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3

つい先ほどまでは部屋中に響いていた荒い呼吸の音もいつの間にか鳴りやんで、DIOは承太郎に背を向けたままくったりと横たわっている。物も言わず身じろぎのひとつもないその姿は、さながらよくできた死体である。承太郎の呼びかけの3回に1回は返事をするあたり、辛うじて意識を失ってはいないようだった。
「寒くねぇか」
「…………」
「そろそろ風呂行くか」
「……んー……」
「……腹減らねぇか」
「…………んー……」
ベッドの縁に腰かけぼんやりと煙草をふかしながら、承太郎は過ぎ去った嵐について回想する。本来の承太郎は、終わってしまった性行為の記憶を何度も再生しては、その感慨に浸るような女々しい男ではない。しかし数10分前に一応の終わりを迎えたDIOとのそれは、きっと生涯に渡って忘れることがないのだろう記憶となって承太郎の脳に焼き付いて、わざわざ思い返そうとしなくなって目を閉じれば瞼の裏に鮮烈に浮かび上がってくるのだった。


『――ぁ、ひぅ、ぁ、あ、あ、ひぃ』
『……随分余裕が、なさそうに見えるんだが』
『ひ、ひさしぶり、だからなッ、ぁ、あぅ、ゃ、い、っ、ぁ』
『いいか、DIO.、痛くないか、気持ち悪いとか、そういうのもねぇか』
『な、ないっ、だ、だいじょうぶ、き、きもち、いい……』
はじめ、充分に濡らした指を侵入させたDIOの体内は、きつく承太郎を拒んでいた。異物感と痛みに眉を顰めるDIOはどう見たってそっちの経験も豊富なあばずれなどではなく、初めて男を受け入れる瞬間に体を強張らせる処女である。それでも口では『平気平気』だとか『もっと強引にぐりぐりと突っ込めばすぐ解れる』だとか適当なことを言いつつ行為の先を促し続けるものだから、承太郎はたまらない気分になるばかりだった。
『分かるか?もう3本入ってる』
『そ、そんなに……』
『……ああ、だからもう少しだ。もうちょいとだけ、我慢してろよ、DIO』
『う……うむ……』
承太郎は時間をかけて、それはもう丁寧に丁寧にDIOの内壁を愛撫した。熱い体内を掻き混ぜるように指を蠢かせ、火照って色付く白磁の肌を、慈しむようにどこもかしこにも口付けた。
『――ひっ、ああ!?うあっ、ぁ、そ、そぇ、あ、な、なんだこれっ、ひ、あ!?』
前立腺を執拗にこねくり回してやれば、引き締まった腰は浮き、DIOは目を見開いて身悶えた。そこら辺でどうにもあばずれ気取りの意地は一旦途切れてしまったようで、なんだこれおかしい、おかしい、と喚きながら大粒の涙を零したのだった。
承太郎は、DIOを落ち着かせるべくたくさんのキスをした。たくさん、たくさん。涙の溢れる目尻にだって、溶け落ちそうなほどに熱くなってしまった頬にだって、そして、何度も何度も触れるだけのそれを交わした唇にだって。唇同士が触れ合った途端にDIOはぴったりと押し黙り、口の端からはーはーと荒い息を零しながら一心に承太郎を見つめていた。求められているのだ、と承太郎は思った。承太郎は己のキスによってDIOの胸中に生まれる安堵の存在をしりやしないのだが、それでもDIOがこの触れるだけの行為に何某か大切な意味を見出していることには気付いていた。だから、何度も、何度も、何度も。自分はお前のことを欲しているが、同じだけお前にも俺のことを求めて欲しいのだと、そうした青い欲求を塗り込むように、承太郎はひたすらにキスに耽ったのだった。
『――じょー、た、ろぅー……』
一瞬唇が離れた拍子に、DIOが承太郎の名を呼んだ。なんの意味があったわけでもない。ただ視界いっぱいを占領する承太郎の、汗にまみれた精悍な顔が愛おしくて、名を呼ばずにはいられなくなってしまったのである。
承太郎は、許されたのだと思った。DIOは何も言ってはいない、自分の勝手な解釈だ、とは理性では理解しつつも、それ以上にその先の行為を許されたのだ、という思い込みが、衝動を加速させるばかりだった。
『――いいか、挿れても』
形だけは、問いかけた。
『ふふ、ふ――大事に、な』
涙で滲む赤い瞳をすっと細め、DIOは承太郎の本物の許可を与えたのだった。


