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2

――泣いていない。わたしは決して泣いてはいない。
どれだけ自分に言い聞かせようとも涙腺の過熱は止まる気配がなく、それでもこのような惰弱だけは決して垂れ流してはならぬのだと、DIOは眉を顰めて落涙を押し止めた。承太郎の性器がでかすぎる――涙を零すには、あまりにもあんまりな理由である。
(し、しかしこんなものが突っ込まれるのだと思えば泣きたくもなってくるッ!大体なんだこれ!なんだこれ!でかすぎるだろう!?)
承太郎の性器は恐ろしく膨れ上がってしまっている。一度抜いてやれば、いざ本番という時には少しはましになるだろう――といった思惑で手淫を申し出、見栄を重ねた結果口淫にまで及ぶ羽目になったDIOであるが、恐る恐る両手で包み込んだそれは舌を這わすことすら躊躇われる恐怖の象徴として、滲みかけの視界を占領しているのだった。
「……いつまでも嬉しそーに眺めてんじゃあねぇよ」
(この、節穴!)
膝立ちになった承太郎は、気恥ずかしさを紛らわすようにわしわしとDIOの頭を撫でる。乱暴な手付きはしかし、確かなDIOへの愛しさに満ちていた。DIOは承太郎に気付かれぬように、音を殺して唾を飲む。そして上目で承太郎を睨みつけ、そっと、アイスクリームを掬い上げるようにそっと、脈打つ性器の側面に舌の先で触れたのだった。
「……、」
性器の表面に生々しく浮き出た血管を辿るように、DIOは手中のそれを舐め上げた。湧き出て止まない屈辱感は酷いものであったし、この所は忘れかけていた承太郎への憎しみもぶり返す思いである。反面舌先からやってくる甘い興奮には抗いがたい魔力があり、気付けばDIOは羞恥か屈辱か、あるいは歓喜かも分からぬ感情に頬を染め、一心不乱に口淫に耽っていたのだった。承太郎の、押し殺しきれない低い唸り声というのがまた、DIOをたまらない気分にさせるのだ。
「おい……おい、DIO」
「ん、ふぁ……?」
「それも、悪くはねぇが、そろそろ……咥えちゃあ、くれねぇか」
「く、咥える……」
「DIO?」
「う、うむ、く、咥えればいいのだな?この口で」
「ああ……んん?」
瞬間承太郎の胸中に生まれたのはとても小さな違和感だった。なにがどうと形容することはできないが、なにやらボタンを掛け違えたかのような、妙な居心地の悪さがあった。
訝しむように小首を傾げる承太郎に、DIOは焦る。焦燥のままに恐怖と嫌悪感を振り切って、自らの唾液で濡れたそれを己の口内へ導いた。
「……っ、んっ……っ……!?」
勢いよく咥え込まれた承太郎の性器が、ごり、とDIOの喉の奥を押し広げる。あまりにもの息苦しさに咳き込みそうになるも、DIOは承太郎の前では張り通すと決めた意地の一心で喉奥を締め上げて、溢れ出かけた咳を飲み込んだ。目尻から零れ落ちそうになった生理的な涙も同様である。垂れ流してはなるものかと上を向き、『でかすぎるわこの野郎』と嚢を握り潰して罵倒してやりたい凶悪な衝動をも嚥下して、DIOは目と口の端で承太郎へと笑いかけたのだった。
承太郎の目に映るDIOの姿は、立派にペニス狂いのあばずれそのものある。承太郎は、息を詰めた。そしてDIOの目尻で留まる熱い涙を拭ってやりながらも――何故か頭の片隅から離れてくれない、どうしようもない違和感に、内心首を傾げたのだった。
「は、……ふ、……ぅ、ぅう、ん……」
DIOの両腕が承太郎の腰回りに絡みつく。そして口内の性器に舌を絡めながらゆっくりと――本人的には結構な勢いでしゃぶっているつもりであるのだが、傍から見れば少々物足りなさを覚える程の緩慢なペースで頭を前後に動かした。じゅぶじゅぶと鳴る卑猥な水音に浸るように、やがてDIOはうっとりと目を閉じた。承太郎のものであると思えば、ちょっとばかりの苦しさすらも愛おしいような気がする。言葉にするにはあまりに馬鹿らし過ぎる感慨は、体のあちこちを弄繰り回されるよりも余程DIOの性感を煽っていった。
「…………――、」
