあ、他人に宛てて文字を綴る作業というものも偶には悪くはないものだと感じている。だからな、このDIOはわざわざ。承太郎の、日記と変わらぬつまらない手紙へ、せっせと返信を」
「承太郎に妙なことを吹き込んではおらんだろうな」
「あれがわたしの言葉に素直に耳を傾ける輩であったなら、わたしはこのような小部屋に閉じ込められる羽目にはならなかっただろう」
「ったく、ああ言えばこう言う奴じゃなぁ。もうベッドから下りれん所まで弱っとるくせに、口だけはいつまでも達者じゃ」
「承太郎には言うんじゃあないぞ」
「なんだ、お前教えておらんのか、自分のことを」
「承太郎さんは健やかにお過ごしでしょうか、わたしはろくな食事を摂ることも許されず過度の実験に付き合わされる余り自力で歩くのも難しくなってきました、なんてことをこの手で記せって?冗談ではない。それに貴様だって、わたしを『そうして』扱うことにゴーサインを出したのは他でもない自分なのだと可愛い孫には知られたくないだろう、おじいちゃん?貴様の孫はあんななりをしているくせに、人並み以上に正義感の強い男だものな」
「ああ、ああ、もういいもういい。承太郎の様子がおかしくなったら真っ先に貴様をとっちめに来るからな。節度のある返信を心がけるのだぞ、くそじじい。ところでそれはなんじゃ」
「ん?なんだ、また貴様は、人の持ち物にばかり興味を持って」
「んなこれ見よがしに置いてあれば気にもなるじゃろう。承太郎からか?」
「ああ。なんでもふと思い立って日の出を見に行ってきたそうだ」
「ふぅむ、よく撮れとるもんじゃあないか」
「嫌味な写真だと思わんか、孫馬鹿よ」
「なにがじゃ」
「お前がこの風景を肉眼で見ることは永遠にないんだぜ、と言外に言っている」
「ん?写真じゃあなくてその目でこの景色を見たいのか、お前は」
「……どうしてそうなる」
「じゃなけりゃんな捻くれた感想にはならんよ。承太郎はな、ただテンションが上がっちまっただけなんだろうて。よっぽど感動したんじゃろう、わしの孫はいくつになっても可愛いなぁ」
「情緒の尖った思春期男になど付き合っていられるか、馬鹿馬鹿しい」
「おいどうしたくそじじい、急に機嫌悪くして。不貞寝か。お昼寝か、おい、せっかくわしが来てやったってのに」
「うるさい。貴様の訪問をありがたがってやらねばならん理由がどこにあるというのだ。わたしは寝る。さっさと出て行け、くそじじい」
「DIO。お前が二度と日の出を見ることができなくなったのは、自業自得じゃ」
「だからこのDIOは、日の出が見たいなどとは一言も言っていないだろうに」



そういえばもう長いこと会ってないように思うんだが、お前まだ大人しく財団の世話になってるのか?
いや、宛先もずっと変わらんから、居場所が変わってないことは分かってるんだが。まさかとっくに内側から研究所を占拠済みだってオチじゃあねぇだろうな。お前人を誑かすプロだからな。くそ、書いてるうちに不安になってきたぜ。
お前の様子が気にならんことはないが、いかんせん時間がない。
一応、お前に何かあったらいの一番に俺に連絡を寄越すよう研究所には言ってある。連絡がないことを吉報と信じて過ごすしかねーってのが、どうにも居心地の悪い話だ。
お前に会いに行く時間を取れないのが痛い。年を食うごとに、時間がどれだけあっても足りなくなる。いっときは週一で通ってたってのにな。不思議なものだ。

この前言ってた実家の写真を入れておく。
下の青いのが畳だ。タタミ。転がると中々気持ちが良い。
奥の方に映ってるのが縁側な。エンガワ。ぶら下がってるのがフウリン。風が吹くたびりんりん鳴る。そういや夏場に撮った写真だったな、こりゃ。実家にいた頃の夏なんかは、日がなここに転がって時間を潰したものだった。
まかり間違ってお前に外出許可が出た日には、一度連れて行ってやっても構わない。いつかの手紙で言ってたみたいに、ユカタなる布を着てナツマツリなる催しごとに本気で参加したいと思うなら、外泊許可を出して貰えるような慎ましい生活を心がけることだ。

正直に言えば、お前にはもう以前ほどの脅威はないのではないかと感じている。日寄ってしまっているというか、随分と大人しくなってしまったような印象を受ける。文字のやり取りだけで判断するのも迂闊なことだが、そう感じてしまったものは仕方がない。
本当のところはどうなんだ。
お前はこれから、どうやって生きていくつもりなんだ?
別にお前の身の振り方に気を揉んでやる義理もないが、やっぱりこれも仕方がないことだ。気になっちまったんだからな。仕方がない。
人の関心浚うだけ浚って無視を決め込むのも傲慢なことだ。ちゃんと教えろよ、お前。