「――おい……聞いているのか、承太郎……」
「ん、ああ……」
突然のDIOの呼びかけに、記憶の再現は打ち切られる。灰皿に煙草を押し付けながら後ろを向けば、寝返りを打ったDIOがぶすったれた顔でじぃと承太郎を睨みつけていた。
「寒い」
「は?」
「さっき聞いただろう、寒くはないかと。だから答えた。寒い」
「ああ……まあ、そりゃそうだろうな……」
掛けてやったはずの羽毛布団はベッドの下に蹴り落とされ、衣服は承太郎が着ていたシャツを肩にかけているだけだった。見ている方が、寒々しさを覚える姿である。そろそろ春も盛りの時期ではあるが、未だ夜は冷えているのだ。
「承太郎」
「なんだよ」
「言ったろう。わたしを抱き締めることを許してやると」
「……そうして欲しいなら、してくれってちゃんと言うべきなんじゃあねぇのかよ、DIO」
「愛があれば分かるだろう。承太郎、わたしは寒いと言っているのだ」
「……りょーかい」
ベッドサイドから拾い上げた羽毛布団を、承太郎はそっとDIOの上に被せた。そして自身も布団の中に滑り込み、そっとDIOを抱き締める。DIOも承太郎の胸に顔を埋めると共に広い背へと腕を回し、ふう、と小さく息を吐いた。
「風呂は」
「まだいい、だるい」
「腹は」
「少し減った……が、あとでいい……」
「……なんか、して欲しいことは」
「今、してもらっている」
「……へそ曲がりか素直か分からんな、今のてめーは」
「うるさい……わたしをおかしくしたのは、承太郎だ……」
うりぃ、と低く唸りながら、DIOは爪先で承太郎を蹴った。それが最後である。DIOはすっかり黙り込んで、うりうりと承太郎の胸元に額を押し付けるのだった。
(おかしく――なぁ)
それを言われると、弱い。
DIOの頭を撫でつつ目を閉じれば、再び瞼の裏に蘇るのはDIOとの行為の記憶である。


後孔からの快感にとろとろと表情を崩すDIOを見て、承太郎はこれはいける、失敗せずにこのセックスをやり遂げられると確信した。DIOにしたって同様で、3本の指で中を弄られることがこんなにも気持ちが良いというのなら、性器を挿れられたその時の快感とは果てしないものではないのかと、間近まで迫った『本番』への期待に胸を高鳴らせた。
――果たして、挿入のその瞬間に確信も期待も見事粉々に打ち砕かれる未来などを知る由もなく。
『~~っ、ひっ、く、ぅ、ぅぅう……!!』
『お、おい、お前ッ』
『な……泣いてなど、いないぃぃ……このDIOはっ、泣いてなどぉ、ぅ、ひっ、く……!!』
最早涙が滲むとか、思わず零れてしまうとか、そういう次元ではない。まごうことなきマジ泣きである。巨大な性器に押し広げられた後孔の、肉が引き裂かれるような鈍い痛みは、堪え切れぬ涙としてぼたぼたとDIOの眦から溢れる一方だったのだ。
承太郎は焦った。それはもう、死ぬほど焦った。
承太郎だって性器をきつく締め上げられる酷い圧迫感に全身が強張っていたし、結局はDIOに痛い思いをさせた挙句泣かせてしまった不甲斐なさに酷い後悔を覚えたものである。しかしDIOの涙がシーツにまで零れ落ちた瞬間にはそうした感情諸々が綺麗さっぱり吹き飛んで、とにかく早く抜いてDIOを楽にしてやらねばと、それだけの焦燥にばくばくと心臓を高鳴らせたのだった。
なので、抜こうとした。とにもかくにも抜いてしまわねばと、DIOの腰を掴んだ両手に力を入れて、一気に腰を引こうとした。
――その一連の行動を、手に力を入れた辺りで中断させたのは、がっちりと承太郎の腰に絡んだDIOの白い脚だった。
『ひぃ……~~!!!?』
力の働きに従って、性器は引き抜かれるどころかより深い部分まで突き進む。DIOは畳み掛けるような痛みに更なる涙を流し、それでも承太郎に絡めた脚を離そうとはしなかった。
『な――にをやってんだ、てめぇは!』
『じょ……じょうたろう、がぁっ!びびって守りに入ろうとっ、するものだから、このDIOが……このDIOがっ!せ、背中を押してやったのでは、ないか!』
『お前、』
『お、押したのは腰であるのだがなッ、ふふ、ふ、ふ!』
脂汗と涙に塗れた顔を下手な笑顔に歪め、DIOは承太郎を嘲った。承太郎は衝動的に溢れそうになった涙をこらえ、DIOの唇に噛み付いた。ここまできて触れるだけだ、と生温いことは言っていられなかった。口内を貪り、貪り、熱く舌を絡め合う。時を忘れてキスに耽り、その間もDIOの脚が承太郎から離れることはない。好きだ、好きだ。キスの合間に何度も何度も、切実の滲む声で囁けば、そのたびDIOは知ってる、知ってる、何度もしつこいと、上擦った声で返答した。
『――早く動け、承太郎』
『……いや、でもお前』
『つまらん抱き方を、しようものならば……蹴り落とすと、言った、だろう……?』
『……だって泣くだろ、お前』
『き……気持ちがよすぎて、なくことも、ある……』
『おいDIO』
『承太郎』
DIOは承太郎の耳を引っ張って、熱の気配が残る唇に触れるだけのキスをした。
『――わたしを誰だと思っている?貴様の目には、貴様如き若造の1人すらも受け止めきれぬ狭量な男と映っているのか、このDIOは?……承太郎、』
そして、承太郎の眼前で微笑んでみせるのだ。DIO自身に自覚はないが――まるでDIOらしくはない、穏やかも穏やかな微笑みを。