反対に、承太郎の疑念は深まってゆく一方で、燃え上がるばかりだった熱は中途半端に落ち着きかけてしまっていた。咥え込まれた性器に与えられる快感はそう大したものではなく、それどころかちょくちょく歯を立てられるたびに快感を上回る痛みが発生する始末である。それでも視覚効果とは凄いもので、自分のものを咥えるDIOを眺めているだけで、沸々と湧きあがる興奮に勃起は維持できてしまうのだ。
「DIO、……おい、おい」
決定打に欠ける快感程辛いものはない。承太郎は眉を顰め、下を向いていたDIOの顎に指を掛ける。DIOは睫毛を揺らしながら目蓋を持ち上げ、まっすぐに承太郎の両目を見上げた。涙の膜の張った赤い瞳はこれまでに見たことがないくらい淫猥であり、けれどどこか、妙に健気な色を湛えている。喉を鳴らしながら、承太郎は唾を飲む。『お前、なんか妙に下手じゃあないか』。DIOに投げかけようとしていた疑問と共に。
「……じょぉたろぉ?」
(……もしかすると、俺は何かひでぇ勘違いをしてるんじゃあ)
「ふ、ふふ、ふ」
(……いいやしかし……)
「じょぉ、たろぉ」
DIOの赤い唇を押し潰しながら、赤黒い性器がずるりとその口内を抜けてゆく。そしてDIOは今の今まで咥えていたそれに頬ずりをしながら、いやらしく微笑んだ。赤らんだ顔でDIOを見下ろし硬直する承太郎の様子を、すっかり己が施したフェラチオにやられてしまっているのだと思ったのである。可愛らしいものだ、と先端にキスをすれば、しょっぱい先走りが滲み出た。
(……やたら場馴れしたクソエロい面してるくせに、どうしてしゃぶるのはド下手くそなんだ……?)
既に――承太郎は、なんとなくではあるが、その理由に当たりを付けている。よくよく考えてみれば、DIOがそっち方面に慣れていると思っていたのは本当に思い込みでしかないわけで、実際に承太郎はDIOから経験は豊富なのだ聞いたわけではない。そしてそこに『そうであってくれた方が慣れない同性とのセックスでDIOにしんどい思いをさせずに済むかもしれない』といった、願望交じりの思惑が挟まれていなかったといえば嘘になる。
おまけにDIOという吸血鬼は、山より高く海より深いプライドをその胸に抱え込んだ輩なのだ。承太郎に『頼む』と零されてしまっては、『いいやわたしにリードできる程の経験は』なんてことを口が裂けても言えるはずがない。少なくとも、承太郎の知るDIOとはそうした男なのだった。
一度そうと思ってしまえばもうそうとしか考えられないもので、承太郎のもやもやとした『なんとなく』は殆ど確信に変わっている。思い返してみれば、『抱かせてくれ』と頼み込んだ時のDIOの態度は少々煮え切らなく感じるものだったのだ。あれは、困惑をしていたのではないか。自分はもしや、大事にしたいはずのDIO相手にとんでもない無体を働いてしまっていたのではないか――果てしない罪悪感に突き動かされるように、承太郎はDIOの頬を両手で包み込み、性器から遠ざけるように上を向かせた。
「……DIO」
「ん?」
本当に『そう』だとするのなら、これほど心苦しいこともない、とんでもなく申し訳ないと思う。しかし、張り通さずにはいられなかったDIOの意地への愛しさは、己の若さと甘えを受け止めてくれようとしているDIOの健気への、これ以上ないってほどの感動は――余すところなくDIOを求めて止まない渇望へとすり替わり、そしてそれはどうしようもない性欲として、承太郎の頭から爪先までを支配する。つまり頭ではいくら無理強いをしたことを後悔したって、熱く火照る体は今更止まっちゃくれないのだった。
「……口は、もういい。手だ、手でしてくれ」
「はあ?」
「その、疲れたろ?」
「……はあ?」
「……顎とか?」
「なんだその煮え切らん態度は……まあ、手の方が楽といえば楽なのだが……」
「なら、手でいい」
「いいのか、本当に?こう、わたしの口の中にぶちまけたいとか、溢れんばかりの精液をごっくんさせたいのだとか、そういうのはないのか承太郎?」
「そういうのは、また今度だ」
「……今度。今度と来たか、ふふふ」
「なんだ、急にニヤニヤと」
「お前は当たり前に、この次があると思っている」
「……なにか問題でもあるのかよ」
「いや、いいや――ふふふ。承太郎は、本当にこのDIOが欲しくてならんのだな」
「ずっとそう言ってるだろうが」