そういえばこの前娘が5歳になった。
ついこの前父親になったばかりのような気もするが、すくすくでかくなってくもんなんだな、子供ってやつは。


「ぶふっ」
「DIO様?どうなさいました」
「いや、いやなに、少しな、これが、ツボに入ったものだから」
「それは、ああ、お手紙ですか。空条承太郎からの」
「娘が5歳になったのだと、ふふふ、あの男が父親、人の親!いかん、腹が捩れそうだ」
「仰向けになられますか?」
「いい。そのまま続けろ、んっ……はぁ、あ……そこ、気持ちが、いいな……もっと……」
「仰せのままに」
「ふ……ふふ、ふ……娘、娘、なぁ……何年も何年も、行く先々で撮った下手な写真ばかりを送りつけてくるワンパターンなガキだと思っていたが……ふふふ」
「ご存じなかったので?」
「子供をこさえていたことはおろか、結婚をしていたことすら聞かされていない。いや、あの男のことだ……とっくに女には逃げられてしまっているのかもしれん……ふふふ、男手ひとつで小娘一匹を育て上げる承太郎か……本格的に腹が捩れてしまうな」
「左様でございますか」
「……?」
「……DIO様?」
「なんだ貴様、その顔は?」
「は?」
「何をそんなに微笑ましげな顔をしているのだ、テレンスよ」
「ああ……いえ、ふふふ。失礼を承知で申し上げますと、父親になったのだという空条承太郎と同様、貴方様もこの数年でお変わりになられたものだなぁと。少々感慨深く、そう思ったのでございます」
「そうか、わたしが。そうか、……ふふふ」
「おや……今日は随分と、お機嫌がよろしいようだ」
「ん、ふふ……貴様のマッサージが、中々に……気持ちが良いものだからな……ぁ、ふぅ……」
「恐悦至極に存じます。修行の甲斐がありました。まったく、貴方様のお陰でわたしはマッサージ師としても理容師としてもコーヒーショップの主人としても、果ては気象予報士としてでも生きていけるようになってしまった。勿論、執事としても」
「散々扱き使ってくれましたな、と言っているようにしか聞こえんぞ、テレンスよ」
「とんでもない。わたしの可能性を広げて頂けたことに、感謝をしているのでございますよ」
「ふふふ、どうだか」
「……DIO様は」
「ん?」
「差し出がましいことを申し上げますが、DIO様は。一体いつまで、このような小部屋に留まり続けるおつもりで」
「唆しているのか、このわたしを」
「いえ、いいえ。ただ不思議でならないのです。この部屋は貴方様の城とするには全く相応しくない、あまりにも狭すぎる。見たところ嗜好品の類に不自由はしておられないようだし、監視付ではありますが、こうしてわたしや、いつぞやの神学生などと対面する機会が設けられていることも知っています。満足にお体を起こすことができなくなってしまわれたことを除けば、カイロに居を構えていた頃とそうお変わりのない生活を送られているのでしょう。
しかし――しかしDIO様。貴方様はこんなベッドの上に縛り付けられたままで、本当にそれで、」
「思うに、準備期間が足りなかったのだ」
「……準備期間?」
「海から引き上げられておよそ4年。ジョースターの血族を迎え撃つための準備期間としては、恐らくいささか短かった。なのでわたしは迂闊にも負けを許し、このような小部屋に押し込まれる羽目になってしまった。だからな、テレンスよ。わたしは同じ轍を踏まぬ為に、今しばらくは大人しく時を待つつもりでいる。なにせわたしに用意されている時間には限りがない。いずれ、この世の夜に返り咲いてみせるさ。貴様が生きている内にその姿を見せてやるという約束はできないが」
「ははあ。随分と、息の長い計画を」
「わたしに死はない。首が胴から離れても死ななかった。頭から爪先までを豪快に断ち割られても死ななかった。もう歩けやしないし、自力で起きれもしないのに、それでもわたしは生きている。わたしが死ぬことはない、永遠に。生き急ぐのも馬鹿馬鹿しい話だと思わんか、テレンスよ」
「貴方様が空条承太郎からの手紙で無聊を癒す半世紀を選ばれるというのなら、この執事は付き従うのみでございます」
「何故そこで承太郎が出てくるのだ」
「いえなに、随分と嬉しそうに彼からの手紙と写真を眺めていらしたようにお見受けしましたので」
「違う。こんなものはただの紙切れだ、楽しみなどにしちゃいない。奴が何年もせっせと寄越してくるものだから、目を通さずに捨ててしまうのも可哀想だしという慈悲の心で以てわたしはだな、おい貴様何をにやにやと、っ、ふぁあっ」
「DIO様。腰の辺りの筋肉が随分と張っておられます。またお行儀の悪い姿勢で本をお読みになっていたのでしょう」
「あっ、ひ、ひぎっ、まてっ、ま、あ、ぁっ、て、てれんすっ、てれんすっ、や、いやぁっ、あっ」
「ふふふ。何事もこの世の頂点に返り咲く為の我慢、でございますよ、我が主」
「てれんす!きさまてれんすぅ!おぼえていろよこのだめしつじっあっああああぁあ~……!」