『……わたしだって、お前が欲しい』


「ぅ、お、重っ……!?」
ぱちっと目を開いた承太郎の目に映ったのは、薄ぼんやりとした闇のたち込める天井である。胸部を圧迫する異物感に慌てて視線を落としてみれば、胸の上にはでんと派手な金髪の塊が乗っていた。それどころか、抱え込んで寝ていた筈のDIOが半ば承太郎に乗り上げるようにして、俯せになっている。思わず金の髪を引っ張ると、DIOは緩慢に顔を上げ、ふるふると首を振った。
「痛いぞ、承太郎の阿呆」
「こっちは重ぇんだよこら」
「しかしお前は耐えられるのだろう?わたしのこの、0.1tの重量にも軽々と!なにせ、愛なるものに縛られているわけであるからして!ふっふふふ、愛とは難儀なものであるのだな、承太郎よ」
「何をお前、覚えたての言葉使うガキみてーに……くそ、愛があろうがなかろうが重いもんは重いんだよ、オラァ!」
「WRYY!?」
承太郎はDIOの体を跳ね除けて上体を起こし、逆に仰向けになったDIOをシーツの上に組み敷いた。一瞬目を見開いたDIOは、しかし次の瞬間にはとてもとてもDIOらしい、いやらしい笑顔に芸術品じみた顔を歪めていた。

「好き。承太郎は、このDIOが好きでたまらない。なんと――なんと馬鹿げた話があったものだろう。そんな感情が生まれねばならぬ繋がりなど、わたしたちの間にはなかったはずであるのにな、承太郎、承太郎よ」
「――、」

返せる言葉は、なかった。承太郎がDIOへ抱く行為について、承太郎には承太郎なりの理屈がある。しかしそれをうまく言葉で言い表せるかどうかはまったく別の話であったし、加えて規格外の吸血鬼に正しく伝えられるのかと言われれば、難易度は10ランクばかり跳ねあがってしまうのだろう。
だからもう暫く本心は秘めておくつもりにする――なんてのは甘えでしかないとは知りつつも、今はそれで構わないような気がしているのだ。


『――DIO、すきだ、DIOっ、DIO、おれは、お前がっ、どうしようもなく、お前が、いっそ……今日この日に死んじまっても、悔いはねぇんだぜ、ってくらいに、俺は!!』
『あ、はっ、ぁぐっ、ひ、は、はぁ……!』
『DIO……DIO……!!』
『は、はげしぃ、じょ、じょうたろっ、あ、し、しぬぅっ、あ、ひっ、ぁあッ』
『好き、だっ!』
『知っている!!』
『~~っ、お前は!』
『わ、わたしだって、お、お前を――』
痛みと快感が入り混じった感覚に涙を流して悶えながら、DIOは何度も何度も承太郎の背を引っ掻いた。一度DIOの中で放たれた精液で、結合部はぐずぐずに濡れていた。滑りがよくなった抽挿は激しさを増すばかりで、果てなどはないように思えた。最早、現実などはどこにもない。2人だけの夜が、確かにここにあったのだ。

『あ――あいして、いる……承太郎……じょう、たろう……!』

泣き叫ぶように零したその言葉は、120年と少しの人生にて、初めてDIOがその口で紡いだ他人への愛情だった。


承太郎はキスをする。角度を変えながら、繰り返しDIOへとキスをする。応じるように顔を傾けたDIOの、赤い唇はにんまりと弧を描いていた。なので承太郎も笑った。DIOが、嬉しがっているのだ。幸せそうに、しているのだ。だったら自分だって嬉しくて、幸せだ。そうであるに決まっている。

「ところで承太郎、体の調子も戻ってきたようであるし、そろそろ風呂に浸かりたいのだが」
「もうか?……タフだなお前」
「貧弱な人間とは違うからな」
「ああ、そうかい」
「上がったら、冷たいものが食べたい」
「もうねぇぞ。最後のアイス、昨日喰っちまっただろう、お前」
「ん、そうだったか?なら承太郎、わたしが風呂を使っている間にひとっ走り……」
「DIO?」
「いや、いい。なんでもない。さ、早くこのDIOを風呂にまで連れて行け。ついでにお前も入ればいい」
「……いや狭いだろ」
「わたしは湯船で寛ぐが、お前は洗い場にでも座っていればいい。何の問題もないだろう?」
「湯冷めしちまうぜ、このアホ」

そうして2人は起き上り、軽口のついでにキスをした。








7割の意地と3割のなんか不安になってるらしい承太郎への気遣いから経験豊富の振りをしてみるDIO様。でも詰めが甘いDIO様


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