満足げに、DIOが微笑む。手でしてくれ、と言われた瞬間にはもしや未経験であることがばれたのでは、と肝を冷やしたものの、言動の端々からこれでもか!と伝わってくる承太郎の執着心に、笑わずにはいられないほどの喜びを感じてならなかったのだ。勿論、DIOはそうした本心を承太郎に伝えてやるつもりはない。
――承太郎などは、自分がどれほどこのDIOに想われているのかも知らんまぬけの馬鹿でいるといい。永遠に。
勝ち誇ったように、DIOは益々口角を吊り上げた。
「――ん、っ、は、ぁ……ぁ、……」
育ちきった性器に絡む真っ白の5指が、承太郎を高めてゆく。初めは恐る恐るだった指先から遠慮が剥がれ落ちるにつれ、粘着質な水音は激しさを増していった。承太郎は、先程の口淫よりも余程気持ちのいい手淫に息を荒げながら、わけもわからずDIOの髪を滅茶苦茶に掻き乱す。どこでもよかった。とにかくにも、DIOという存在の一端に触れていたかったのである。
「随分とよさそうにしているものであるが、承太郎?」
「ああ、くそ……なんだこれ、なんつーか……ん……よすぎて、引くっつーか、もう、なんか……」
「ふっふふふ!扱かれているだけでこれだものなぁ!射精なんぞしようものなら死んでしまうのではないか、お前」
「っ、してみねぇと、分からねぇよ」
「ん、なんだ?イきたいと言っているように聞こえるが、承太郎」
「そう言っているつもりだッ!」
「ふふん、普段からそうやって素直にしていればよいのになぁ」
「あ……!?」
はち切れんばかりに膨張した性器の先端に、DIOの真っ赤な唇が寄せられる。そしてちゅっと可愛らしい音を立てながら、啄むようなキスを落としたのだった。瞬間、押し寄せる官能の波に承太郎の熱は決壊した。視神経が焼き切れて視界は白み、下半身は爆発するように熱くなる。気付いた時には、承太郎は己の放った白濁に塗れたDIOの顔を、ぼんやりと眺めていた。
「わ――悪ぃ」
射精の快感に飛んでしまった意識が回復するやいなや、承太郎は手繰り寄せた服の端でDIOの顔を拭う。遠慮容赦のない手付きにDIOはぶんぶんと首を振った。
「んぶっ、お、おいッ、こらッ、承太郎、痛い!」
「よし……綺麗になった」
「ふ……ふ、ふふん、何を言う。精液に塗れたわたしだってこう、普段とは違った美しさというか、こう、劣情を掻き立ててならんものがあっただろう?そんな申し訳なさそうな面をしてみるよりも、正直にペニスでもおっ勃てながら『興奮しました』と息を荒げている方が、可愛げもあろうというのにな」
本当はいきなり顔と髪に降りかけられた精液の熱さに驚き呆然としていたDIOであったが、あばずれを演じるためには『べたべたする!変な味する!気持ち悪い!』と正直な感想を漏らすわけにはいかないのである。追い打ちをかけるべく、拭き残した白濁の絡みつく髪を摘まみ上げながら微笑んでみれば、承太郎は手にした布を放り出し、DIOを抱き込み覆い被さるようにシーツの上へと倒れ込んだのだった。
「――できるだけの努力はするぜ」
「うむ?」
居た堪れなさと愛しさに押し挟まれながら、それでもDIOへの劣情は静まる気配がない。好きだという言葉では収まらないほどに欲しくてならないのだと、そんな想いばかりが溢れて止まないのだ。
「なにやら……今日の承太郎は妙にしおらしくて、ちょっとばかり、気持ち悪いな」
そうしてDIOは、承太郎の想いが如何ほどの深さであるのかも知らずにくすくすと笑うのだ。承太郎だって、DIOが態度で示す以上の想いを自分に傾けているのだということを知らずにいる。
承太郎は、持ち上げたDIOの手の甲に口付けた。DIOは虚を突かれたように目を瞠り、承太郎を見る。その顔があまりにも愛おしかったので、承太郎は笑った。DIOの目は益々見開かれてゆくばかりである。

「大事にする」

特濃の愛情そのものである一言に、DIOは思わず赤面した。誤魔化すように乾いた笑い声を漏らしながら『粗末にしたら殺してやる』と答えれば、すかさず降ってきた承太郎の唇がDIOのそれを柔らかく塞いだのだった。DIOは、ただ触れるだけキスの、たったそれだけの行為から生まれる正体不明の安堵に浸るよう、ゆっくりと目を閉じた。



 
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