近頃は写真ばかりで手紙を書いてなかったような気がしたのでペンを取ってみた。
が、いまいち今更お前に伝えねばならんことが見つからん。何を書いたものかと、かれこれ30分はデスクで頭を抱えている。
やり取りを始めた当初なんかは、便箋一枚なんてすぐに埋まっちまったってのにな。
今にして思えばあれは手紙なんかじゃあなかった。日記だ。俺はお前に、せっせと日記を送っていただけだった。どこへ行っただの何を食べただの、こういうものを買ってきただの。正直読んでもクソつまらんかっただろうと思う。悪かった。
それでもお前は律儀に返事返してくれたよな。いつだって長くて3行の素っ気ない返信だったが、写真を送りつけるだけになってもお前は変わらず返事をくれた。
嬉しかった。正直に言うぞ。嬉しかった。
お前からの、やれ写真のピントがずれている、わたしはどこそこへ行ったことがある、貴様が寄越した写真に写る景色よりも美しい眺めを知っている、ひたすら『空条承太郎』って名前を下手な漢字で書いただけの返信もあったな、そんな返事が楽しみだったんだ。
多分俺は、お前から返事をもらう為に手紙を出し続けてきた。そんな気がしないでもない。
手紙でよかった。顔を見ながらこんなことが言えたものか。


海で朝焼けを見てきた。写真を同封しておく。
何度見ても飽きない景色だ。


「――父さん、父さん」
「…………ん?……んん?」
「よかった、生きてた」
「……寝ていたのか、わたしは?」
「ええ、ぼくがここへ来た時にはぐっすりと。冬場の床は、冷えますよ」
「わたしにはー体温などないのだからぁー冷えるもーなにもぉー」
「はいはい、むにゃむにゃするのはベッドに行ってからにしましょうね。大体あなた、こんな所で何をして……それは?」
「……ん?」
「手紙ですか?」
「ああ……ああそうだ、手紙だ、手紙……まだ返事を書いていなかったことを、思い出して……」
「と、父さん。ちょっと、重いです。うとうとするのもベッドに行ってからにしてください。すぐスタンドで運んであげますからね。揺れても文句言わないで下さいよ」
「ハルノ、ペンと便箋も」
「はいはい」
「一年だ……一年も、返信をしていなかったことを忘れていた」
「一年というと、ぼくがあなたを引き取った頃になりますか。――ああ、消印が丁度、ぼくが研究所に乗り込む一週間前だ。仕方ないですよ、あの時は相当ばたばたしてましたし」
「ハルノ。手紙とは不思議なものだな」
「なんです、急に」
「わたしはその手紙の差し出し主と、かれこれ20年は会っていない。もう声などは覚えていないし、容貌だって曖昧だ。顔を合わせ言葉を交わした時間よりも、会っていない時間の方が何十倍も長いのだ。なのにその紙切れ一枚を読んだだけで、まるで今の今まで共に過ごしていたような気分になる。同封された写真を見るだけで、あの男と共に旅をしたような気分になる。――不思議なものだ、本当に」
「ふふ、感傷的なことを言いますね。らしくないな。降ろしますよ」
「ん」
「今日はこのままこっちに泊まるつもりです。用事があれば言い付けて下さいね」
「ギャングのボスというのも案外暇なものなのだな。つい3日前も泊まっていったばかりではないか」
「父親思いの息子だと言って下さい」
「では、父親思いを通り越して少々ファザコン気味である我が息子よ。ひとつ、尋ねたいことがあるのだが」
「はい、なんでしょう」
「わたしは美しいか。この2013年の冬、お前の目に映るこのDIOは」
「ええ、とても」
「1年前のわたしよりも?」
「ええ、ええ。身体の具合が快方に向かうにつれ、あなたばどんどん美しくなってゆくようだ。きっとそれがあなたの本来の姿なのでしょうね。研究所で初めて顔を合わせた時のあなたは弱り切っていて、とても正視できる姿ではなかった。醜かったのだと言いたいのではありません。あまりにも痛々しかったのです。でも今は、そんなことを聞けるようになれるほどの元気を取り戻せているようですし。感謝してくださいね、『おとうさん』。その美しさは、父親思いの息子による献身のお陰です」
「ふふ、誰かによく似た物言いだ」
「で、それがなにか」
「写真をな、1枚ばかり。わたしがファインダーに映し出されるに耐えうる姿を取り戻せているというのなら、ここいらで1枚、承太郎に写真を送りつけてやろうと、このDIOは」
「すぐに用意させます。写真はぼくに取らせてくださいね」
「何故?」
「ぼくが誰よりもあなたを美しくファインダーに映し出す自信があるからです――なぁんて、ね。空条承太郎氏の写真があまりにもよく撮れているので、ぼくも真似をしてみたくなっただけですよ」
「このピントのずれた海の写真が?ハルノ、もしや貴様節穴か」
「ずれているのが、いいんじゃあないですか」



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